こちら第二編集部!

月芝

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第六の怪 女王からの挑戦状 その九

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 第二編集部のみんなで中央公園と図書館に出かけた翌日のことである。
 放課後に集まった部員たちに、編集長の上杉愛理が告げた。

「あれからいろいろ考えたんだが……、例の件の調査はここで打ち切ろうとおもう」

 理由は、これ以上の調査は学級だよりの範疇を越えているから。
 それに万が一、埋められたタイムカプセルへと辿り着けたとて、はたしてそれを無関係な第三者が、興味本位にて勝手に開けていいものであろうか?
 当時の時代背景、込められた想い、諸々のことを考えれば、おいそれと土足で踏み込んでいいものではない。
 猪突猛進もけっこうだが、なんでもかんでも追求すればいいというわけじゃない。

「どうだろう? 私はそう考えたんだが、みんなはどう思う?」

 愛理の言っていることもわからなくはない。
 もしも自分が埋めた側だとしたら、赤の他人にそれを暴かれたくなんてない。

「未来の自分へと出した手紙とか入っていたら、たしかに他人には読まれたくないな」

 村上義明は腕組みにて、じっと天井をにらんでいる。

「……ですよね。もしくは赤面ものの黒歴史の可能性もあるし」

 そう言ったのは里見翔だ。
 書いたのに渡せなかったラブレターとか、自分にとっては大事な宝物でも他の人が見たら首を傾げるような品とか、マンガや小説の設定とかをびっちり書きなぐったノート、あるいは中二病の罹患(りかん)を示す何かとか……
 いわゆる若気のいたりというやつである。
 自分で見ても悶絶するようなシロモノを、他人に見られる。
 あぁ、想像するだに恐ろしい。
 翔は「自分だったら悶え死ぬ」とイヤイヤしながら両手で顔を隠した。

「戦時中という時代のことを考えると、戦死した身内の写真とか、最後の手紙とかもあるかも。
 ラブレターにしたって、渡せなかった理由が意中の相手の急な出兵とかだったりしたら、あんまりにも切な過ぎるわ」

 松永美空の言葉に明智麟もコクコクうなづく。
 好きな人や大切な家族や我が子らが戦地へと赴くのを、栄誉だとして万歳三唱で見送らねばならぬとか、ちょっと考えただけで胸の奥がギュッと締めつけられる。

 浮かれた宝探しなんぞではない。
 生半可な覚悟で踏み込んではいけない。
 やるのならば本腰を入れて、徹底的にしなければならない。
 だが、いまの第二編集部にそのような力はない。
 自分たちの実力不足を痛感し、おおいに恥じ入るばかりだ。
 五人は相談の上で本調査をこれまでとし、記事にまとめることにした。

  ◇

 話し合いがあった日の夜のこと――
 麟は夢を見た。

 モンペ姿の女の子や、戦時中に国から推奨されていた国民服に身を包んだ男の子ら、七人の子どもたちが夜更けに家をこっそり抜け出してはどこぞに集まり、せっせと穴を掘っては大きなブリキの缶を地中深くに埋めている。

 戦時中には金属類回収令というものが出されていた。
 これは戦局の激化と資源不足を補うために、みんなが持っている金属類を集めるというもので、勅令であった。
 勅令は天皇陛下が直接命じること。
 当時、その詔(みことのり)は絶対とされていた。
 提供すればするほどに勤王の志が高く栄誉とされ、しぶれば罵られ冷たい目を向けられる。
 そんな周囲の厳しい目を盗んでブリキの缶を調達するのは、とてもたいへんなことであったろう。

 ブリキの缶の中には、各々が持ち寄った宝物が納められていた。
 周囲の大人たちからは「捨てろ!」「燃やせ!」と詰め寄られたが、強い思い入れがあって、どうしても手放せなかった大切な宝物だ。
 でも、このまま持ち続けていたら空襲の被害に遭うか、大人たちに見つかってきっと捨てられることであろう。
 だから、子どもたちは誰にも手が出せないよう、隠すことにしたのだ。
 そしてその隠し場所を地図に記し、さらに地図をも秘匿する二重三重の知恵を凝らす。

 子どもたちの奮闘を、麟は空の上からずっと眺めていた。
 やがて穴を堀り終わり、底にブリキの缶が置かれる段になって、いま一度だけ蓋を開けて子どもたちは中身を見る。自分の宝物にお別れをするためだ。
 上からでは子どもたちの頭が邪魔をして、缶の中身はわからない。
 けれどもちらりと光るものがあって、よくよく目を凝らして見てみれば、それはロザリオらしきものであった。

 その姿を見た瞬間、麟は「あっ!」
 おそらくはこのロザリオを持ち込んだ者こそが、あの黒い菩薩像を空襲の中から持ち出し、戦後も隠し続けていた人物であるのに違いあるまい。
 七人のうちの誰かはわからないけれども、きっとそうに違いないと麟はおもった。

 子どもたちが順繰りに、穴の底にあるブリキの缶に土をかけていく。
 まるで棺桶を埋葬するかのような厳かな儀式。
 黙々と土はかけられ続け、やがて穴は完全に塞がった。

 そこで麟は目を覚ました。
 すでに朝になっており、カーテンの隙間からは陽光が差し込んでいる。
 頬と枕元が濡れている。どうやら寝ながら泣いていたらしい。
 麟は目元をパジャマの袖でごしごし乱雑にこすると、そうしている時間も惜しいとばかりに机に向かい、さっそくいまみた夢もからめつつ記事の執筆にとりかかった。


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