剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!

月芝

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024 人禍獣

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 ようやくさらわれていた海の民たちを発見!
 鉄の大扉を前にして単純によろこぶわたしとはちがい、ホランはムズカシイ顔をしている。眉間にシワを寄せたせいで、頭の傷に巻いてある布きれに薄っすらと血がにじんだ。

「追い込まれた先が、たまたまネクタルたちの捕まっている場所だと?
 そんな偶然、あるわけがない。どうやら意図的に誘導されたらしいな。
 だがいったい何のために?
 あの女はこちらの潜入目的までは知らなかったはず……」

 ホランの懸念はごもっとも。だがどのみち先へと進むしかない。
 なぁに、人質さえ奪還してしまえばこっちのもの。もう遠慮はいらない。天剣(アマノツルギ)たちを存分に暴れさせられる。
 とはいえ油断は禁物。肝に銘じたところで、わたしたちは扉の向こうへと。
 大きな扉は壁にあった輪っかをひっぱったら自動で開いた。

  ◇

 足を踏み入れたとたんに感じられたのは、歪な空気。
 一切のホコリっぽさがなく、また海の香りもしない。
 まるで火にかけて煮沸された水のように雑味がない。だがそれゆえに不自然でもある場所。
 よくよくニオイを嗅いでみると、鼻の奥にツンとくる刺激臭が微かに漂っていることに気がついた。
 これがいろんなモノをムリヤリに抑え込んでいるのだろうか。
 無機質で人工的。
 何やら胸のあたりがザワつく。森育ちのわたしとしては落ちつかない空間だ。
 白を基調とした明るい室内には、そこいらに使途不明の機材がいっぱい並べられてある。天井にも壁にも床にもたくさんの管があって、浮き出た人間の血管みたいでちょっと気持ち悪い。
 何かを洗い流した直後なのか、床はびちょびちょに濡れていた。
 部屋の隅には、からっぽの大きな檻。

「うーん、誰もいないねえ」
「あちらのようですわ、チヨコ母さま」

 帯革からミヤビがうながしたのは、さらに奥へと続く扉。
 室内には他にもいくつか扉があったものの、そのすべてにしっかりと鍵がかけられており、ビクともしない。
 ことここにいたっては、いかに鈍いわたしでも認めざるをえない。
 どうやらホランの心配が的中してしまったようだ。
 理由はわからないけど、わたしたちはあの女海賊か、あるいはべつの誰かの思惑通りに動かされている。
 いささか業腹な展開。だがいまはそれに乗るしかない。

 奥へと通じる扉はとても重かった。
 ホランとわたしが二人がかりで思いっきり押して、ようやくゆっくりと動きだすほどもある。それもそのはずだ。扉の厚さがガッチリした男の人の肩幅ほどもあったのだから。
 半開きとなったところで、隙間から中へと身を滑り込ませる。
 入ったとたんにわたしたちは「ギョッ!」
 室内は真っ暗。自分たちの周辺を照らす明かり以外に光はない。
 じゃらりと鳴ったのは鎖の音か。「ガルルルル」という低い唸り声も聞こえてくる。
 闇の中に膨れあがる気配は、何者かの激しい怒気。
 ホランがわたしを庇うようにして前に立ち、警戒を強めたところで室内が一変。
 すべての黒が消し去られて、世界が白へと塗り替わる。
 照明がつけられたのだ。
 通常の室内のソレとは比べものにならないほどの明るさ。
 暗闇に慣れかけていたので、あまりのまぶしさにわたしは目がくらむ。

  ◇

 視力をとり戻したとき。
 背後の扉はピタリと閉じられ退路が断たれていた。
 そして目の前には、何本もの太い鎖にて繋がれている二体の異形……。
 一体は大きな尾を持ち、地を這う巨大なサソリのような姿をしている。
 でも全身をおおっているのは昆虫の外殻ではなくて、赤黒い筋肉の鎧。
 頭部には角の生えた石膏の仮面のようなものが張りついており、白目のない真っ黒な瞳がガラスのようにテカっていた。
 もう一体は蝋のように白い色をした背の高い人型。
 ただしカラダを構成する各部位がとても長い。胴体は長く、手足も長く、首も長い。そんな長い首の先にある頭には石膏の仮面のようなものをかぶっており、こちらの双眸もまた黒一色。胸や腰まわりの形状からして、なんとなく女性っぽい印象を受ける。

「なにこれ、禍獣なの?」

 わたしは異形たちの迫力にビビりまくり。

「さぁな。だが、こいつらと戦わせるために、わざわざオレたちは招待されたらしいぞ」

 ホランは腰の剣を静かに抜き、正眼にかまえる。

 プシューと空気が抜ける音がして、ガチャンガチャンとはずれていくのは異形らを拘束していた鎖たち。
 次の展開が容易に想像できたわたしは、帯革内からすかさず天剣三姉妹たちを呼び出そうとする。
 けれども、それをホランが小声で「待て」と制した。
 こちらにだけ見えるように指し示したのは部屋の上部。
 まぶしい照明にてよくわからないけれども、どうやら上からわたしたちのことを観察している誰かがいるらしい。
 つまりホランは暗に「まだ手の内をさらすな」と伝えているのだ。
 とはいえ無手で対峙するのは、あまりにも心細い。
 そこでわたしは大地のつるぎツツミが変じた金づちを手にとり、ミヤビとアンには待機していてもらうことにする。
 ツツミは自重を変化させられる能力を持つ。当たる瞬間だけ重くなってドッカン攻撃が可能だから、小さい姿のままでもそれなりに戦える。これならば見た目の変化がなく、攻撃内容も外からはわかりにくいから、見破られる心配もなかろうとの判断である。
 というわけで双方の準備が整ったところで、異種格闘技戦、開始!


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