剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝

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011 出立の前に

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 紹介されたパオプ国の女武官シルラさんをひと目で気に入ったわたしは、「どうかな?」と我が子たち(剣と鎌)にたずねてみたところ、娘たちの回答はこうだ。

「好人物であることは認めますわ。ですが雑なのがちょっと」とは勇者のつるぎミヤビ。
「……グイグイくるのが、イヤ」とは魔王のつるぎアン。

 そうなのだ。
 娘たちの言う通り、シルラさんはとても気持ちのいい人物だけれども、万事が大雑把というか、いささか繊細さに欠けていた。
 男だからとか女だからとか武官だからといった問題ではなく、彼女自身の生来の気質ゆえっぽい。
 肩をポンと叩いて「よろしく」で、うっかりわたしの鎖骨がペッキリ逝きかけた。
 懐にいたミヤビが危険を察して、とっさにビクンと反応してくれたおかげでギリギリ被害を免れたものの、じつに危ういところであった。
 この人、ぜったいに鼻歌まじりで扉とかを足でバタンと閉める人だと思う。
 これがミヤビをして雑と言わしめた理由。
 もともとパオプ国の人間は他者との距離が近いらしく、握手から抱擁、ときには頬ずりまでもが挨拶の一連の流れとなっており、会話のときにもしっかりこちらを見つめて、かなり顔を寄せてくることさえある。
 あいにくとわたしはまだ経験していないが、いわゆる恋人同士の距離っぽい。
 これがまたびっくりするほどに近いのだ。かつて両親や愛妹以外には許したことのない領域に、ズカズカ踏み込んでくる。
 これがアンをして「グイグイ」と言わしめた理由。

 そんなシルラさんがわたしを連れてパオプ国へと向かうときいて、不安を感じなかったといえばウソになる。
 しかも付き添いはナシと聞かされればなおさら。
 道中のことに関しては一切合切、パオプ側が派遣した使節団が責任を持つ。
 それゆえに関係のない者は遠慮して欲しいとの申し出。
 いささか横柄というか、不躾な物言い。
 とはいえ、気持ちもわからなくはない。
 なにせ女王自らが筆をとっての剣の母の招聘。おいそれとは外部の人間を絡ませたくはないのだろう。
 まぁ、わたしは神聖ユモ国の住人ではあるものの、国家という組織に所属しているわけではない。えらい人たちからのお願いには、わりと素直に従っているけれども、あくまで善意の協力であり、公的には無所属という立場。
 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
 これを産み出す母体に選ばれた、わたしこと剣の母チヨコは自由人。
 勝手ごめんとまではいかずとも、少なくともひとつの国が独占していいものではないとの認識が大勢。
 だからきちんとした要請があり、通すべき筋を通し、これをわたしが受諾すれば、その時点で契約が成立しちゃう。
 もっとも国外へと出るのには、国境の関所を通らないといけないから、出国許可証なる手形が必要となるので、どのみち祖国の手のうえで動くことにはなるんだけどね。

  ◇

 出立前にいくつか用事を片付けておく。
 ひとつは以前に宮廷医師たちと約束した実験への協力。わたしの水の才芽を用いた新薬の開発などを手伝うつもりだった。
 でも、わたしは急遽遠い異国へと旅立つことになったので、かわりに神泉の井戸を掘っておく。これで存分に研究に励むがよい。
 いまひとつは紅風旅団のこと。
 ほんの少し前まで団員数四名という弱小集団だったのが、あれよあれよという間に膨れあがり、いまでは聖都で最大規模を誇る、よくわからない組織。
 こいつがまちがいを犯さないよう、副首領のアズキと彼女の義姉妹みたいな間柄であるキナコとマロンに、「くれぐれもよろしく」と念を押しておく。
 首領のわたしが留守中に暴走して革命バンザイとかされたら、たまったものじゃないからね。
 だから何か難題が持ちあがったら、ホランかカルタさんを通じて星読みのイシャルさまの知恵を借りられるように繋ぎをつけておく。
 これでどうにかなるだろう。もしも国一番の賢人の手に負えないのならば、それはもうしようがない。そのときは潔くあきらめようと思う。
 あとは迎賓館の庭にいる、三体のサクランの木の禍獣たちの処遇について。
 わたしの水と土の才芽と天剣のチカラが合算することで生じる禍獣化現象。この実証実験によって産み出された一号二号三号たち。
 これらは用件がすんで帰国次第、ポポの里へと移植されることが決まった。
 というか、「迷惑だから責任をとってどうにかしろ!」との上からの通達である。
 本来、サクランの木は有益かつ貴重な植物ゆえに、おいそれと下賜されたりはしない。
 うーん。褒賞のオマケにて、厄介払いもかねたのかしらん?

「剣の母」「商公女」「紅風旅団首領」「魔改造の女」「勇者殺し」ついでに「禍獣の母」という六つの称号というか、肩書きを持つ身はなにかと忙しい。
 後顧の憂いを絶つべく、細々としたことを片付けていたら、出立の準備の合間に顔を見せにきていたシルラさんが「チヨコは働き者だなぁ」と感心した。


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