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005 仕様
しおりを挟むレベルアップの音は結局、昼過ぎまで続いた。
ルーシーいわく、史上空前、前人未踏の莫大な経験値量にて、ほぼほぼレベルカンスト状態とのこと。
そりゃあラスボスのいる城の敵を根こそぎ倒して、もろもろぜーんぶ独り占めすれば、ねえ。
わざわざ異世界くんだりまで飛ばされて、わずか一晩で目的達成。
レベル上げもほぼ終了。しかも完全に他力にて。
本体の電源をセットしただけの放置でゲームクリア。
なんたるクソゲーな世界なのだろうか!
いや、クソゲー仕様なのはこのわたしか?
まじめに勇者業に勤しむ気なんてさらさらなかったけれども、せっかくの異世界ファンタジーなのに、ワクワクも冒険もありゃしない。
ちっとも楽しくない異世界生活。
二日目の夜は、野宿。
見上げた星屑のステージはきれいだけれども、月が七つもあるのが際立っており、あらためて異世界に放出されたという事実をしみじみ噛みしめる。
健康スキルのおかげで、どこでもへっちゃら。たぶん今のわたしには地獄すら生ぬるいお子ちゃま天国。
そして更に楽しくない要素がポロポロと露見する。
ずっとヘンだとはおもっていた。
わたしはこちらの世界に来てから一度もトイレにいってない。
異世界渡りの勇者だからとおもい込もうとしたけれども、さすがに丸二日も過ぎれば無理があった。
ルーシーにたずねたら「健康ですから」のひと言で片づけられた。
ついでに言うと、わたしは喉もとくに渇かないし、お腹もちっとも減らない。
これらもすべては健康スキルのせい。
だって脱水症状になったら健康じゃなくなるもの。
空腹で動けなくなるのも健康じゃない。
おしっこをガマンしていて体調を崩すのも、尿結石ができても、膀胱炎になっても、やはり健康とはいえない。
いつでもどこでも、二十四時間、年中無休にて健康でいられる体。そりゃあ、生身じゃ無理だわ。
ロボットっぽい肉体という意味を、わたしは遅まきながらようやく理解する。
つまり、わたしには異世界グルメ探訪を心の底から楽しむことも出来ないのである。
だって飲食行為が生きるために必須じゃなくて、ただの嗜好に成り下がっているんだもの。
サイボーグ乙女戦士ゆえに、イケメン王子とのキャッキャウフフなラブストーリーも無理。
素敵なお姉さまや可愛い妹たちと百合百合する展開もなし。
まぁ、これは生身でも難しいであろうが、それでも可能性はゼロではなかったはずだ。最悪、勇者特権を行使すればあるいは……。
けど、すでにゼロが確定。
異世界モノのアレやコレなお楽しみが根こそぎ消失。
もちろん、ふつうの女のしあわせも望めない。
「ねえ、ルーシー。わたしってば、ひょっとして健康だけど、健全じゃない?」
ビスクドールは親指をビシっと立てて、これを即座に肯定。
全身丸ごと健康体だけど、存在そのものが不健全。
それが、わたしことアマノリンネという女。
いやー、こりゃあ参ったねえ。十代半ばで生涯独身が確定してしまった。文字通り鉄の処女。
だって体、サイボーグだし。
しかも道行がてら体内の武器を軽くいくつか試してみたんだけど、老神さま、ヤバいブツを密輸し過ぎだぜ。
でるわでるわ、素人がぱっと思いつくかぎりの近代兵器っぽいのがみっちり仕込まれてある。
あのジジイ、荷物を送るときとかにちょっとした隙間とか、ぱっつんぱっつんに詰めないと気がすまないタイプだったようだ。
いろいろ諦めた異世界生活、三日目。
なんか街道っぽいところに出た。
こちらに向かっているはずの迎えは、まだ来ない。
いい加減に歩くのも面倒になってきたので、「富士丸でギューンと空を飛ばない?」と提案したらルーシーに「構いませんが、あんなので乗り込んだら王都がえらい騒ぎになりますけど」と言われて断念する。
草原の真ん中を通る道を、人形を抱いてテクテク歩く。
健康スキルのおかげで、体も精神もいささかも疲弊はしていないが、ダルいものはダルい。
足下はいちおう舗装されてはあるものの、所々に穴が開いてたりヒビがあったり、けっこう荒れ気味。
アスファルトだらけの道路を見慣れた者からすると、かなりボロっちく見える。
とはいえ、神さま肝入りにて、わざわざ勇者を召喚するぐらいだから、世界情勢もかなりたいへんなのだろう。
こんな細かいところにまでは、とても手が回らなくても仕方ないか。
野盗とかうろついてる時点で、治安も乱れているようだし。
そう思った矢先に、前方にて土煙を発見。
どんどんこちらに向かってくる。
ようやく城からのお迎えの一団か。
とおもったら、またしても野盗。
ファーストコンタクトに続いてセカンドまでコレかよ。
……にしても数が多いな、百人ぐらいいるかも。いきなり十倍って。
戦時下の異世界の人心は想像以上に荒んでいるようだ。
やれやれである。
「ねえ、ルーシー。今度は使えそうな品をゲットしたいから、できるだけ傷つけたくないんだけど」
「でしたら、左の小指を連中に向けてください」
「えーと、こうかな」
言われるままにしたら、小指の先からシューと何やら黄色いガスが大量に噴出。
空気より重たい気体が地を這うようにして、野盗たちを包み込む。
そしてあっという間に全員が口から泡を吹いて逝ってしまった。
悪魔の兵器第二弾の登場。
火炎放射器もたいがいだったけど、こっちもエグいな。使っておいてなんだけど、やっぱり地球人類ってバカだろう。こんなもん実用化してんじゃねえよ。
一面たちまち死の荒野。
はや、大台に突入。
でも健康スキルのおかげで神鋼精神はへっちゃら。
「……さて、とりあえず、漁るか」
「了解です」
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