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第七の怪 雛形パークの幽霊屋敷 その四
しおりを挟む蝋人形の館にて展示されている生き人形は、全部で七体あった。
一体目の生き人形……。
甲冑を着て床机に腰かけている若武者だが、兜を脱いでおり、その表情には悲壮感が漂っている。戦に負けた直後にて憔悴しているかのよう。
二体目と三体目の生き人形……。
男ふたりが取っ組み合いにてスモウをとっている。でも顔は楽しそうだ。きっと仲間内にて遊んでいるのだろう。
四体目の生き人形……。
雅な薄い衣を纏っている古代中国の貴婦人が、扇子片手に優雅に微笑んでいる。
五体目の生き人形……。
体はなく、あるのは坊主頭の老人の首と両腕だけ。
ぱっと見ではバラバラ死体のようでドキリとするが、よくよく見てみたら接合部分があって、どうやら元は組み立て式であったようだ。だが、なんらかの理由にて胴体や足の部位が失われてしまったらしい。
六体目の生き人形……。
番傘を手に、濡羽色の羽織りを着た芸者らしき女性なのだが、こちらに背を向けており顔はわからない。
見返り美人?
おそらくはあえて見せないことで、見る者の想像力をかきたてるような趣向なのだろう。
事実、美空と麟は顔が気になってしょうがない。
でも通路と人形を展示している場所との間には、柵が設けられており、近づけない。
どうにかして確認できないかと美空と麟は、横から覗き見たり、うーんと首をのばしたり、つま先立ちにて背伸びしてみたり、かがんでみたり。
しばらく粘ってみたがダメであった。
七体目の生き人形……。
鏡台の前に正座をしては、髪を整えている浴衣姿の女がいた。
襟元がやや着崩れている。のぞくうなじや頬の肌がほんのり赤いのは、湯上りだからであろう。髪の毛の生え際などが、とても作り物とはおもえないほどに精巧だ。全体に漂う気だるさ、それでいて鏡に向ける眼差しには真剣さがある。
男にはない。湯上りの女性が持つ特有の妖艶さ、薫る色気にゾクリとする。
これからいい人がくる。
ちょいと面倒だけど、うれしくもあるのか、女はそわそわと身だしなみを整えているといったところか。
女の複雑な心情が透けて見えている。
それでいてなんとなく退廃的で、妙に生々しい。
出来がいいとは風の噂で聞いていたけれども、実物は想像を遥かに越えるシロモノであった。
蝋人形のリアルさとは異なる方向性を持つ生き人形のリアルさ、いまにも聞こえてきそうな息づかいとその質感に、美空と麟は目を見張るばかり。
「すごいね、リンちゃん」
「うん、すごいね、ソラちゃん」
四年生コンビは七体の人形の前を、何度も何度も行ったり来たり。
ときに立ち止まっては、じっくり眺め、またウロウロを繰り返す。
見る角度を変えると、照明の加減や陰影などにより、ガラリと人形の表情が変わる。
まるで能の小面(こおもて)みたい。いくら眺めていても飽きることがない。
いつしか美空と麟は生き人形の魅力にすっかり夢中になっていた。
それこそ時間が経つのも忘れるほどに――
◇
ブブブブブブブ……
突如として夢の時間を破ったのは、美空のスマートフォンの小刻みな震えである。
タイマー機能が起動したのは、みんなとの待ち合わせ時刻が迫っていたからだ。
いつの間にやら、お昼近くになっていた。
美空と麟は顔を見合わせたいそう驚く。
「えっ、ウソでしょう。わたしたちってば、二時間近くもここにいたの?」
「もうそんなにたっていたの? どおりで足がギシギシして痛いはずだよ」
静かな館内、自分たち以外に来場者がいなかったこともあって、ちっとも気がつかなかった。
「いけない、急ぎましょうリンちゃん。待ち合わせに遅れたら里見先輩にイヤミを言われちゃう」
「うん、急ごうソラちゃん」
名残りは尽きぬがしょうがない。
四年生コンビは蝋人形の館をあとにする。
でも生き人形らが展示されているスペースを出る間際のこと。
麟がちらりと振り返ると、位置の加減にて、ちょうど七体目の生き人形と鏡越しに目が合った。
するとその目が、まるでふたりの動きを追うかのようにして、スーッと横に動いて目元がやや細くなったような……
「ほら、リンちゃん、いくよ!」
「あっ、えっ、うん」
ギョッとした麟は、おもわず二度見しようとするも、美空に急かされて確認できず。
ふたりは急ぎ、みんなと待ち合わせをしている場所へと向かった。
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