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275 洗ロボ
しおりを挟む消防車ばりの水圧にて暴れるホースを必死に抑えながら、ジョババァーッと大量の水をまく。
表面についた汚れをざっと落としてから、特別配合された液体洗剤を散布。
水と洗剤がほどよく混じりしっかり馴染んだところで、デッキブラシを持つ手にチカラを込め、腰を入れてゴシゴシゴシこする。
とたんに夏の入道雲のような真っ白な泡がモコモコリ。
キメの細かい泡にて敏感なお肌にも優しい仕様。
ピンと立つマシュマロ泡の先っぽに息を「ふーっ」と吹きかければ、シャボン玉が飛んだ。
わたしがせっせとがんばっているのは、富士丸くんの洗浄。
ほら、前回の聖騎士との一件にて、ルーシーやたまさぶろうはちょいちょい絡んでもらったけれども、富士丸くんは出番なし。
なにせゼニスの光の翼は触れたモノを問答無用で消滅させちゃうからね。
そんな危ないシロモノの前にうかつに富士丸を呼ぶわけにはいかなかったのだよ。でもそのせいで一人だけハブられる格好になってしまった。
これまでの小競り合いとはちがい、けっこうな大舞台。
そんな晴れの席に呼ばれない。
三つのシモベの一角を担う身としては、なかなか切ない。
見た目は平気っぽかったのだけれども、地味にへこんでいるとオービタルたちから聞かされて、わたしは「ごめんねー」とこうして家族サービスでご機嫌とりというわけさ。
いかに親しい間柄とて、コミュニケーションをとる労を惜しんではならない。
「家族だから」とか「仲間だから」とかいう関係に甘えて、「黙っていてもきっとわかってくれるはず」なんていう根拠のない思い込みに浸っていたら、あっという間に心の溝は広がり深くなってしまう。その先に待つのは破局のみ。
でもそんなのは悲しすぎるからね。
だからわたしはせっせと手を動かし、富士丸に自らの口で自分の想いや事情を説明し、よもやま話なんぞを話しかけ続けた。
とはいえ富士丸くんのカラダは大きい。
異世界転移の際に出会ったときのように、小さくもなれるハズなのだがなってくれない。
もっともこれは富士丸くんなりの「もっとかまって」アピール。
小さくなったら洗ロボ作業がすぐに終わっちゃうから。少しでもわたしと長くいっしょにいたいとか、うちの子はかわいいねえ。
愛い愛い。ゴシゴシする手にもいっそうチカラがこもろうというもの。
が、さすがに一人だと何日もかかりそう。
なので途中からリンネ組のみんなにも手伝ってもらうことにする。
グランディアやオービタル、セレニティらと泡まみれになりつつ、はしゃぎながら洗浄作業をしていたら、いつの間にやらルーシーも混ざっていた。
「で、その後はどんな感じなの?」とわたし。
ゼニスの死後、行方をくらました「青い心臓」と「赤い心臓」、それから他にも気になっていたモロモロを含めての問いかけ。
「消息は依然不明。七つの大罪絡みにて、カデン、ヤルミ、ルクテ、スタマーマ、ゼギナン、ラージュ、エレジー、すべての月を調査しました。その結果発見されたのは地中深くより何かが掘り起こされた痕跡のみ。埋まっていたであろうモノはどこにも見あたりませんでした」
「それって……、やっぱり以前にエレジーでやりあった、アレ関係だよねえ」
アレとは、かつて青い氷の月エレジーにて宇宙戦艦「たまさぶろう」と派手にど突き合いを演じた、巨大な女の腕のこと。
たまたまわたしが発射した魔導砲がエレジーを掠めたことによって、月面が大きく抉れたことにより、氷の層に埋まっていたのが出土。
銀色の肌をした腕だけだというのに、やたらと活きがよく、殺る気まんまんにて好戦的な相手であった。
「リンネさまのご想像通りかと。埋まっていたのが最古の神ラーダクロアのカラダの部位とみて間違いないでしょう。今頃はどこぞの亜空間にでも引っ込んで合体、静かに復活の時を待っているのでしょうね」
「ということは、次はいよいよ対神さま戦になるわけか……。ハァ」
あまりの気の重さにタメ息が出るのを抑えられない。とっても憂鬱である。
そんなわたしに青い目をしたお人形さんは言った。
「どのみち避けられない戦いなのですから、いまからグチグチ悩んだってしょうがありませんよ。なるようにしかなりません。いちおうは、こちらも決戦兵器を用意しておりますから」
なにやら秘策アリといった様子のルーシー、不敵な笑みを浮かべている。
でもわたしに気を持たせるだけ持たせておいて、肝心の詳細については「まだ秘密です。こうご期待」だってさ。
富士丸にもたずねてみたのだが、プイっと顔を背けられた。この分ではたまさぶろうも同様であろう。
うーん。なぜだろう。
わたしとしては復活する狂神よりも、むしろそっちの方がよっぽどイヤな予感がしてしようがないのだが。
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