24 / 59
第七の怪 雛形パークの幽霊屋敷 その二
しおりを挟むじつは雛形パーク……けっこうな宅地の中にある。
というのも、もともとパークを建造したのが鉄道を運営している会社だからだ。
線路を敷いて列車を走らせただけでは、乗客は増えない。
だから線路沿いや駅の周辺を開発することで、その路線の価値をグンと高めては、より多くの人、物、金を集めようとした。
遊園地を作ったら、みんな電車に乗って遊びに来るはず。
動物園を作ったら、みんな電車に乗って遊びに来るはず。
歌劇団を作ったら、みんな電車に乗って見物に来るはず。
住宅地を作ってお手頃価格で売り出したら、夢のマイホーム目当てで人が集まるはず。
そうしたら住人もわんさか増えて、電車の利用客もドドンと増えるだろう。
……などなどの思惑にて、湯水のごとく資本を注ぎ込んだものである。
驚くべきスケールの壮大なビジネスモデルと言えよう。
しかしかつては日本各地で似たようなことが行われていた。
いまからは想像もつかないほどに、バブリーな時代であった。
◇
ゲートを一歩くぐれば、色鮮やかなファンシーな夢の国。
いざ、パーク内に入場したところで――
「さてと、ではこれからどうしようか?」
立ち止まり、上杉愛理がみんなの方をふり返る。
このまま集団行動をとるのか、各々好きに遊ぶのか。
せっかくみんなで来たのだから、いっしょに遊びたいところだが、上杉愛理と村上義明ら六年生たちを筆頭に、五年生の里見翔、四年生コンビの松永美空と明智麟、麟の弟の蓮(れん)は二年生で、義明の妹の千夏(ちなつ)にいたってはまだ幼稚園児である。
男女混合にて、上は十二歳から下は五歳だ。
性別のちがいと七歳差はデカい。趣味趣向もバラバラ。
せっかくのフリーパス券だ。まったり系から絶叫系まで、アトラクションも乗り放題である。
なのに周囲に気兼ねをして、ちまちま遊ぶのはいささかもったいないだろう。
「だからさ。午前中は好きにして、昼食時に合流して、午後からいっしょに遊ぶのはどうだ?」
愛理の提案に一同賛成する。
というわけで……
「それじゃあ俺は千夏を連れてイベント会場へ行ってくる。千夏が行きたがっているんでな」
そう言ったのは義明だ。
園内のイベント会場では現在、魔女っ娘戦隊ヒーロー展が開催されている。
日曜の朝にテレビで放送している特撮番組なのだが、可憐な魔法少女たちが、地球征服を目論む悪の秘密結社の醜悪な怪人どもを、バッタバッタと薙ぎ倒す爽快な内容にて、男女問わずちびっ子たちに大人気だ。
もちろん千夏ちゃんも大好きである。
そして愛妹にはデレデレなお兄ちゃんの義明は、今日という日をすべて妹に捧げるつもりのようだ。
これを聞いて麟が手をあげた。
「あっ、だったら村上先輩、うちの蓮もいっしょにいいですか? ほら、あんたも前から気になるって言ってたじゃない」
いきなり話をふられた蓮が「なっ! いいよ、べつに。ボクはひとりでまわるから」と遠慮するも、このままでは結局自分が付き合わされることになりかねない姉は、嫌がる弟の背をぐいぐい押す。
これに対して、義明は「べつにかまわんぞ。蓮もいっしょに行こう」と快く応じたもので、蓮もついに観念して同行させてもらうことになった。
では、他のメンバーらはお昼までどう過ごすつもりなのかというと――
上杉愛理は乗り物には興味がないから、園内の一角にて開催中の菊人形展をじっくり見てまわるんだとか。
菊人形とは菊の花を使った細工のことで、菊の花や葉などで作った衣装を人形に着せたものである。江戸時代後期に誕生したというが、これがけっこう奥深く、たんに花で着飾るのではない。
園芸師が専用の茎が細くしなやかな「人形菊」という小菊をわざわざ栽培し、人形師が専用の人形を作成し、菊師が人形に花を飾りつける。
人形一体につき百株以上もの小菊が必要で、使用されるのが生花であるがゆえに、見頃、咲き頃、日照時間に温度などにも絶えず気をつける必要がある。十日から二週間ほどで菊の付け替えもせねばならない。
かつては雛形パークでも屈指の人気を誇る見世物にて、これ目当てに大勢の来場客が季節になると押し寄せていたものである。
だがそれも昔のこと。明るく極彩色豊かな現代社会においては、やや地味に映り、後継者不足にも悩まされて、縮小の一途を辿っている。
いずれそう遠くない将来にて消えゆくもの……
でも、だからこそ「いまが見頃なんだよ」と愛理は言う。
里見翔は初っ端からジェットコースターに乗るそうな。
雛形パークのアトラクションは、大型テーマパークのものに比べるとこじんまりとしている印象を拭えない。だが、スリルならばひけをとらない。
なぜならこちらはどれもこれも年代物にて、いつ壊れるかとドキドキハラハラしながら乗ることになるもので。
誰よりも可憐な見た目のマッシュルームカットの草食系男子は、こと遊びになるとアグレッシブであった。
松永美空は園内にある蝋人形の館に行くという。
雛形パークをよく知る常連客たちからは「園内にある幽霊屋敷よりも幽霊屋敷している」「下手なお化け屋敷よりも、よっぽど怖い」ともっぱらの評判の場所だ。
「どうしてそんな所に?」
との麟の疑問に美空は「等身大の生き人形が入荷したって聞いたから」と答えた。
生き人形とは、もちろん本当に生きているわけではない。
まるで生きているがごとく、本物そっくりの木彫りの人形のことである。純和風のマネキンといえばわかりやすいか。幕末から明治の頃に見世物として一世を風靡(ふうび)する。驚くべきはその超絶技巧にて、現代の技術をもってしても再現不可能と云われている。
そんなシロモノが、どうして雛形パークの蝋人形の館にまぎれ込んだのかは、さておき。
これを見逃す手はないと美空は力説する。
話を聞くうちに興味を覚えた麟も美空にいっしょについていくことにした。
かくして一同はいったん散開し、各々の目当ての場所へと向かった。
1
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる