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第四の怪 裏掲示板の予言者X 後編
しおりを挟む次の日の放課後、休憩時間と昼休みに第二編集部のメンバーたちは、手分けして校内をかけずり回って集めた情報を手に、部室へと集結する。
五人が揃ったところで、編集会議が始まった。
「では、まずは四年生コンビから報告を」
編集長の上杉愛理が進行役を務める。
促され松永美空と明智麟が揃って立ち上がり、取材用のノートを開く。
「私とリンちゃんが担当したのは、展示物の首がもげた一件です。これは――」
事件の概要は以下の通りとなる。
六年生のある生徒が学校の図画工作の授業で制作した、紙粘土細工の馬の像の出来があまりにも良かったもので、担任が「せっかくだから市のコンクールに出してみたらどうだ?」と勧めた。
するとそのコンクールにて、銀賞を受賞するという快挙を成し遂げた。中高生らの作品に混じってのことなので、じつにたいしたものであろう。
かくして栄誉を手に凱旋を果たした馬の像は、せっかくだからとしばらくの間、小学校の昇降口の脇にある展示スペースにて飾られることになった。
展示は好評にて、多くの生徒たちが馬の像を賛美する。
だがしかし、ある朝のことであった。
当番活動のために、いつもよりもはやめに登校したある女生徒が、展示スペースの前を通り過ぎるさいに、ふと見てみたら、なんと馬の首がもげていた!
像の全体にもヒビが入っており、おそらくは台の上から落としたのであろうが、誰がいつ壊したのかは、ついぞわからずじまい。
学校側としても、よもや大々的に犯人捜しをするわけにもいかず、ついに事件は迷宮入りとなった。
この破損について、裏掲示板にて予言者Xが言い当てたというのだけれども……
「えっと、これなんですけど正直言ってちょっと微妙……というか、むしろきな臭いというか」
麟が話の穂を継ぐ。
破損事故だか事件だかはたしかに起きている。けっこう騒ぎになったもので麟たちも知っていた。
けれども予言に関しては、掲示板に書き込まれたのが、ちょうど事が起きたとおもわれる時間帯なのである。
馬の像が前日の放課後までは無事であったことは、多くの生徒の目撃証言から裏がすぐにとれた。
つまり像が壊れたのは、放課後から次の日の朝までの間ということになる。
そして予言者Xを名乗る人物の発信もまた、この間にされたことであった。
こうなると卵が先か、ニワトリが先かにて。
最悪、うっかり像を壊した人間が、みんなの注目をそらしたり、犯行を誤魔化すために投稿したのでは?
というのが麟と美空の下した結論であった。
◇
四年生コンビの報告が終わり、次に愛理が指名したのは六年生の村上義明である。
「俺が調べたのは三人の女生徒が晴れているのにもかかわらず、いきなる土砂降りに見舞われたというやつだが、これはあまり愉快な話ではなかったな」
いつも以上にむっつり顔にて義明が口を開く。
ここ玉川小学校はかつてのマンモス校であった名残りにて、校舎がとにかく大きい。
それすなわち大人たちの目が届かない死角が多いということ。
最近では要所要所に防犯カメラを設置したり、教師たちがこまめに見回りなんかをしているけれども、忙しい業務の片手間でどうにかできるわけがない。
そして大人たちの目が届かないところでは、決まって悪さをする子どももいる。
それが悪戯程度ならば可愛げがあるのだけれども、これがイジメとあってはさすがに看過できない。
ずぶ濡れになったという三人組は、クラスのある女生徒をターゲットにイジメをしていた加害者たちである。
それがいつものように非常階段裏に女生徒を呼び出し、寄ってたかって弄ってはストレスを発散しようとしていたところに、突如として頭上からザバァーにて、ざまぁとなったという次第。
この一件に関しては、数日前に掲示板の方に予言が書き込まれていた。
ただし具体的に何が起きるかは書かれておらず、三人組を名指しにて天罰が下るとの内容であった。
「ちなみにその三人は、この件が発端でいろいろバレて、親や教師たちからこってりしぼられて、いまではおとなしくしている。
まぁ、自業自得にて同情の余地はないが、随分とまた俗っぽい天罰かな、と」
義明の見立てでは、これは予言者Xの発信を利用した、ささやかな仕返しではないかとのこと。
