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014 ダムダム、キュッキュッ、ネコパンチ
しおりを挟む小学校の体育の時間。
例年ならばプールが始まっていてもおかしくない時期なのだが、今年は二学期になってからとなっている。理由はプールに不具合が見つかったため。地震のせいか、はたまた近隣で行われた工事の影響かは不明ながらも、地盤沈下が起きてしまい底に大きなヒビが入ってしまったのである。
改修工事は大規模なものとなるらしく、夏休み中に計画されているそうな。
そのせいで本日の授業は体育館で行われている。
五年一組と二組の合同での体育の授業。
男女別にて五人ずつ組みとなり、バスケットボールでリーグ戦の総当たり。
ときおり黄色い声があがっているのは男子たちの試合が行われているコート。
キラキラ王子さまな霧山くんはサッカーだけではなくてバスケも得意。長身からくり出されるシュートがゴールのリングをゆらすたびに、声援がひと際大きくなる。
そんな派手なプレイの陰で、なにげに活躍していたのが同じチームの真田くん。彼は背こそは低いもののドリブルがうまい。コート内を縦横無尽に駆けまわり、立ちふさがる相手を軽やかに突破しては得点のチャンスを演出している。ばかりか自身もまた遠くからスリーポイントシュートとかをサクっと決めちゃうし。
どうやら男子の方は霧山くん真田くんペアがいるチームが優勝しそうである。
一方で女子の方はどうかというと……。
うちのクラスでは月野愛理が率いるチームがダントツに強い。彼女は何ごともさらりとこなす才媛。しかしながら優勝までにはちょいと手が届きそうにない。
なぜなら一組には地元の女子バスケットチームに所属している薬師寺涼子が率いるチームがいるから。彼女は丸橋小学校でも屈指の同性人気を誇る長身なイケメン女子。ボーイッシュでさばさばしており、かっこいい人。あれほどジャージ姿がよく似合う子をわたしは他に知らない。そんな彼女を慕ってバスケをはじめる子も多いときく。
とかくワンマンプレイが目立つ月野さんのチームに対して、薬師寺さんのところは全体のバランスがいい。彼女が司令塔となりうまくみんなの良さを引き出してゲームメイクをしているのだ。
そんな両チームの直接対決はすでに終えている。
月野さんもかなり奮闘したんだけど、軍配はパスワークを中心にして攻めた薬師寺さんのところにあがった。
で、一番の見せ場が終わりすでに大勢も決し、あとは細々と消化試合が垂れ流されてゆくばかり。
なのになんの因果か、よりにもよって最終戦がわたしと多恵ちゃんがいるチームと薬師寺さんのところとなってしまった!
最弱と最強の組み合わせといっても過言ではなく、実力差は明々白々。
すでに試合を終えた面々がひまを持てあまして見物に集まってくるから、さながら衆人環視の中の公開処刑のごとし。
「なぁ、この試合ってやる意味あるのか」
つぶやいたのは一組の男子の誰かさん。
まったくその通りだとわたしも心の中でうなづくけど、「時間の無駄だからやめよう」とはならないのが小学校の体育の授業なのである。
勝ち負けじゃない。全力でがんばる、やることにこそ意義がある的な教育思考。
とはいえダブルスコアどころかトリプルスコアもの大差がついて、一生もののトラウマを刻まれるような敗北に、はたして本当に意義があるのだろうか?
わたしの気分は巨大なゾウに立ち向かうアリンコ。
同志である多恵ちゃんをみれば、彼女はすでに遠い目をしていた。
「結ちゃん、わたしたちは今日伝説になるんだよ。かつてないほどにボロ負けしたダメダメなチームとして」
これから起こる出来事は、丸橋小学校の伝説として末永く語り継がれることになるであろう。いい物笑いの種にされるばかりか、クラスメイトたちからもきっとネチネチ嫌味を言われちゃうかも。
そうおどされてわたしは涙目になった。他のチームメイトたちも同じにてすっかり戦々恐々。
そしてついに試合開始を告げるホイッスルが非情にも鳴り響く。
わたしにはそれが絶望の音に聞こえた。
◇
案の定、試合展開は一方的なものとなる。
開始直後から点数差はぐんぐん開くばかり。
というか、スコアボードの片方はずっとゼロのまま。もちろんうちのチームである。下馬評通り、いやそれ以上のボロ負けっぷり。
なのにざわつく観衆たち。
「おっ、あいつ、また止めやがった」
「たまたまパスコースにいたとか?」
「ちがうみたいだぞ。その証拠にドリブルも阻止しているじゃないか」
目の前にたまさか飛んできたボールをはたいたのが、手始めだった。
パスをカットするとかそういう意図はなく、たんに反射的に体が動いただけ。
ドリブルでいっきに脇を抜けようとする相手。手から離れて床にてはずんでは、ふたたび手の中へと戻ろうとするボール。その横っ面をちょんと指先で小突く。それだけで進攻の流れが止まる。
とにかくボールがよく見える。
次に相手がどう動くのかがなんとなくわかる。
自分の体がおもいのほか滑らかに動く。骨や筋肉、関節たちがかっちり組み合って連動している。
頭の中に浮かんだイメージに自身の姿が重なる。
「あれ? これってばネコに変身しているときの感覚に似ているかも」
自身の変化にわたしが戸惑っていたら、髪留めから「そうだよ」と生駒の声。「結はネコに何度も化けているうちに、体の使い方のコツを自然と学んでいるんだよ」
おかげで並みよりちょい下ぐらいであった運動性能が底上げされて、並みよりちょい上ぐらいになっている。いまならきっと駆けっこのタイムも速くなっているはずとのこと。
よもやあのネコ化けにそんな恩恵があろうとは。
一対一になったとき、フェイントを交えながら軽やかなボールさばきにてこちらを翻弄しようとしたのは薬師寺さん。
ダムダム軽やかにはずむボールの音に、キュッキュッと鳴くシューズの声が重なり、まるでリズミカルな演奏のよう。
それをぼんやり聞き流しながらも、わたしの目がボールからそれることはない。
右へ左へ、緩急をまじえつつ揺れる薬師寺さんの体。
ボールが彼女自身に隠れるようにして死角へと移動した直後、ふらり倒れたと思ったら、そこから強く大きく踏み出し、いっきに加速する。
一瞬、本当に目の前から消えたように感じた。
だというのにわたしの体が置いてけぼりにされることはなく、背後から薬師寺さんの手にあったボールをネコパンチ。
ふつうならばこれでドリブルが続けられなくなる。しかしさすがは薬師寺さんであった。いったんは離れたボールにすぐさま追いつくと、その勢いのままに前進し華麗にゴールを決めてしまった。
◇
結局試合は大負け。
まさしく語り継ぐにふさわしい歴史的大敗である。
わたしたちのチームがとれた点数はたったの一点ばかり。多恵ちゃんが意地でもぎ取ったファウルからのフリースローによるもの。奇跡の一投、シュートを決めた多恵ちゃん自身がめちゃくちゃ驚いていた。
とはいえ不甲斐ない結果である。当然ながらけっこうな笑い者となったが、一方で「すごかったよ」「見直した」という意見もちょぼちょぼ寄せられた。
そればかりか薬師寺さんからも握手を求められて「ねえ、奈佐原さん、うちのチームに入らない? ぜったいにセンスあるって。いっしょに全国を目指そうよ」とか誘われてどぎまぎさせられる。
わたしは「めっそうもない」と断ったものの、それを見ていた月野さんがやたらとこっちをにらんできて、ちょっと怖かった。
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