乙女フラッグ!

月芝

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047 からくり時計台

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「それじゃあ、がんばってね。でもセンリちゃん、一期くんたちに付き合ってあんまり無茶をしちゃダメよ。それにいまはうちのほうがリードしているんだから、いざとなったら、ね?
 ……あー、やっぱり心配だわ。今回は宮内さんがいるからめったなことは起こらないと思うけど」

 との言葉を残し、蓮が運転するクルマが引き返していく。
 それを見送ってから、千里、一期、万丈らはビル内へと。
 指定された日時と時間が週末の午後一時ということもあって、弥栄ツインタワーズはけっこうな賑わい。とくに家族連れが多い。
 待ち合わせ場所は一階の共有スペース、エントランスホール内にある噴水広場のからくり時計台前。
 ここでは一時間おきに、凝った噴水のショーと時計台のからくりがそろって起動し、来場者たちを楽しませている。

 現在の時刻は午後十二時五十分。
 噴水と時計台の演出目当てに、家族連れやらカップルがはやくも集まりつつあるのを横目に、千里たちは宮内さんと合流した。

「今日はよろしくお願いします、宮内さん」
「こちらこそ甲さん」

 挨拶を交わしながら、小娘相手にさらりと握手ができる大人の男性。
 スマートだ。千里はたいそう感心した。

 宮内さんは、ビルの案内図が載ったパンフレットを人数分用意しており、夕凪組チームがそれを眺めなら対策を相談していると、エントランスホールの入り口の方がざわつく。
 何ごとかと見てみれば、キラキラした集団がいた。
 旗役の乙女である鳳星華を筆頭に、その隣にはルイユ・クロイス、うしろには小柴夾竹と黒塚婀津茅の姿もある。

 銀の髪をなびかせて歩く姿が凛として美しい才媛。
 端整な顔立ちをした白人男性で、オッドアイを持つ神父の格好をした男。
 体のラインを惜しげもなく晒す、セクシーな黒のライダースーツに身を包んだ蠱惑の黒髪美女。
 どこからどう見ても堅気にはみえない、マフィアの女ボスっぽい中年女性。

 ひとりひとりが超個性的!
 そんなのが寄り集まっていれば、この騒ぎもさもありなん。
 だというのに当人らは知らんぷり。周囲からの視線など、まるで意に介していないのだから恐れ入る。
 でも、こんなキラびやかな集団と対峙することになる千里は居たたまれない。
 時計台の前で向かい合う両チーム。

「ほう、ちゃんと約束を守ったか、感心感心」
「………………」

 にやつく婀津茅に一期は無言で応じる。

「この前はずいぶんと舐めた真似をしてくれたね? 今日はたっぷり仕返しをしてやるから覚悟しな!」
「やれやれ、おっかないねえ。そんなに眉間に皺を寄せたら、せっかくのべっぴんさんが台無しじゃないか」

 いまにも掴みかかりそうな夾竹に、万丈をヘラヘラとふざけた態度、たぶんわざとだろう。
 このふたり、第一幕にてちょっと殺り合ったものの、その時は万丈が術で夾竹をたぶらかし、まんまと煙に巻く。
 そのリベンジに夾竹はやる気をみなぎらせている。

 星華は一同より少し下がったところで、ひとり静かにたたずんでいる。
 厳かにて何やら近寄りがたい雰囲気、そのため周囲とは自然と距離ができていた。
 腰に得物を差していないので、千里はちょっと安堵する。
 第二幕での一騎討ち――千里は辛くも勝利したものの、あれは運の要素が大きい。それこそ一生分の運を使い果たしたような気がする。きっと幸運は二度も続かない。
 一方で千里はちゃっかり警棒を隠し持っていたりする。
 前回の戦いでひん曲がったと言ったら、万丈が新しいのを買ってくれた。
 かといって油断は禁物である。
 なにせ星華は無手でも強いのだから。

 それとなくみんなの様子を千里がうかがっていると、「やぁ」とルイユが声をかけてきた。

「フロイライン、ご無沙汰しております」

 慇懃な仕草は変わらず仰々しいものの、日本語が以前より流暢になっている。
 神秘的なオッドアイに見つめられ、千里はちょっとドギマギ。
 するとそんな千里を庇うように、ふたりの間に割って入ったのは一期であった。婀津茅とのにらみ合いを切り上げ駆けつける。
 これにルイユはお道化たように肩をすくめた。

「やれやれ、姫を守る騎士さまの登場か。ちょっと挨拶をしようとしただけなんだけどねえ、クックックッ。
 にしても、えらく嫌われたものだ。
 しかし彼女を大切にするのもけっこうだが、あんまり度が過ぎるのもどうかと思うよ。
 それって結局のところ相手のことをまるで信用していないって、公言しているようなものだからね。
 わかっているのかい? 粟田一期くん」
「っ! ちがう、俺はただ――」

 反論しようとする一期だが、そのタイミングでエントランスホール内に響いたチャイム音にて中断される。
 午後一時になった。
 噴水とからくり時計が動き出す。
 水と光が織りなす演出に歓声があがり、からくりが起動する。
 時計の文字盤下の扉がパカッと開いて、なかから姿をあらわすのは童話のキャラクターたちの人形だ。それらがくるくる踊りながらパレードをするというギミックなのだけれども……

「えっ、涅子?」

 千里は素っ頓狂な声をあげた。
 涅子とは黒子の衣装をまとった猫又たちの総称で、今回の旗合戦を執り仕切っているネコ奉行の麾下の者たちである。
 からくり時計のなかから出てきたのは、童話の人形たちではなくて黒子の涅子らにて、いつもならばカボチャの馬車があるところには、銅鑼が置いてあって、涅子の一体がこれを「グワ~ン」と盛大に打ち鳴らす。

 とたんに周囲の喧騒が消えた。
 自分たち以外、誰もいなくなった。
 大禍刻――旗合戦・第四幕がスタート!


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