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027 薬草園

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 ギテさんから神坐(カミグラ)での所作等の指導を受けつつ、ディッカちゃんと遊ぶこと早や三日目。
 白湯っぽいお粥生活にもなんだかんだで慣れ、儀式を翌日に控えた午後。
 ディッカちゃんに案内されたのは、城の敷地内にある薬草園。
 わたしが生粋の農家の出自にて、趣味で園芸を嗜んでいると話したら連れてこられた。
 高貴な身分の方々は農民なんて小ばかにしていそうな印象だったのに、わたしが剣の母であることを差し引いても、やたらと好意的な「のじゃ」姫さま。
 なんでもパオプ国では、農民は「厳しい自然に立ち向かう者」として、ちょっと尊敬されているんだとか。
 ここには鍛冶師や各種技術者、研究に携わる学者はたくさんいるが、作物を育てるのに適していない土地柄ゆえに、農民となるとガクンと減る。
 育てるにしたって、大半がヤギやヒツジなどに食べさせる牧草がほとんど。
 だからちゃんと食べられる作物や、キレイなお花を育てられるというだけで、立派に誇れる技術者との認識なんだってさ。
 なんて素晴らしい考え!
 技術大国を名乗るわりには、根幹で神頼みだったり、「そこにある者」なんていうわけのわからない石の人が城内を闊歩していたりと、けっこう怪しいところも多々。
「なんだかなぁ」とか思っていたけれども、わたしはパオプ国をおおいに見直したよ!

  ◇

 薬草園は全面ガラス張り。
 使用されてあるガラスはけっこうな厚み。なのに透明度がすごく景色の歪みもなし。ぶっちゃけこれ一枚を持ち帰ったら、ひと財産が築けそうである。
 外部にはたくさんの大鏡が設置されており、角度を調節して山間では限られる日光を効率よく取り込めるような工夫がなされている。
 内部では鉄の管がたくさん通されていた。
 これは地熱を利用した温度管理を施すためのからくり。住宅や街中でも同様の仕掛けが活用されているという。
 そのおかげか、薬草園の中はかなりの高温多湿。
 通常ではクンロン山脈では生息できない植物が、たくさん見られる。
 区画の一部では試験的に果物なども育てられており、ゆくゆくは海魚プクの養殖のように量産を目論んでいるらしい。

「たまに食卓にのぼる果物が楽しみなのじゃ」

 語りながら胸を張り、ディッカちゃんは笑顔を見せた。
 雑草と見まがう苦い薬草よりも甘い果実とばかりに、そちらを熱心に見て回っているディッカちゃん。まるで獲物を狙うケモノのように、熟れた果実がないかを熱心に探している。
 幼女はとっても元気にて止まることを知らない。
 わずか三才の歳の差を痛感しつつ、わたしが「よっこらせ」と腰を降ろし休んでいたら、その脇にちょこちょこ近寄ってきたのは、コツメカワウソの禍獣アイアイ。
 おもわず伸ばしたわたしの指先はペチンとはじく。
 あいかわらずつれない御方。けれども「オイラはこれでもチヨコにはずいぶんと感謝してるんだぜ。あんなにはしゃいでいる姫ちゃんを見るのは、久しぶりだからよ」との言葉を口にする。

 その理由はディッカ姫をとり巻く家庭環境にある。
 ご存知の通り、母親はパオプ国の女王ザフィアさま。
 とっても忙しい身ゆえに、末娘の世話は乳母役のギテさんにまかせきり。
 八歳という年齢を考えれば、まだまだ母親に甘えたい盛りだろうに。
 父親は彼女が赤ん坊の頃に亡くなっている。
 とても優秀な人物にて、みんなからの信頼も厚く、補佐役として公私に渡ってよく妻を支えていたという。
 末妹と兄姉との関係は良好ながらも、歳がいささか離れている。
 二人ともに成人を迎えており、すでに役職についているから、こちらも多忙につき滅多に顔を合わす機会がない。
 加えて生まれと立場ゆえに、彼女の近くには遊んでくれる同年代の子がほとんどいない。
 孤独とまでは言わないが、いかに周囲が親身になって大切にしてくれたとて、やはり寂しいものは寂しい。
 でも、みんな頑張っているのだからワガママは言っちゃいけないと、当人がかたくなに思い込んでいる。
 この幼女の健気さが、そばにいるアイアイにはどうにも歯がゆくてしようがない。
 そんなときにあらわれたのが、剣の母ことわたし。
 ひさしぶりに同じ目線を持つ者の登場に、ディッカちゃんはいつになくご機嫌なんだとか。

「やっぱり姫ちゃんには、にこにこ笑ってる顔が一番似合うと思うわけよ。オイラにデキたらよかったんだが、どうにもままならぬのが小さき禍獣の身ってね。だからチヨコには本当に感謝しているんだぜ」

 さらりと男前な台詞を口にするアイアイ。なんていじらしい。
 ペコリと頭を下げるコツメカワウソの禍獣。その姿のあまりの愛らしさに、思わず抱きしめようとするも、それはスルリとかわされた。
 ああん、イケず。

「チッチッチッ。確かに感謝はしている、が、そいつとこいつは話が別だ。あいにくとオイラは身持ちが固くてね。他の女に抱かれるつもりはねえ」

 小っちゃいアイアイは男前なだけでなく一途にて義理堅くもあった。
 いざとなったらダンマリを決め込み、自己保身に長けたうちの鉢植え禍獣とはえらいちがいである。


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