イジメられていた当人か、あるいは彼女たちの行動に憤っていた何者かが、予言にかこつけての報復を実施した。
結果的にはイジメ問題を解決する一助となっているから、あまり褒められたことではないが、さりとて文句もつけづらい。
それほどにイジメ問題とは扱いが難しいのだ。
◇
みっつめの予言の調査をしたのは五年生の里見翔である。
女の子と見まがう容姿で、なぜかいつも萌え袖、おどおどしているけれども、じつはけっこう腹黒い一面もある翔が受け持ったのは、実際に怪我人が出た予言であった。
「僕が調べたのは久保田先生の件だけど……。本人はなんてことないって言ってたけど、じつはけっこう危ない目にあってたんじゃないかなって思う」
いつになく真剣な面持ちにて翔は言った。
久保田京子は玉川小学校の教師である。
昨今珍しい、しっかりと怒る先生だ。
手こそ出すことはないけれども、舌鋒鋭くガミガミガミガミ。
忘れ物をすれば怒るし、廊下を走れば怒るし、給食で好き嫌いをすれば怒るし、黄色で信号を渡れば怒るし、男子が悪ふざけをすれば怒るし、女子が余計な物を学校に持ち込んでも怒るし、宿題をしてこなかったらめちゃめちゃ怒る。
ゆえに生徒たちからは「ガミガミおばさん」と裏で呼ばれて恐れられている。
だがしかし――
「久保田先生が厳しいのって、本当は生徒のためなんだよねえ。それに怒るのって、本当に悪い事をした時だけだし。それ以外はむしろ優しいよ。勉強でわからないところがあったら、根気よく教えてくれるし、クラスで飼っている金魚の水槽の掃除とか手伝ってくれるし、夏休みの花壇の水やりとかをこっそりやってるのを、何度か見かけたこともあるし」
との翔の言葉に、「うんうん」と愛理や義明もうなづく。
生徒から人気を得るのなんて簡単だ。「もうしょうがないわねえ」と甘い顔をすればいいだけのこと。
だがそれだと生徒のためにならない。
ゆえに心を鬼にして憎まれ役を引き受けている。
それが久保田京子という女教師。
そんな彼女が雨の日に自転車で横転した。帰宅時に坂道を下っていたところで、ブレーキをかけるも効きがいまいちにて速度が落ちなかった。
そのタイミングで濡れたマンホールの上に乗り上げてしまい、タイヤがずるりと滑った。横転し、腕の骨にひびが入る怪我を負った。
当人は「傘を差して、片手で運転していた自分が悪かったのよね」と反省しきりであったというけれど……
「その自転車なんだけど、修理に出したら後ろのドラムブレーキの絞りが、ずいぶんと緩んでいたそうだよ。その日の朝の通勤時にはなんともなかったっていうのに」
ブレーキは消耗品ゆえに擦り減り、次第に効きが悪くなるのが当たり前。
しかしそれを調整するネジが勝手に緩むことは、そうそうあることではない。
断定はできないが、誰かが細工をした可能性も捨てきれない。
翔はそう報告をまとめた。
なお久保田京子に関する予言は「近いうちにガミガミおばさんに不幸が訪れるであろう」という漠然としたものであった。
◇
予言の信憑性については、俄然下がった。
実態はほとんど不幸の手紙やチェーンメールレベルである。
というか、そもそも予言なんてものが本当に存在するのか、はなはだ疑わしい。
けれども調べていくうちにわかったのは、学校の裏サイトの掲示板の予言を利用している者がいるということ。
それも各事件の共通点も薄いことからして、おそらくは複数……
「ったく性質が悪い」
愛理はいら立ちながら、自身の頭をがりがりかく。
「それにこれってなにげに、とっても怖い話よね? 最初はきっとただのイタズラだったんでしょう。それに別の人が乗っかって面白がって、またといった具合に」
いつしか架空の存在であったはずの予言者Xが、さも実在するかのようになっては、現実を浸蝕し始めている。
しかもじょじょにエスカレートしつつある。
たしかに愛理の言う通りにて、これはとても怖いこと。
部員たちはごくりと唾を呑み込んだ。
放置するのは危険だと判断した愛理は部員たちに言った。
「こいつは絶対に茶化していい内容じゃない。だから今回は義明の案でいきましょう。都市伝説の企画ではなくて、注意を促す啓蒙記事として特集を組むよ」
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