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第七の怪 雛形パークの幽霊屋敷 その九
しおりを挟む第一班が戻ってきたところで、上杉愛理率いる第二班が幽霊屋敷へと入る。
義明と千夏の村上兄妹、明智麟と松永美空の四年生コンビは、撮影した画像をチェックしたり談笑しながら、待つことしばし――
「うわーっ!」
ゴール地点より叫びながら飛び出してきたのは、血相をかえた麟の弟の蓮である。
続いて出てきた里見翔も顔が真っ青になっており、ひとりゆっくり、あとから歩いてきた愛理は腕組みにて何やら難しい顔をしていた。
蓮と翔はとても興奮しており、まともに話が聞けそうにない。
だから義明は愛理に近づき「でたのか?」と声をかければ、「ああ、だが……うう~ん?」と煮え切らない。
なにかとハキハキしている愛理らしくない態度だ。
義明はいぶかしみ、麟と美空は顔を見合わせた。
◇
第二班もまた第一班と同じようにアトラクション内を巡る。
ちがうことといえば、第一班が四人だったのにたいして第二班は三人だったことと、率いていたのが愛理だったこと、それから愛理が現場に蓮や翔を投入したことである。
最初のチェックポイントが見えてきたところで、愛理は「それじゃあ、まずは私から」と言って単身調べに向かった。
率先して行動しては手本を示すところは、さすがなのだがそのあとが容赦ない。薄気味悪がっている男子たちの肩をぽんぽんと叩き、「さぁ、行け」と笑顔で送り出す。
で、翔のときにはとくに何も起きず。
しかし、蓮のときにそれは起こった。
不安を隠せない蓮は、立ち止まってはうしろをふり返りふり返り、のろのろ進んでいたのだけれども、そのせいで柱を避けるさいに足がもつれて、少しよろけた。
すると何者かに、いきなりガッ! 腰に手をまわされるような感触がしたもので、ぞぞぞぞぞ!
驚きのあまり蓮は立ち止まったまま固まった。
この姿に翔は「げっ」とあとずさるも、愛理すぐに駆け寄る。
「蓮くん、何かあったのか?」
蓮はコクコクうなづく。
そんな蓮に愛理はにんまり笑みを浮かべる。
「ほぉ、そうかそうか、そいつはよかった。では、悪いが蓮くん、もう一度、いってみようか。おい! 翔、次はちゃんとカメラを回しておけよ。決定的な瞬間を見逃すな」
第二編集部の編集長は万事がこの調子であった。
「なぁに、心配はいらない。いざともなったら松永のところで御祓いをしてもらうから」
松永美空の実家は慶瑞寺というお寺にて、父親は住職をしている。ポクポク、チ~ンと念仏のひとつでも唱えてもらえば、きっと大丈夫……のはず。
蓮と翔が彼女と同じ班になったことを、心底悔やんだのは言うまでもない。
◇
幽霊屋敷の外にて合流した一同は、少し離れた陽の下で互いの情報を持ち寄る。
「獄門首のところでも怪異は起きた。内容は話に聞いていたとおりだな。あわてて尻もちをつきそうになった蓮の体が、不自然に持ち上がるところを目撃した。
で、最後の廊下もごらんの通りだ。ただし――」
いったん間を置いてから愛理は言った。
「あらわれたのは蓮のところにだけだった。私や翔は体験していない」
「うん? だったら翔の奴はどうしてあんなに青い顔をしているんだ」
首をひねる義明に「あー、あれはたんに雰囲気にのまれただけだな。おおかた蓮の怯えが伝染したんだろう」と愛理は苦笑い。
にしても、調査結果が極端に分かれたものである。
第一班は空振りなのに、第二班は三連続の大当たり。
幽霊屋敷の心霊現象は小さな子どもの前にあらわれやすい。
だから幼稚園児である千夏の方にこそ起こるかもしれない。
……と愛理はにらんでいたというのに。
じつは自分の妹こそが本命だったと聞いて、義明が「おい!」といきり立つも、愛理はそれを「はいはい」と適当に受け流しつつ。
「さてと諸君、ではこの差について考えてみようか」
そこにきっと答えがあるはず。
第一班と第二班は互いの行動について、一から十までこと細かに書き出しては比較検討を重ねる。
あーでもない、こうでもない。
意見を言い合ううちに「もしかして!」と閃いたのは美空であった。
「第一班と第二班のちがい……というか、蓮くんと千夏ちゃんのちがいって、たぶん『とった行動』ですよ」
第一班を率いた義明はつねに妹の安全に気を配り、姫さまを守る武士のごとく張りつき目を光らせていた。そのため千夏は危ないことは何もしていない。
一方で第二班は愛理の指示にて、事前に得ていた目撃情報をもとに、その状況を再現していた。
第一のチェックポイントの柱の突き出た曲がり角ではきょろきょろ歩き、第二チェックポイントの獄門台では驚いては転倒しかけ、第三チェックポイントの長い廊下では恐怖に耐えかねて駆け出す。
ちなみに最後の廊下で蓮は背後からトントンと何者かに肩を叩かれたという。
これを受けて「もうヤダーっ」と蓮は走り出し、翔も釣られて「うわーっ」といっしょになってゴール地点に向かったという次第であった。自分は五年生だからと平気なフリを続けていたが、翔も内心ではずっとビクついていたのだ。
いい子の前には怪異はあらわられず、ちょっとやんちゃな子の前にだけあらわれているということ。
美空の考えに「やはりそうか」と愛理もうなづいた。
第二班が戻ってきたときに、愛理の態度がおかしかったのは……
「私自身は怪異そのものを見ていない。あくまで起こった現象を目撃しただけだ。でも、私には何者かの手が子どもを驚かせているというよりは、むしろ怪我をしないように守っているようにおもえた」
とどのつまり、寂れた幽霊屋敷のアトラクションに出る幽霊は、子守りをするいい幽霊?
飴買い幽霊、飴を買う女、妖怪姑獲鳥(うぶめ)などなど。
子どもを助ける怪異たち、似たような話は国内外に多数存在している。
もしかしたらここに住み着いているのも、同じようなモノなのかもしれない。
だからこそ、危なっかしい幼子の前にしかあらわれなかったのか。
ちょっとほっこりしてくる。
なんとな~く、いい感じで話がまとまりかけた。
なのにそこで水を差したのは愛理であった。
第二編集部の編集長はパンと手を打ち鳴らし言った。
「よし! ならばその線で検証してみよう。さぁ、もう一度幽霊屋敷に入るぞ」
これには部員一同あんぐり。
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