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055 アタリのオマケ

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「あー、これが例のご褒美か。まぁ、貴重な品だって話だけど、あれだけえらい目にあわされてたったの一個とか。
 デカいのは図体だけで、あんがいトホテ神もしょぼいな」

 ぶつくさ文句を言いながらわたしが足下のそれを拾おうとしたら、またもやコツンと音がする。
 上衣の袖から、二つめの星香石が床に転がり出ていた。
 それを見て、「おっ、これで七年前の大逆事件のときに失せた分がもどった。これでちゃらだから、きっとウルレンちゃんのあつかいも良くなるだろう」とよろこんだのもつかの間。
 三つめがコロン。
 で、そこから怒涛のご奉仕時間に突入。
 じゃんじゃんばりばり、出るわ出るわの星香石たち。
 両腕の袖だけでは飽き足らず、両足の裾からも続々と転がり出てくる国宝たち。
 どこから溢れているのか不明にて、わたしはどうしたらいいのかわからずオロオロ。
 それはその場に居合わせた大人たちも同じこと。
 女王ザフィアさまと評議会のお歴々たちは、そろってあんぐり。
 シルラさんはゲラゲラ笑っている。どうやら彼女は笑いじょうごであったらしい。
 ディッカちゃんからは「なんだか気持ち悪いのじゃ」と言われて、わたしは猛烈にへこんだ。幼女の率直な言葉が胸に深々と突き刺さる。ぐふっ。
 がっくし四つん這いとなっても、なおも続く星香石の放出。
 けっこう長いことしつこく続く。
 ようやく止まったときには、わたしの周囲には国宝の山ができていた。

  ◇

「……九百九十七、……九百九十八、……九百九十九っと、これでおしまい」

 いちおう貴重な品であることはまちがいないので、きちんと確認するまでは余人の手をはさまないほうがいい。
 との良識ある大人たちの判断によって、別室にてひとり、わたし自らひとつひとつ数えさせられるという苦行をしいられる。
 でもって、この中途半端さ。

「どうせなら、キリのいいところで、千個にしとけよっ!」

 わたしは思わず立ちあがって、クンロン山脈の地下深くにいるであろう、地の神トホテにビシッとツッコミを入れた。
 そのひょうしに、今度はゴトンと何やら重たい音がする。

「なぁんだ、服の奥に引っかかっていただけで、ちゃんと千個目もあったんじゃない。ったく、まぎらわしいんだから」

 自分のはやとちりを棚に上げつつ足下をみれば、そこにあったのは星香石ではなくって、手の平にちょうどいい大きさの金づち。

「はい?」

 頭と握るところが一体化した造りだけれども、とりたてて珍しい姿形ではない。
 はてと首をかしげつつ拾ったら、思いのほかに軽い。そしてやたらと手に馴染む。
 ブンブンふり回してみるといい感じ。これなら農作業中にでた石や岩、土の塊なんかを砕くのにちょうど良さそう。
 などと感心していたら、手の中にある金づちから声がした。

「母じゃ。それがし大地のつるぎにて候。この度、地の神トホテの命により推参。つきましてはさっそく名を授かりたく」

 よもやの天剣(アマノツルギ)の三本目の登場っ!
 そういえばトホテ神が「オマケをつけておいた」とかなんとか、確かに言っていたけれども、いくらなんでも大アタリにもほどがある!
 声の調子からしてまたぞろ女の子っぽいんだけど、しゃべり方がとってもヘンテコ!
 あー、いや、それはミヤビやアンも似たようなものか。
 とどのつまり、うちの子たちはみんなヘンだということだ。でもそれを認めちゃったら、わたしがヘンだということになる。なぜなら、天剣は剣の母の心やら魂やらをゴリゴリ削って、この世に顕現するからだ。しかも剣の母の影響を色濃く受けるという。
 それすなわち、全部わたしのせいということになる。うーん……。
 まぁ、このことについては、とりあえずいまは脇へ置いておくとして。
 問題はこの子だよ。
 ヤバい、ヤバい、ヤバい。
 星香石の山だけでも大混乱なのに、三本目まで誕生したことが発覚したら、とんでもない騒ぎになる。
 よって名づけはしばしおあずけ。
 大地のつるぎちゃんには「落ち着いて考えたいから、ちょっと時間をちょうだい。それまでは懐の中で静かにしておいて」と言い含めたら素直に従ってくれた。

「問題なしで候」

 わたしはミヤビとアンにも「黙っているように」と告げてから、何ごともなかったのごとくふるまい「石を数え終わったよー」と部屋を出た。ドキドキ。


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