243 / 298
243 ハッキング中間報告
しおりを挟む「黄色いオッサン」と「ははうえサマー」との七つの約束。
その一、とりあえず前は隠せ。
その二、勝手に分裂しない。
その三、女や子どもを泣かすな。
その四、できるだけ他人さまに迷惑をかけるな。
その五、ただし売られたケンカは買ってよし。そしてやるからには勝て。
その六、母は偉大なり。そこんところ、よろしく!
その七、項目一から六を守るのならば、あとはスキにしな。
以上。
これは断じて育児放棄ではない。我が子を信じての放任主義。でもきっと大丈夫。だってわたしの子なんだもの。
「して、そのココロは?」
「まともな子育てもわからんのに、変異したスーラの育て方なんぞ知るもんか」
ジト目のルーシーに問われたので、正直に答えた。
というか、なんでも体内に取り込んでは消化吸収するから、街に住民がいて生活ごみが出続けているかぎり、ヤツに喰いっぱぐれはない。腹が減れば勝手にゴミ箱を漁る。
教育については、これまた勝手に好奇心の赴くままに、その辺をブラブラしては興味深げに「ふむふむ」うなづいている。けれども、アレはたぶん理解しているふりをしているだけであろう。その証拠に、ちっとも賢くなっていない。もしも賢くなっていたら、前を隠すのに葉っぱだけは絶対に選ばなかったはずだ。
そのくせ四字熟語にだけはやたらと詳しい。「精力絶倫」がそれに該当するだなんて、わたしは初めて知ったよ。
「それにしても、せっかく飼う……じゃなかった、育てることになった我が子なのですから、いつまでも『黄色いオッサン』はどうかと。せめて名前でもつけてあげたらどうですか?」とルーシー。
もっともらしいことを言っているが、本音が若干透けて見えていやがる。
しかしわたしはこの案には首を横にふった。
「それはわたしもちょっと考えた。でも当人がいらないってさ」
「はて? それはまたどうして」
「えーと、なんでも『真名とは個人を特定し現世に縛るものにて、名前を与えられたが最後、真の自由が永遠に失われる。それすなわち生の奴隷へと落ちるに等しい。だからワレはこのままでよい』とか、小難しい哲学チックなことを言ってたよ」
「なんとなくわかるようなわからないような」
「まぁ、本人がいらないって言ってるんだから、黄色いオッサンでいいんじゃないの」
「……それもそうですね」
まぁ、そんなわけで、肝っ玉母ちゃん異世界育児日記は早々に終了。
黄色いオッサンは、気ままに主都近郊をぶらついている。
あいかわらずブツブツ「虚心坦懐、きょしんたんかい。すっきりさっぱりー」や「不易流行、ふえきりゅうこう。ぶーむはみずものー」などと、意味深っぽい台詞を吐いているが、「アレはそういうモノ」との認識が早くも住民らに定着しつつあるおかげで、以前のような騒ぎにはなっていない。
騒動もひと段落し、晴れて育児から解放されたわたしは、ひさしぶりにリスターナ城内にある竹林庭園の庵にて、竹女童の接待を受けながらまったり過ごしていた。
さっきまでリリアちゃんとマロンちゃんもいたのだが、二人は試験勉強があるというので、一杯だけお茶に付き合いさっさと行ってしまった。
学生だからしょうがないけれども、リンネお姉ちゃんはちょっとさみしい。
そのかわりに姿を見せたのは、いつになくマジメな表情をしたルーシー。
「リンネさま、ご報告があります」
「どうしたのよ、あらたまって?」
「アカシックレコードの非公開領域へのハッキングの件なのですが、一部が成功して、いくつかの新情報を得られました」
「おぉ! そういえば頼んでいたっけか。すっかり忘れていたよ」
「しかし性根が腐っていてもさすがは女神。おもいのほかにセキュリティが厳しく難航しており、全貌を解明するにはもう少し時間がかかりそうです。なのでわかったことだけでも、ひとまずお伝えしておこうかと思いまして」
この度、開示するのに成功した隠しフォルダは二つ。
一つは当たりで一つはハズレだったとか。
そして当たりといっても、内容の一部はこちらが自力で解明した情報に抵触。
かつてわたしたちが立てた、勇者のギフトが心臓に宿るという仮説。
この考えを肯定するような記述が、しっかりと明記されてあったという。ただしこの情報には続きがあった。
それはギフトの正体。
ギフトとは神の魂を削って造られたモノ。
神さまの超絶ミラクルパワーで「えいやっ!」と授けているのかと思いきや、まさかの移植手術。意外にも堅実だ。でもだとするとべつの疑問もわいてくる。
「カツオブシみたいに極薄でスライスしても、三千も用意したら、さすがにヤバくない?」
ギフトの量産は魂をゴリゴリ削る行為。
当初の予定では八十名のはずであった異世界渡りの勇者の数が、フタを開けてみれば三千人。その人数の分だけギフトを用意したのは、ノットガルドの女神さま。
神の魂というシロモノが、どれくらいご立派なのかはわらかないけれども、わたしにはとても無事で済むとは思えないんだけれど……。
「それだけカラダを張っているということなのでしょう。並々ならぬ覚悟を感じます。もしかしたら女神イースクロアは、この世界と刺し違えるつもりなのかもしれません」
思案顔にてなんとも物騒なことを口にするお人形さん。
「うーん。でも、わざわざそんなまわりくどいマネをしなくても、神パワーでドッカン! とかやればいいような気がするけど」
世界を水槽に例えたら、わたしたちは中でぴちぴち泳ぐ小魚。
女神は外からこれを眺めて管理をする飼い主のようなもの。それこそ水槽を蹴倒せば、すべてが終わるはず。
でもそれをしない。それどころか、わざわざ聖騎士なんて子飼いを放って、世に混乱と死をまき散らしている。
てっきりアップアップと苦しんでいる小魚たちを、はるか高みより眺めてニヤニヤしているだけなのかと思っていたけれども、文字通り我が身を削っての行動だとすると、ちょっと見方も変わってくる。
このことを踏まえてルーシーはこう推察した。
「もしかしたら、やりたくても出来ないのかもしれません。神とはこちらが考えているほど万能な存在ではないのかも。もしくは何がしかの制約があるとみていいでしょう」と。
それが本当ならば、こちらとしてはありがたい。
だって圧倒的強者に対して、つけ込む隙があるということだもの。
対女神戦線においては朗報。か細いけれども光明が射してきた。いまはこのことを素直によろこんでおこう。まだまだわからないことが多いけれども、それは続報を待つということで。
あぁ、ちなみにハズレのフォルダの方の中身なんだけど、そっちはアカシックレコードの記録係秘蔵のうふんあはんなアダルト動画と映像集だった。
後学のためにちらりと見せてもらったが、魔境だったよ。
なんという深淵……。アレでナニがどうするとか、とんでもない猛者がいたものである。
いやはや世界は広いね。
6
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる