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29 キラキラ妹
しおりを挟むわりと腹黒なイクロス王子は人使いが荒い。
バレちまったものはしようがないと、三つの変身を素直に見せた私が馬鹿だった。
そのせいでフクロウ宅急便のみならず、黒猫宅急便まで酷使されることに。
外部にはギューンと飛んでいかされ、内部にてシュタタと走らされる。
なにせ人口五十万を越える城塞都市国家につき、内部は広くて街並みは複雑な造りとなっている。都内といえども手紙などを届けようとすると、場所によっては数日の猶予が必要となるほど。それがザックリと省略されるとあって、黒猫宅急便はほとんど王子の専属となりつつある。
そんでもって二度ほど配達途中に襲われた。
もちろん返り討ちにしたけどね。
初めの襲撃は屋根の上をシュタタと走っていたら、問答無用で魔導銃にて狙撃された。
後頭部を直撃した衝撃。あれにはさすがにビックリしたさ。へっちゃらだったけど。
ああ、魔導銃ってのは火薬の代わりに魔力を使う魔導武器のことね。世界は違えどもヒトの考えることは似たり寄ったりらしい。他にも魔導剣とかもあるんだ。魔力を込めると刀身がピカッと光ったり真っ赤な炎に包まれるんだよ。格好いいよね。
だけど魔力ゼロの私には使えない。こんちくしょうめ。
二度目の襲撃は覆面姿の男たちに待ち伏せされて囲まれた。
みな殺る気まんまんな武器を手にしていたけど、ボコってやった。師匠との組手のおかげで、私はついに手加減を身につけた。その技名を「肉球掌底」という。
この肉球掌底ならば、とりあえず死なせずに相手を無力化できる。
無駄な殺生をせずにすんで私も幸せ、殴られたほうもプニっとした感触でちょっと幸せ、という夢のような攻撃さ。
襲われた理由は、きっと王子から預かった荷物が原因なのだろうけど、中身については怖いから聞いてない。
なお襲ってきた連中の大半が、とある宗教国家の工作員だったらしい。
なんでも怪しげな女神を信仰する国らしくって、ハムートにも国ぐるみにて入信しろと執拗に迫っているんだとか。「そんな余裕も金も暇もない」と突っぱねていたら、裏でごにょごにょという次第。
あー、いやだいやだ。揉め事の匂いがプンプンする、関わりたくない。
だというのに重宝がられて修行やギルドの見習い仕事の合間に、王城へと呼びつけられる機会が増えていく。おかげでこの頃、すこぶる忙しい。
城といっても夢の国にあるような優雅なもんじゃない。
どちらかというと城塞に近い造りの厳めしい建物。上流階級がきゃっきゃと屯している優美な区画もあるらしいのだが、イクロス王子は魔甲騎兵団の偉い人なので、大抵が無骨な軍用区画に入り浸っている。
よって関係のある私の足も自然とそちら寄りになって、優雅なきゃっきゃとは縁がなかったはずなのだが……。
イクロス王子にお仕事完了の報告を済ませた帰り道。
廊下をテトテト歩いていたら、メイドさんらに両脇を抱えられて拉致された。
連れていかれた先は、庶民には一生縁がないはずの優美な区画。
落ち着いた雰囲気の庭先にセッティングされたテーブルセット。そこにある椅子のひとつにポスンと置かれた。
向かい側の席には、ニコニコ顔のキラキラした可愛らしい生き物がいる。
眩い金色の狐っぽいケモ耳と、ふさふさ揺れる尻尾が特徴的な美少女。以前にフクロウフォームにて助けてあげたお姫さまである。
たしか名前をアミット・ハムート、手配書の依頼主の欄にそう書いてあったと記憶している。
「貴女ね、近頃お兄様と親しくなさっているという方は?」
開口一番の台詞がこれ。てっきり「この泥棒猫!」なんて言われるのかと、内心ではドキドキしていたのだが、彼女のソワソワした様子からして違うようだ。
これは……、もしや恋話に興味津々な乙女の反応かな?
イケメンのわりに女っ気のない仕事人間の兄。
そんな男の周囲についに女の影が! これは妹として是非とも確認せねばならぬと意気込んだみたい。
とはいえ誤解は早々に解いておかなければ。イクロス王子が幼児性愛者のレッテルを張られてしまう。面白そうなので放っておきたいところだが、後でバレたら死ぬど働かされそうな気がするので止めておこう。
すると目にみえてガッカリして、しゅんとなってしまうお姫さま。
なんだこの可愛い生き物……、超モフモフしてぇ!
む、いかん、静まれ我が右手よ。色即是空、落ち着け私。
衝動的に手を伸ばし勝手に触れることを、世間では「痴漢」というのだ。
なんとか理性を総動員して己の欲望に打ち勝ったものの、目の前のお姫さまは相変わらずしおれたまま。あんまりにも気の毒だったので、ギルド内部の醜聞をいくつか披露してあげたら元気になった。
受付嬢と事務員との不倫話。
乙女にはちょっと刺激が強すぎたのか、ビビビと尻尾の毛が逆立っていたけど。
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