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034 白銀色の弾丸

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 終わりの刻は唐突に訪れる。
 がっつり組んでは、抱き合うような格好になったサレスとめくりさま。
 メキメキと背骨をへし折らんばかりの熱い抱擁。

 ――からの、ガブリ!

 互いが相手の首の根へと歯を立て、喰らいつく。
 一瞬にして噛まれた部位の肉やら骨が、ごっそり失せた。
 異変はそのあとに起きた。
 サレスはすぐに齧られたところが元通りになったのに、めくりさまの方は回復が遅々として進まない!
 蓄積されたダメージの量がついに再生能力を上回った?
 それをむざむざ見逃すサレスではない。
 めくりさまの左手首をむんずと掴んでは、腕を力任せにおもいきりグイと引っ張る。
 ミチリミチリと厭な音がした。欠けた部位が起点となって、めくりさまの身が縦に大きく裂けていく
 これにより左腕が根元周辺ごと、ごっそり引き抜かれてしまう。
 皮膚が破れ、血肉が千切れ、あらわとなったのは肺やアバラ骨など。
 めくりさまが苦しそうに身をよじる。
 一方でサレスは戦利品をさっそく丸呑み。
 そう、丸呑みだ!
 まるで剣を呑み込むマジックのごとく、頭上にかざしたとおもったら、そのままひと息に、あ~ん……

 直後、黒いベールの奥にてポウとふたつ、金色の明かりが灯る。
 歓喜、恍惚、興奮したサレスの双眸が光ったらしい。
 でも、それで終わりではなかった。
 いまだに回復しておらず、外部に晒されたままの状態であっためくりさまの左胸部まわり、そこへと目がけて突き入れられたのは手刀だ。
 肘まである黒いレースのオペラグローブを着用した腕が、ズブリズブリ。
 脇腹からアバラ骨の裏側を抉るようにして、差し込まれていく。
 指先が肺を掻き分け突き進む。向かうは心臓のところである。
 めくりさまはどうにかして逃れようとするも、サレスはけっして離さない。
 ついに心臓が鷲掴みにされた。
 ドクンドクンと律動を続けているその表面に、指先が食い込む。
 かとおもえば、いきなりブチッ!
 まるで真っ赤に実ったリンゴを枝からもぐかのようにして、心臓を刈り取った。

 めくりさま、絶叫!

 脳内がぐりぐりとかき回される……頭が割れる、気が狂いそう。とてもこの世のものとはおもえないような叫び声が耳をつんざく。
 それは人も眷属や傀儡などのヒトデナシどもも変わらない。
 たまらず手で耳を覆い隠すも、ほんのわずかな隙間から染み入ってくるそれは、怨嗟か、呪詛か。
 距離が近い者ほど影響を受けた。
 全身の穴という穴から血を流す者、激烈な頭痛に襲われて嘔吐する者、ひきつけを起こして泡を噴き倒れる者などなど。
 現場はさながら叫喚地獄のごとし。
 にもかかわらず、ひとり平然としていたのがサレスである。
 吸血鬼は手に入れた心臓をかかげては、しばしうっとり眺めてから、そっとひと口。
 でもよほど美味しかったのか、続けてふた口、み口と食べ進め、あっという間に完食してしまった。
 名残り惜しそうなサレスは、指先についた血を丹念に舐めている。
 そのかたわらで、めくりさまはぐったりしていた。知らぬ間に沈黙している。さしもの怪異もこうなってはすぐに復活できないらしい。

 うつ伏せになっているめくりさまを足先でひっくり返したサレスが、血濡れた白無垢姿へ馬乗りとなる。
 そして始めたのは、より本格的な食事であった。
 弱っている怪異を容赦なく解体しては、せっせと口元へと運び、咀嚼しては呑み込むを繰り返す。
 みるみる減っていくめくりさまの体。
 手が無くなり、足も消えて、腸(はらわた)を抉り出されて、骨までパリポリ……

  ◇

 猟奇! 猟奇! 猟奇!

 そうとしか言いあらわしようがない戦慄の食事風景。
 一度見たら瞼の裏に焼きついて絶対に忘れられないだろう。
 もしかしたら、僕はもう二度とお肉類を食べられないかもしれない。
 たとえ黒毛和牛の最高位であるA5ランクのステーキであろうと、しゃぶしゃぶだろうと、焼肉だろうと、ハンバーグだろうと、ビーフカツレツだろうと、牛丼だろうと……

 グゥ。

 あれこれ考えていたら腹の虫が鳴った。
 ここに乗り込む前にハイカロリーなスティックタイプの携帯用の行動食を摂ってきたのだが、あまりの緊張と激しい運動の連続ですっかり消費してしまったらしい。
 でもって、前言は撤回しよう。
 体は正直である。
 うん、たぶん……というか、僕は今後もお肉をきっとモリモリ食べるだろう。
 それはそれ、これはこれ。
 できるホームセンターの店員は、私情や感傷に流されたりはしないのだ。物事はスパッと割り切る。でないと、とてもではないがやっていけない。優しくていい人ほど病み潰れる。悲しいけれども、それが客商売の負の部分。

 あー、もしも生き残れたら焼肉の食べ放題に行こう。
 奮発して特上コースにするのだ。ついでにお酒の飲み放題もつけちゃう。存分に飲み食いをして、おおいに憂さを晴らす。
 ウンウン、それがいい、そうしよう。
 なんぞとぼんやり考えていたら、タケさんが「……やるぞ、アキ坊」とつぶやき、僕を非情な現実へと引き戻す。
 いよいよである。
 サレスはいま怪異を倒し待望の食事中、喰らうことに夢中となっている。
 当人にそのつもりはなくとも、きっと気が緩みが生じているはず。
 その間隙を突く。
 吸血鬼に白銀色の弾丸をお見舞いしてやるべく、僕とタケさんは協力してライフルの照準を合わせた。
 そして――

「……いまだ!」
「――っ!」

 タケさんの合図を受けて、僕は引き金をひいた。
 けたたましい発射音とともに銃口が火を噴く。
 射出された白銀色の弾丸は狙いあやまたず、サレスの側頭部へと着弾。
 とたんに頭部がパンッ! 割れたスイカのごとく盛大に爆ぜた。
 やったぞ! でもまだだ、あと一発残ってる。
 僕はすかさずボルトアクション、薬莢を吐き出し次弾装填にて、タケさんの命じるままに、ふたたびファイヤー!


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