わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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100 ナゾの女と最凶

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 睨み合うナゾのブルネット美女とサイボーグ乙女。
 いきなり出現したわたしに動じることなく、青い瞳にてこちらを静かに見つめてくる。
 小ぶりな顔の中にあるのは、かぎりなく黄金比に近い形にて配置されている眼と鼻と口。
 八頭身にて均整のとれたプロポーション。肌はやや青みがかった白さにて、月下の雪原を思い起こさせる静謐を漂わす。
 軽く波打つ髪の毛が腰の辺りにまでのびている。
 掛け値なしの美女。
 問われれば万人が万人、そう答えるであろう。ただし人間種族限定にて。
 どおりでわたしの中のひがみちゃんが暴れるはずだ。
 いいや、この女をまえにすれば、たいていの者の中に住むひがみちゃんが、しゅたっと立ち上がり軽快なシャドーボクシングを始めることであろう。
 容姿だけを見れば、とても王子をそそのかして国を傾けたり、王族の暗殺に手を染めるようにはおもえない。異世界転移の初っ端に遭遇していたら、まず彼女がヒロインだとかんちがいする。
 けれども実際に面と向かって立ち合えば、「こいつが犯人だ」との確信を得る。
 目の前の相手からは、そう思わせるだけのプレッシャーがビンビンと伝わって来やがる。

 この女……、たぶんかなり強い。

 これまでに多くの勇者や優良種族やらえらい人たちなんかを見てきたけれども、そのどれとも違う類のプレッシャー。
 とはいえ、このまま屋根の上でにらめっこを続けていてもしょうがない。
 周囲はすでにルーシー指揮のもとでセレニティたちが固めており逃げ道は塞いだ。
 ケンカは先手必勝って、ヤンキーマンガの主人公も言っていた。
 だから問答無用で左人差し指マグナムを発射しようとする。
 しかし女はいち早くこちらの動きを察知。
 女の身がぴょんと屋根の外へと跳ねる。
 飛行魔法でも使わないかぎりは、あとは落ちるしかない。
 だが女の身は落ちることなく空中にとどまり続けている。
 よくよく見れば、細い糸が張ってあり、女はその上に器用につま先立ちをしているではないか。
 しかしかなり動きが制約されている状況にて、ここぞとばかりに左のマグナムの照準を向けようとしたら、ふたたび先んじて女が動く。
 糸のたるみを利用してぽよんと跳ねて、より高い位置へと逃げる。
 ちょうど見上げる格好となったわたしは、すかさず銃口を向けるも、すでにそこに女の姿はない。ほんのすこしだけわきへとカラダをずらしこちらの狙いを外すと、さらなる高所へと糸を伝って移動を完了しているではないか。
 わたしは違和感を覚えた。
 ここまで見事に行動の先の先をいかれている。
 あまりにもタイミングが絶妙にて、まるでこちらの心でも読んでいるかのよう。

 ……まさか、そういうギフトかスキル持ちか!

 そのことに考えが及んだときには、すでに女の身は天井付近へと到達していた。
 ラグマタイトの主都はまるごと巨大な建造物の中にすっぽりと納まっているので、当然のごとく街の上には天井がある。そこにはいろんな配管がびっちりにて死角が多い。
 潜り込まれたらかなりやっかい。
 場所が場所なので派手なのをぶっ放すわけにもいかない。
 わたしが攻撃を躊躇していると、ルーシーがセレニティに命じて、女の行く手を塞がせようとする。けど……。

 空を自在に飛べるセレニティたちの動きが、いつもよりも鈍い。
 みれば糸がカラダに絡まって、行動が阻害されていた。
 それもネトネトらしく、まるでトリモチ状態。さすがに超がつく優良種たる彼女たちを完全には止められないものの、それでも逃亡の時間は稼げる。

「あっちゃー。糸は糸でもいろいろデキちゃうタイプか」

 ビヨンビヨン跳ねたり、ベタベタくっついたり、伸びたり縮んだり、楽々体重を支えていることからして見た目よりもずっと頑強。この調子だと「斬糸っ!」とかもやれそうだし、ステキな服も織れちゃうかもしれない。
 なんにしても能力の使い方が巧い。
 あのブルネットの女スパイ。どうやら美人なだけじゃなくって頭もかなりいいらしい。しかも経験豊富にて度胸もある。なにせセレニティたちを相手にしてもビビることなく、見事に逃げおおせようとしているからな。
 おそらくはこちらが生きたまま捕らえて情報を引き出したいと考えていることも見透かされている。

「まいったねこりゃ。どうしよう、ルーシー」

 困ったときのお人形さん頼み。
 すると彼女はこう言った。

「こうなってはやむをえません。ドカンとやっちゃいましょう。壊れた施設は修理すればいいですけど、逃がした魚は悔やんでも悔やみきれませんから。多少のケガは『だいたいよくなるポーション』で治せます。それで生きた捕虜をゲットです」

 そうは言っても、やはり街中だし。
 あんまり無茶をするとメスライオンに怒られやしないか心配すると、青い目をしたお人形さんはこうも仰った。

「だいじょうぶ。すべての罪は女スパイにおっかぶせましょう。なぁに、少しまえに爆破をやらかしているんですから、いまさら罪状がひとつぐらい増えたところで問題ありません」

 ルーシーがイケると力強く言ってくれたので、わたしはその言葉を信じることにした。
 だってわたしたちは仲間なんだもの。
 心の中でひがみちゃんも「やっちまえ、ガッデム!」と拳を突き出している。そればかりか一家揃って「ガッデム、ガッデム!」と応援してくれている。
 みんなの声援を受けて、わたしは左腕を遠ざかる女スパイに向けた。
 パカンと手首がエビ反りになって、腕の中からズドンと発射されるロケットランチャー。
 一発だとかわされそうなので、オマケでもう一発。
 背後からせまる二つの脅威に気がついて、女があわてて逃げ出すも少しばかり遅かった。
 まんまと逃げおおせると油断していたな。

 ラグマタイトの主都の上空に突如として発生する爆発と爆音と爆炎。
 大気がふるえて一部が崩れる天井。破壊された配管とかの残骸や石くれやらが降り注ぎ、当然のごとく二次被害が起こって、街中がけっこうなパニック。
 肝心のターゲットはなんとか直撃こそは避けたものの、爆風にがっつり巻き込まれた。
 吹き飛び、その身が白煙の尾をひき、ひゅるひゅる落下していく。
 さすがにあの高さから無防備な態勢で地面に落ちたら死んじゃうかも。
 しかし心配はいらなかった。
 そのまま落ちるかとおもいきや、女は天井から吊るした一本の糸にて、びよーんとターザンごっこ。
 爆発をも利用して逃げおおそうとするとは、あの女スパイ超すげえ!
 が、それを許さないのが一発の銃声。
 見ればルーシーの手にはライフルっぽい武器の姿が。
 そして銃弾が狙いあやまたずに撃ち抜いたのは女の背中、ではなくって糸の方。
 ぐりんと大きく弧を描くように空をターザンしていた女は、ふいに支えを失って、勢いもそのままに猛スピードで宙へと放り出され、あちこちにゴンガンと派手にぶつかりながらゴロゴロ街中へと落ちていった。


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