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015 小さいけれども大きな変化
しおりを挟む登校時のことは、あっという間にクラスのみんなにバレた。
……主に麻衣子が言いふらしたせいで!
「はぁ?! あの色気の欠片もない、それどころか女子力十にも満たない、クラス最弱のザコチリに男だとぉぉぉぉぉーっ」
と、みんな興味津々。
かっこうのネタにされてイジリまわされた。
休憩時間になればすぐに囲まれ、根掘り葉掘りと質問攻め。追及は執拗にてトイレにまでついてくる。
授業中とて油断ならない。先生の目を盗んでは、小さなお手紙がクラスメイト経由でじゃんじゃん届く。時には紙飛行機便で直接届くこともある。雑なのになると丸めた紙を投げやがる。
おかげで今日は一日、本当にたいへんであった。
もしもこれが星華嬢とかであれば毅然としているから、きっと誰も怖くて訊けやしなかっただろう。
嘆くべきは己のキャラか。
にしても、ザコチリっていったい……
いまさらながらに周囲からの自分の評価を知って、千里はグスンと鼻をすすった。
◇
放課後になった。
鬱憤を晴らすかのようにして、千里は部活動に励む。
麻衣子からは「ねえ、昨日の今日だよ。念のために、もう一日ぐらい様子をみたら」と心配されたけど「へっちゃらだい」と参加する。
「いいんだ、いいんだ。私は剣の道に生きるのだ」
あわよくば公式戦で好成績を納めて推薦をゲットし、楽して大学進学できたらうれしいな。そして素敵なキャンパスライフを謳歌するのだ。
とりあえず新歓コンパに参加して、あわよくば良さそうな男の子と仲良くなって、それからそれからデヘヘヘ……
――雑念だらけである。
ふつうであれば、こんな状態で立ち合えばビシバシ叩きまくられる。
剣道とはそういうものだ。
だがしかし、その日はいささか様子が違った。
相手の攻撃がちっとも当たらない。
千里は絶好調にて、麻衣子などの同学年どころか、格上の先輩らの振るう竹刀をもスイスイ躱しまくり、捌きまくり。
ひょいと打ち込めば、これがまた面白いように決まる。
とにかく相手の攻撃がよく見えた、体もキレている。
あまりの調子の良さに、みんな驚く。
果ては顧問の先生に「おまえ、さてはニセモノだな!」と真顔で言われた。
まぁ、もちろん冗談ではあったのだけれども、それぐらい千里の動きが見違えていたということ。
誰しも調子のいい時もあれば悪い時もある。
しかし千里のこれはいささか度を越していた。
当人もびっくりである。思い当たるとすれば、きっとアレであろう。
(一期の憑依……成り行きで依り代とかいうのになったけど、もしかしてそのせいかも)
粟田一期は人間ではない。
刀の化生である。
人の姿のままでもかなりデキる。
なにせ素手とはいえ、あの星華嬢のコンボ攻撃を初見で完全に見切っては、軽々といなしていたのだから。
一期は本来の姿である妖刀となり、人にとり憑き操ることで、さらに凄まじい剣技を発揮する。それが憑依――
が、超人的な力を振るうがゆえに、宿主の肉体には多大な負担をかける。
なんだかんだで体育会系、日頃からけっこう鍛えているはずの剣道乙女の千里ですらもが悶絶し、全身筋肉痛にて一日寝込むはめとなった。
とにかく尋常ならざる戦いぶり、超人や達人の域を遥かに越えていた。
もはや異次元、アニメやゲームの世界だ。
体が丈夫じゃない依り代だと……もしくはあまり長いこと続けたら、宿主の方がぶっ壊れるかもしれない。
ぶっちゃけかなり危険な技だ。
でも、そんな危険を犯し、蜘蛛女との戦いを経たおかげで、どうやら千里の心身にも変化が生じている模様。
「……ひょっとして、私ってば強くなってる?」
ちょっとうれしい。
けど、なんだかズルをしたみたい。これまでコツコツ鍛錬を積み上げてきた、過去の自分を裏切るみたいで心中複雑である。
周囲から褒められるほどに、千里は高揚していた気分がみるみるしぼんでいった。
部活が終わった。
更衣室にて帰り支度を済ませ、麻衣子といっしょに帰ろうとしたところで、スマホが震える、メールが届いた。
一期からであった。
住所と簡単な地図が添付されており、「学校帰りに寄れ」との呼び出しである。
千里は麻衣子に「ごめん、用事ができちゃったから先に帰っていて」と謝って、ひとり指定された場所へと向かった。
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