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023 アメ玉と光石の森

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 意志薄弱にてダメな年上の後輩を見かねたディッカちゃん。「ついてくるのじゃ」とわたしを強引に連れ出す。
 向かったのは城内にある中庭というか、ヘンテコな空間。

 青緑色をした大小の巨石が乱立する場所。
 ちょっとした迷路のようになっている、ここは「光石の森」
 名前の由来はディッカ先輩が教えてくれた。
 幼女がその辺に落ちていた小石をひとつ手にとるなり、「てぃ」とぶん投げる。
 小石は最寄りの巨石に当たってコツン。
 すると巨石の表面に波紋のようなモノが浮かびあがり、その広がりに合わせて巨石そのものが薄ぼんやりと淡く輝くではないか!
 なんともふしぎな光景に「おぉーっ」とわたしは感嘆の声をあげる。
 そんな後輩の姿に、ムフンと得意げにディッカちゃんが鼻の穴を膨らませた。

「チヨコもやってみるのじゃ。つよく当てれば、その分だけつよく光るのじゃ。あとは石によってもびみょうに色がかわるのじゃ」

 言われるままに、わたしも試してみた。
 すると淡い青色やら赤色やら黄色やらと、ちがった色味を見せる巨石たち。
 しかも複数を同時に光らせると、なにやら「リーン」と心地よい澄んだ音色が響いて、よりいっそう幻想的な光景となる。
 もしもすべてを一斉に鳴らしたら、さぞや美しい光景になることであろう。
 わたしがそんな感想を口にしたら、その気になったディッカちゃん。

「ならやってみるのじゃ」

 手の平にあまるぐらいの大きさの石を持ったディッカちゃん。トトトと駆けだし次々に巨石をカンカン叩きまくる。
 幼女の動きに遅れることすぐ。
 巨石の色味が変わり、音も鳴り始める。
 多数の音が反響し、混ざり合い光が乱舞し、それはまさしく演奏のようになる。
 まるで夢の中にいるような心持ちとなり、わたしがぼんやり見ていたら、ディッカちゃんが「ほら、チヨコもいっしょにやるのじゃ」と言った。
 で、わたしは「よっしゃあ」と腕まくり。「よかろう。ここは一丁、お姉ちゃんの実力を見せるとしようか」
 辺境育ちと勇者のつるぎミヤビ、魔王のつるぎアンを用いて鍛えられたこの身に宿るチカラを駆使し、姫さまの尊敬を存分に勝ち取るとしようではないか。
 シュタタタと健脚を活かし疾走。
 そして二刀流石さばきにて、次々と巨石を叩きまくる。
 さらには小石を盛大に空にバラ撒き、降らせるというオマケつき。
 キンコンカンのパラパラリ。

 わたしの活躍とディッカちゃんのがんばりもあって、光石の森はそれはそれは華美な空間となる。
 二人してしばらくそれを眺め、おおいに心を癒す。

  ◇

 やがて癒しの光景が消えて、演奏も終わり、光石の森がふたたび静かになる頃。
 わたしたちはそろって大の字にて、バタンキュウ。
 いや、なにせ白湯もどきのお粥しか食べてないからね。それを忘れてうっかり調子に乗った。
 ディッカちゃんなんて「キュウ」と目をまわしてしまっている。
 さすがにヤバいと感じたわたしは、帯革より折りたたみ式草刈り鎌姿のアンを取り出し、お願い。

「ごめん、ちょっと空間を繋いで、部屋から背負い袋をとってきて」
「……がってん」

 快諾したアン。すぐに小さい姿のままで空間をサクっと斬って、その奥へと消えた。
 あー、大鎌の姿じゃなくても出来るんだ、ソレ。知らんかった。
 感心してたら、アンはわりとすぐに戻ってきた。
 背負い袋を受け取ったわたしは、さっそくガサゴソ。
 手にとったのは小瓶。中には秘蔵のアメ玉が入っている。剣の母となりポポの里から聖都へと旅立つ際に、幼なじみのサンタから餞別に貰った品。
 アメ玉をひとつ、ディッカちゃんの口の中へと放り込む。
 とたんに小さな頬を膨らませてモゴモゴしだす幼女。
 カッと目を見開き、「うまっ!」と叫んで飛び起きた。
 小っちゃい先輩が元気になったところで、わたしもひとつ自分の口へ。
 舌の上にて溶けだす甘味。これがたちまち全身へと行き渡り、みなぎる活力。
 ビンビンに復活したわたしも立ちあがった。

  ◇

 栄養を補給して元気になった二人。
 モゴモゴしつつ目をとろんとさせては「ウマウマ」言っていたディッカちゃん。かと思えば、そばに浮かんでいる草刈り鎌に目をぱちくりと忙しい。
 いい機会なので、わたしは帯革より白銀のスコップも取り出し、ミヤビとアンを紹介する。

「ほへー、それが天剣(アマノツルギ)だったのか。どうしてスコップやカマをずっと持ち歩いておるのかとふしぎだったのじゃ。ヘンテコなヤツだと思っておったのじゃが、ようやくなっとくなのじゃ」

 がーん。
 八歳の子に気を使われていたと知り、地味にへこむ十一歳のわたし。
 がっくりにて、この胸の悲しみをぬぐうために、もうひとつアメ玉を口へ。
 するとそれを見ていたディッカちゃんが「自分ばっかりずるいのじゃ。わちきにもよこすのじゃ」とじゃれついてきたので、しようがないのであげた。
 愛い愛い。


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