わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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083 絶対防御の末路

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 電磁網に捕まりウゴウゴするばかりの、幼虫タロウちゃん。
 それをトゥーキックでドムドムと蹴るビスクドール。
 網の奥より、なにやらモゴモゴと苦悶の声がもれ聞こえてくる。
 攻撃が通っていることを確認してルーシーさん「やはりリンネさまの武器類なら、絶対防御スキルも関係ないみたいですね」と言った。
 いかなる魔法や攻撃をも防ぐと評判の絶対防御スキル。
 が、そのなにやらスゴそうな言葉の響きとは裏腹に、いろいろと落とし穴があったようだ。
 たしかに攻撃は通らない。
 でも捕獲できないわけじゃない。身柄を拘束できないわけじゃない。
 ぶっちゃけ、深い落とし穴にでもおとして埋めてしまえば、それでケリがつく。
 つまり冷静に対処すれば、どうとでもなる相手ということ。
 ギフトやスキルにはこんな側面があるから油断できない。わたしも用心しないとな。
 それからわたしの攻撃だけが通る理由は、性能差にあるとルーシーは分析。
 ギフトは女神さまが用意したもの。その総数は召喚された勇者の総数と同じで三千種類。ただの一つとて同じものはない。
 スキルは個人差で発現するもの。こちらは似たようなモノも多々見受けられるそうな。
 これにわたしの体には、プラス密輸された大量の武器が仕込まれている。
 そのすべてが神さま印の一点モノ。外部からこっそり持ち込んだがゆえにノットガルドの理から外れているので、こっちの世界の法則からも外れている。
 女神さまのおすそ分け三千分の一と若人に秘められていたチカラ。
 ベースが同じなら、上乗せされているこっちが強いのが当たり前。あげくにレベル差がもうとんでもない状態。
 子どもたちが「バーリア!」と叫んでごっこ遊びをしているところに、無粋な大人が乱入して「てぃ!」と脳天にチョップをぶちかますようなもの。

「なるほど、つまりわたしは『大人げのない女』ということになるのか」
「まぁ、そういうことです。ではそろそろ行きますか、リンネさま」

 幼虫タロウを連れて、わたしたちはハマナク主都の上空に待機させていた宇宙戦艦「たまさぶろう」へと乗り込む。
 艦よりペカーと照射された光の柱にて、ふよふよと浮かんでいくわたしたち。
 眼下では王城が盛大に燃えている。歴史と伝統ある建築物がメラメラ燃えている。
 その周囲にはやたらと薄着だったり、おっぱり丸出しだったりする女たちの姿が多数あった。
 タロウのハーレム要員だ。魅了の瞳の支配下にあっても、本能的に火事から逃げ出したものの、そこから先は思考が停止しているのか、みんなでぼんやりと焚火見物。
 まぁ、この騒ぎを聞きつけてじきに男たちが駆けつけるだろうから、こっちの始末は彼らに任すとして、こちらはこちらでやるべきことを片づけるとしましょうか。



 幼虫タロウが解放されたのは、全面ガラス張りの小さな部屋。
 せいぜい一メートル五十センチ四方しかない狭い空間にて、立ち上がることもできやしない。

「なんだ? どこだここは? どうして神に選ばれたボクがこんな目に?」

 ろくすっぽ動くこともできない密室。見れば部屋の中には他に小さな箱がひとつ。
 どうやら自分は拘束されているようだと、察したタロウ。
 それでもまだ余裕があったのは絶対防御スキルの存在があればこそ。どうせ死ぬことはないとたかをくくっていたから。
 そんなタロウのもとに女の声が届く。

「あー、あー、聞こえますか。こちらリンネです。あっ、返事とかいらないんで。一方的な通信ですから。それではとっても悪い子なタロウちゃんには、これからヒドイ目にあってもらいますんで覚悟して下さい。では、スリー、ツー、ワン、ポチっとな」
「えっ、ちょっ、おまえ何なんだよ! それからいま何のスイッチを押しやがったっ!」

 タロウの文句は、リンネには聞こえない。
 ただし映像はバッチリ届いている。
 そして動き出すタロウが入った小部屋。
 はじめは緩やかな上昇にて、エレベーターに乗っているような浮遊感に襲われるも、すぐさま強烈な重力を受けて、タロウの身は床に這いつくばることになる。
 まるで大きな手で上から全身をギュッギュッとされているような状況。
 じきにその苦しみから解放されたとおもったら、一転して無重力。
 そしてガラスの向こうに広がるのは星々の海。
 振り返れば遠ざかる青い星。
 そう、タロウくんの身柄は現在、大陸弾道ミサイルっぽいロケットペンシル改良版の尖端に取り付けられた小部屋の中にあったのである。
 そしてロケットの向かう先には、メラメラ元気に燃える真っ赤な太陽。
 計算では十日後に到着する予定。
 映像の向こうでは、タロウくんが必死になってガラスをバンバン。
 どうやら早くも自分の辿る運命を悟ったようだ。
 無駄無駄、それって超強化ガラスだから。オービタルレッドクィーンの渾身の拳でも二撃目までは耐えられる優れもの。いかに勇者とて、ノットガルドにきてから腰しか振ってないヤツに、素手でどうこうなんてできやしないよ。
 まったく、その察しの良さを、もっとべつのところで発揮していれば、こんな結末は避けられたであろうに。五人ぐらいのプチハーレムで満足していればよかったんだよ。あんたはあまりにもハメを外し過ぎた。
 はてさて、ご自慢の絶対防御スキルくんは、あの脱出不可の灼熱地獄でどうなることやら。

「ところでリンネさま、いっしょに放り込んでいたあの小箱は何なのですか? ずっと気になっていたのですが」とルーシー。
「あれはお弁当だよ。長旅だし、途中でお腹が減るかなぁと思って、アルバに頼んだの」とわたし。
 意外な気づかいを発揮する女主人に胡乱そうな視線を向けたお人形。
 さすがはルーシーさん、自分のご主人さまがそんな殊勝な人格ではないことなんぞ、まるっとお見とおしのようだ。
 ならばお教えしようとわたしは言った。「中味は垂涎ものの豪華サンドイッチ。ただし使用されているパンは毒麦でこしらえたものだけどね」

 十本あれば脅威の繁殖力にて国を滅ぼせるといわれる毒麦。
 食べると激烈な腹痛におそわれるので、野生の飢えちぎったケモノですらもがスルーする危険植物。
 密閉された小部屋でブップッピィドゥ。
 だから言ったでしょ。タロウにはとびっきり悲惨な異世界物語のラストをお見舞いしてあげるって。
 わたしはこれでも約束はキチンと守る女なのだ。


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