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226 建国
しおりを挟むかつて悪名高き狂国があった。
その名をダロブリン。
貴族にあらずば人にあらず。女神から授かった勇者すらも、自分たちが富を得るための道具として使い潰す。
悪がまかり通り、善が虐げられる。法は形骸化しており、もはや用を成しておらず、中央の一部が肥え太り、その他大勢が骨と皮ばかりになっていく。そこかしこに民の屍が転がり、領内には怨嗟の声が満ち充ちていた。
しかしその国は、突如として終焉を迎える。
主都が消滅してしまったのだ。中央に富と権力を集中していたのが裏目に出て、まとめて吹き飛んでしまった。
支配者層の中には運よく難を逃れた者もいたが、それらも悲惨な末路を辿る。
もはや身を守ってくれる存在はない。
ある者や野盗に襲われ、ある者は民に袋叩きにされ暴徒に押しつぶされ、ある者は部下に裏切られ殺された。
生き残っていた貴族らに向けられた憎しみが血の雨を降らし、暴力の嵐が吹き荒れる。
そしてあとには何も残らなかった。
あまりの荒廃ぶりに、近隣諸国からも見捨てられた旧ダロブリン跡。
そこにあえて踏み込んだ一団がある。
「しっかし何にもねえなぁ」
見渡す限りの焼け野原を眺めてショウキチがボヤく。
その言葉に隣に立つ男はこう答えた。
「あぁ。だが、だからこそオレたちにとっては都合がいい。すべてはここから始まる。オレたちが始めるんだ」
この男こそが勇者の国の建国のために活動しているメンバーを率いているサキョウ。
辺境の小国リスターナを旅立ったショウキチは、活動メンバーらとどうにか接触することに成功して以降、ずっと彼らと行動を供にしている。もちろん自分たちの国を造るという夢を実現するために。
ショウキチは隣に立つ男の横顔を、まぶしそうに見上げる。
家が道場をしており、小さい頃より武道をたしなんでいたという、鍛えられた肉体はぶ厚く、自分よりも頭二つぶんほども背が高い。
おおらかな気質にて、豪胆。かとおもえば女性メンバーらのちょっとした髪型の変化に気がつくなんていう、細やかさも持ち合わせているサキョウを、ショウキチはすぐにリーダーとして慕うようになった。
それは他のメンバーたちも同じ。クセの強い連中が揃っているのに、こうしてまとまって行動出来ているのは、まちがいなく彼がみんなの精神的支柱となっているから。
立ち話をしている彼らのところに近づいてきたのは、リーダーの女房役であるイツキ。
女どもがキャアキャア騒ぎそうな見た目に反して、当人はいつも一歩下がって、補佐役に徹している男。
建国の夢は、もともとサキョウとイツキの二人から始まったもの。
だが気がつけばメンバーたちは百を超えており、大所帯となっていた。
「サキョウの言う通りだ。これから忙しくなるから、ショウキチも覚悟しておいてくれよ」
イツキの言葉に、「やれやれ」と大袈裟に肩をすくめてみせたショウキチ。
そのおどけた姿に、サキョウとイツキがくつくつ笑っていると、「なに? 男三人で集まってニヤニヤと。気持ち悪いわね」
なんともヒドイ言い草をしたのは、ややツリ目がかった女子。どこかネコを連想させる彼女はホノカ。女性陣の中でも中核を担っているメンバーである。
「気持ち悪いはひどくね?」ショウキチの抗議には「ふん」と鼻を鳴らしたホノカ。「そんなことよりも、ちょっと来て。おもしろいモノをみつけたのよ」
一見すると何もないダロブリン主都の跡地。
そこでホノカが仲間らと発見したのは、地下へと通じる階段。通路が半ば土砂に埋もれていたものの原型を留めており、試しに掘り進めてみたら、奥には部屋があり金貨の詰まった箱が保管されてあった。
「もしかしたらって思ったのよねえ。だって金庫室とか作るのって地下だと相場が決まっているじゃない。しかも絶対に頑丈にするだろうし。それで、ちょいと探してみたらビンゴというわけよ」
「マジかっ! でかしたホノカ」
話を聞いてショウキチは小躍りしてよろこぶ。
「そいつは助かるな。なにせ建国にはカネがかかるからな」とはサキョウ。
そしてイツキは「ふむ。話を聞いたかぎりでは、ちょっと裕福な商家の地下室といったところか……。それが残っていたとすると、これはひょっとしたら」と口にする。
我が意を得たりと、ホノカがにやり。
「そういうこと。さすがはイツキ、察しがいいわね。きっと他にもあるはずよ。なにせここは強欲なクズどもがひしめき合っていた場所なんですもの。きっとたらふく貯め込んでいたはずよ」
活動メンバーが増えるほどに、上がる意気とは裏腹に、頭を悩ますことになっていたのが活動資金の問題。
だが、それが一挙に解決するとあっては、俄然みんなの目の色が変わった。
「よーし、それでは、まずはみんなで宝探しといこうか。目指せ、一攫千金!」
サキョウの号令により、メンバーたちが我先にと、おもいおもいの場所へ散る。
ひと堀りするごとに、夢が確実に近づいてくる。
その想いが心を満たし気力を奮い起こし、みんなは全身をドロだらけにしながらも、笑い声を絶やすことはなかった。
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