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月芝

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第十一の怪 かごめかごめ その一

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 か~ごめ、か~ごめ
 籠の中の鳥は、いついつ出や~る
 夜明けの晩に~、鶴と亀と滑った
 後ろの正面だあ~れ?

  ◇

 第二編集部の部室にて――
 編集長の上杉愛理がひとり部室にて、棚の資料を整理していた時のことである。
 棚は部室の一番奥の壁際にあって、愛理はちょうど入り口扉に背を向ける格好で片付けをしていた。扉は換気のために開け放たれていた。

 ここのところ片付けをサボっていたもので、けっこうくちゃくちゃ。
 資料の封筒やファイルを出したり戻したり、時系列に並べ直したりと、わりと忙しい。
 やり出すうちに、愛理はついつい夢中になっていく。
 でも、ふとしたひょうしに自分がかけているメガネのレンズの端に映り込んだ影が気になった。

(おや、うしろに誰かいる? 部員の誰かが忘れ物でもとりに来たのかな)

 もしかしたら、自分が作業に夢中になっていたので、声をかけられたのにも気がつかなかったのかもしれない。
 あるいは下手に声をかけたら片付けを手伝わされるかもしれないと警戒したか。

(まぁ、その通りなんだけどねえ。せっかくだからこき使ってやろう)

 内心でクスリとの笑みにて、愛理はいきなりバアとふり返った。
 だがしかし――

「あれ? だれもいない……。おかしいなぁ。たしかに誰かいたと思ったんだけど」

 部室には自分ひとりきり。
 どうやら勘違いだったらしい。
 愛理は目をしばたたかせながら、「はて?」と首を傾げた。

  ◇

 その日は雨だった。
 これでは学校の校庭が使えない。
 だから地元の少年野球チームの玉川セコンズジュニアは、急遽体育館を借りての屋内練習へと切り替えた。
 軽いランニングとダッシュ、腕立て伏せや腹筋などの体力向上のトレーニング、バットの素振りに、軽いキャッチボールなど。
 ひとしきり行ったところで、最後にみんなで掃除をし、この日の練習は早めに切り上げられることになった。

 村上義明はぞろぞろと引き揚げるチームメイトらの最後尾に位置していた。
 六年生ながらにすでに中学生ばりの体躯を誇り、チーム内で一番背が高い義明は、この並びになることが多い。
 先を行くチームメイトらの背を視界の隅にしつつ、スパイクを履いていた義明であったが、その時のことである。

 タタタ……
 トン、トトト、トントン……トン……ト……ン……

 不意に誰かが走るような音がしたとおもったら、続けてボールが軽く跳ねては転がる音が聞こえた。
 てっきり自分が最後だとおもっていた義明は、驚きばっとふり返る。ひょうしに後ろで束ねている馬の尻尾のような黒髪が揺れる。
 だがしかし――

「……うん?」

 体育の中には誰の姿もなかった。当然だ、自分が最後なのだから。
 義明は念のために屋内に戻って確認してみたけれども、やはりどこにも人影はなし。
 あったのは床の上に転がっているテニスボールがひとつきり。
 すっかりくすんで、ウグイス色になったテニスボール。
 それを拾った義明は首を傾げつつも、おおかた天井の枠にはまっていたボールが、何かのひょうしで勝手に落ちてきたのだろうと考えた。

 じつは体育館の天井の内枠には、いろんなボールがはさまっている。
 子どもたちがイタズラでやったものから、競技中の不可抗力にてはまり込んでは抜けなくなったものなど。
 とりたいのだが、体育館の天井は高くて梯子を使ったとて手が届かない。
 ゆえに数年に一度、体育館の屋根のメンテナンス時に、業者によって回収されるまで、それらのボールはずっと放置されているのが常であった。

「お~い、村上~。なにやってるんだ? モタモタしてると置いてくぞ~」

 先を行くチームメイトから呼ばれた。
 はっとした義明は拾ったテニスボールをスポーツバッグに入れると、急ぎスパイクをつっかけながら体育館の扉を閉めた。

  ◇

 社会科準備室にて――
 担任の陽子先生から次の授業で使う教材を、教室に運んでおくように頼まれた明智麟と松永美空のふたり。
 頼まれたのは大判の地図とコンパスだ。
 時間が限られているので麟が地図を、美空がコンパスを手分けして探す。

「くちゃん」

 可愛いくしゃみをしたのは麟である。
 巻物みたいに丸められた地図たちの中から、目当ての品を漁っていると、急に鼻がむずむずしてきた。ここは日常的に人が出入りしない場所ゆえに、やや室内の空気が埃っぽい。
 すると背後から、クスクスという笑い声が聞こえてきた。
 麟はてっきり美空に笑われたとおもって、「もうっ、しょうがないでしょ」とふり返ったのだけれども、そこには誰の姿もない。
 かとおもえば、まったくちがう場所からひょっこり顔を出した美空が「ほらリンちゃん、急がないと授業に間に合わないわよ」と言った。

「あれ?」

 きょとん、麟は内心で不思議がるも、そこで次の授業の開始を告げるチャイムが鳴ったもので「やばっ!」
 麟は目当ての地図を小脇に抱えるなり、すでにコンパスの入った箱を手にしていた美空とともに、急ぎ社会科準備室をあとにした。


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