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024 緊急事態、ゆれる救急車、乙女酔う
しおりを挟む忍び込んだところで、倒れている柴崎由香里をみつけた。
緊急事態につきわたしはネコ化けを解除。
人間の姿となって「だいじょうぶですか」と倒れている柴崎由香里に声をかけるも「うぅ」と苦しげな声ばかり。目はかたく閉じられたままにて、顔色も真っ青。
これはダメだと判断したわたしはまず台所へ行ってコンロの火を消し、やかましい笛吹きケトルを黙らせる。その足で居間の棚の上にあった電話を手にとるとピッポッパッ、迷うことなく救急車を手配する。
その際に電話機のすぐそばにお薬手帳やら保険証がまとめられてあるポーチを発見。居間の座卓の足もとに置かれてあった財布入りの手さげカバンへそのまま放り込む。これでよし。必要最低限のものはそろった。あとは玄関扉と門を開けて、家の前で救急車が来るのを待つばかり。
わたしの手際の良さに生駒が「へえー、意外と冷静だねえ。感心感心」なんぞと言ってくれたけれども、わたしは「まえにおじいちゃんが倒れたときに、お母さんがやってるのをそばで見ていたから」と答える。
救急車を呼ぶ。たったそれだけのことでも一度体験しているかどうかの差は大きい。
もちろん動揺はしている。心臓なんてずっとバクバクしっぱなし。それなのに自分でも驚くぐらいスムーズに体が動いた。でもそれは生駒が褒めてくれたような立派な理由じゃない。
ちょっと薄情な物言いになるけど、たぶん身内じゃないから。赤の他人だからこそ冷静に対処できたんだと思う。もしも倒れたのが自分のお母さんや仲良しの多恵ちゃんとかだったら、わたしはベソをかいてオロオロ狼狽するばかりであったろう。
それに今回は柴崎由香里当人に助けられたところも大きい。電話のところに自宅住所や生年月日などが書かれたメモ書きが貼られてあったり、もしものときに必要なものがまとめてあったり。
彼女の夫である柴崎隆はすでに病で没している。きっといろいろあったはずだ。そのときの経験が活かされていたのであろう。
救急車は通報してから十分ほどで到着。
サイレンを鳴らしながらの登場なので、当然ながらご近所さんたちも「なんだ」「どうした」とぞろぞろ顔をみせる。
それらの目にさらされつつストレッチャーにのせられて救急車へと運びこまれる柴崎由香里。
わたしもなし崩し的に付き添いとして乗り込むことになる。
緊迫した現場。とてもではないが「赤の他人なんですけど」とは言い出せる空気ではなかった。
◇
救急車はけっこう揺れる。ときと場合によってはジグザグ走行もある。しかも患者に付き添うことになると縦長の椅子のお世話になるから、電車のロングシートに腰かけている状態と同じになる。
揺れる車内と極度の緊張、独特のニオイ漂う異空間という状況は、三半規管にやさしくない。とどのつまりは酔いやすい。
わたしはけっして乗り物に弱い方ではないけれども、どうやら道がよくなかったらしい。
救命救急センターに到着したときにはすっかりヘロヘロ。
だからぐったりのびているうちに、緊急カテーテル手術なるものが終わっていた。手術時間はほんの一時間ほど。急性心筋梗塞とかの病気だったみたい。
結局、柴崎由香里はそのまま入院することになった。
わたしは眠ったままの彼女の枕元でしばらく看病してから、病室をあとにする。
いろいろ巻き込まれてしまったけれども、だからこそわかったこともある。
柴崎夫妻には子どもがいない。だれか身内に連絡をとろうとしたのだけれども、その相手がいなかった。遠くに親戚がいるらしいけど高齢にてとても駆けつけられそうにない。
そのようなことがお薬手帳とかが入っていたポーチの中に手紙としてしたためられてあった。
誰もいない。
このことにわたしはちょっとショックを受けるも、手紙に目を通した看護師さんは「この頃多いわよ。こういう方」とケロリとしていた。
親類縁者も世代交代が否応なしに進む。
かつては頻繁だった行き来もじきに回数が減り、関係性は次第に薄まっていく。
これを阻止するには定期的に親族一同が集まる機会を設けるか、もしくはそれが可能な場所でもないかぎりは関係を維持するのがむずかしい。
うちの奈佐原家の場合、お父さんのお兄さんである伯父さんが継いだ本家筋が健在なので、いまのところ結びつきは強い方だと思う。
お母さんなんかは「お歳暮やお中元のやりとりがたいへん」とグチをこぼしているけれども、なんだかんだで楽しんでいる節もあるし。
「これってとても恵まれていたんだ」
わたしは自身の境遇についてぽつり、つぶやかずにはいられない。
これを耳にした生駒。「えにしにもいろいろあるのさ。どこまでもまとわりつくうっとうしい腐れ縁もあれば、いくらがんばってもあっさり切れちまうえにしもある。たとえ血縁であったとしても切れるときは切れる。ちょっと寂しいけど、しようがないことさ」その声音にいつもの威勢はなかった。
恵まれた者がいる一方では柴崎由香里のような人もいる。
独居老人や孤独死が増えているということはニュースで知っていた。でもテレビの画面越しに伝わる情報は、どこか遠い世界の出来事で。
それが急に生々しい現実として目の前にあらわれたことに、わたしは少なからず戸惑っている。そして迷ってもいる。
お医者さまは「これでだいじょうぶ。当面は問題ない」とおっしゃってくれたけど……。
いっそのこと渡辺和久に彼女が緊急入院したことを報せてみようか。でもそれを当人たちが望んでいるのかがわからないところが悩ましい。
勝手な思い込みで突っ走った結果、心臓が弱っている柴崎由香里がびっくりポックリとかなったらしゃれにならない。うーん。
病院の裏手のひとけのないところで、ネコ化けしたわたしはトボトボ誰もいない柴崎宅へと向かう。目的は渡辺和久宅へと侵入したときと同じ。
なんらかの想いの欠片でも見つかればと考えている。
「……ねえ、生駒」
「なんだい、結」
「今回の仕事の説明を受けたときに、たしか『手をこまねいているうちに別の事情も噴出した』とか言ってたけど、もしかしてそれって彼女の体調のことだったの?」
「あぁ、もともとあまり丈夫な性質ではなかったらしいけど、夫に先立たれてからはいっそうダメになってねえ。このままだと天命が狂うとわかったときには稲荷総会もあわてたものさ。でもって、死んだ柴崎隆もこのことをとても心配していたのさ」
「なるほど。だから強引にくじびきで担当を決めたんだ」
「そういうこと。結にはめいわくをかけるけど頼んだよ」
「うん。わたしもこのままでいいとは思えないから、やれるだけやってみる」
あらためて決意を固めつつ、わたしはひょいと壁の上へ移動。
前方に小学校低学年の集団を発見したからだ。あれは危険。小さい子たちはネコというだけではしゃいで突っ込んでくるんだもの。
塀の上を歩き難をのがれたわたしは、そのまま目的地を目指す。
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