五珠物語

月芝

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第四部 白珠の章

206 第二の空船

 
 アッサマが王冠を手にし浮遊島の管理者になったことにより、幽霊城内を自由に動けるようになった。一行はすぐに城の外へと向かう。
 関係者専用の通路や昇降機などがあったので、ほんのわずかな時間にてあっさり表へとでられた。
 あまりにも楽だったもので、一同は「これまでの苦労はなんだったのか?」と、ちょっと遠い目をしたのはさておき……

 外で五人を待っていたは、アッサマがさきほど王冠を通じて視たというナゾの空船の威容であった。
 すでに戦闘は終了している。
 どうやら第二の空船が軍事介入してきたことにより、情勢がいっきに動いたようだ。
 空賊たちは逃げるか蹴散らされるか、あるいは捕縛されてしまったらしい。

 第二の空船――
 大きさは尚たちがお世話になっている空船の半分ほど。
 だが、形状がかなり異なっている。
 上部についている筒状をした風船も細ければ、船体そのものもかなりシャープにて。
 尚たちが搭乗している空船は、いかにも豪華客船といった感じで、空飛ぶクジラのようなイメージだ。
 比べて新たにあらわれた空船は、シャチとかサメを連想させる。
 甲板には長い筒が三つ並んでいる連装式の砲塔が二基、搭載されている。
 開閉式の翼を持ち、プロペラの数が多い。
 おそらくだが機動力、戦闘力ともに、こちらの方が上であろう。

「なんだ、あの船は?」
「まるで見たことのない形だが……ずいぶんとものものしい雰囲気だな」

 アッサマとラヴァが興味深げに見上げている横で、千奈津、尚、優斗たちは集まりひそひそと。

「なぁ……あれって、どう見ても戦艦とか軍艦ってやつだよなぁ」
「うん、兄ちゃんの言う通りだとおもう」
「そりゃあ国軍とか領軍に騎士団とかがあるんだから、水軍? いや、この場合は空軍になるのかしらん? だからまぁ、そんなのがあってもおかしくはないんだけど……」

 第二の空船をねめつけ千奈津は言った。

「この世界の雰囲気にそぐわないというか、異質さを感じるわ。この浮遊島以上にね」

 古代文明の隆盛や浮遊島の建造には迷い人がかかわっている。
 それと同じ……いや、それ以上にあの空船からは危険なニオイがぷんぷん匂う。
 ラヴァが口にしたように、ものものし過ぎるのだ。
 空賊育ちのアッサマが知らなかったことからして、おそらくは秘密裏に開発・造船されていたのだろうけど、それにしたっていかつすぎる。
 あんなものを造って、戦争でも始めるつもりなのか?
 柑の国の王さまはいったい何をたくらんでいるのであろうか?

  〇

 浮遊島は幽霊城の周辺に広がる黒い森。
 そこを抜けた先にあるひらけた場所にて――

 陣幕で区切られた空間。
 テーブルとイスがセッティングされており、茶器やお菓子なども用意されている。一見すると優雅にお茶会を楽しんでいるかのよう。
 少し離れたところには、アッサマの相棒である飛竜ビーテルとラヴァの相棒である騎竜セプルの姿もあった。
 どちらとも自分の主人が戻ってくるのを待ちわびて、こうして駆けつけたという次第。
 一羽と一頭は気が合ったのか、与えられた餌を仲良く並んで食べている。
 ほっこりする光景だ。
 けれども……

 視線を戻せば、テーブル周りの空気はピリリと張り詰めていた。
 この席を執り仕切っているのはドロテア・ラトリアム。
 皓の国の大公妃で、たまさか尚たち一行と空船に同乗したことが縁で、一連の出来事に深く関わるようになった。
 この地に集った関係者のなかでは、もっとも高位の人物でもあり、こういった場を扱うのにも慣れているので、それに異を唱える者はいない。
 ドロテアをサポートしているのは、彼女の専属護衛兼侍女であるアーズだ。

 ドロテアはいつもどおりのたおやかさ、顔には微笑みを浮かべている。
 だが、いつもより凛とした空気をまとっており、外交用の仮面をかぶっているようだ。
 一方でアーズはスンと表情を消している。もともと隙のない彼女だが、より張り詰めているのは、これから迎える相手が相手だからであろう。

 尚、千奈津、優斗、ラヴァらはなんだかんだでドロテアのお世話になっており、その高潔な人柄も把握しているし信用もしているから、勧められるままにおとなしく茶をすすっている。
 一方でこういった席に慣れていないアッサマはどうにも尻の座りが悪いらしく、もぞもぞしては、しきりに額にはまっている黒い輪っかを気にしていた。

 待つことしばし。
 じきにやってきたのは、揃いの軍服姿の一団。
 第二の空船に搭乗していた柑の国の者たちだ。
 率いていたのは黒紫の鱗を持つ竜人の女性であった。槍を携えている。竜騎士だ。
 けれども、ひと目するなり「えっ、どうして彼女がここに?」とおもわずつぶやいたのは、ラヴァであった。
 向こうもラヴァの存在に気がついたらしく、一瞥する。
 しかし向けられる目はとても冷たかった。旧知の間柄にて、再会を喜ぶといった風ではなくて、むしろ視線で射殺さんばかりのものであった。
 それがラヴァをいっそう困惑させているようで……


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