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24 好事も悪事も千里を走る。
しおりを挟む当人がいくら厳命したとて、字名や異名というものは勝手に人伝にて広がるもの。
一度、広まったが最後それをなかったことにするのは至難である。それこそ範囲内にいるすべての生物を根絶やしにして、殲滅するぐらいのことをしないと消し去ることなんぞかなわない。
そして「絶対に秘密にしてね! という内緒話ほど秘密にならずに広まるの法則」が発動する。
「これで村が救われる、ありがたやありがたや」
「病気のお母さんが治った! ありがとう聖女さま」
「おかげでオレの娘を売らずに済む。なんと感謝したらいいのか」
「うちの畑が蘇った。まさに神の軌跡だ!」
「これだけの事を成してくれたというのに誇ることもしないなんて、なんと奥ゆかしい方であろうか」
「神域の森の聖女さまとは一体どのようなお方であろう」
「なんでもあの凶悪なモンスターどもですらも、彼女の前では頭を垂れるというぞ」
「伝説の神獣が傅いているそうな」
「ワシは銀と赤と白の三王を配下に置くと聞いた」
「富を好まずみなと共に分かつ……、なんと慈悲深きお方じゃ」
「数多の獣やモンスターらに囲まれて穏やかに微笑む姿は、まるで一枚の絵のようであったらしい」
「さぞや女神のごとくお美しい方なのであろうな、是非ひと目だけでもお目にかかりたいものよ」
空想と妄想が現実と絡み合い、とめどもなく幻想世界を広げては、大いなる翼をはためかせて勝手気ままに飛んでいく。
自由とは時に混沌の呼び水となる。
秘匿していたハズの情報が漏れて頭を抱える冒険者ギルド。
そしていち早く動き出したのは教会の手の者。さっそく徒党を組んで聖女がいるらしいとの噂がある廃村へと向かったのだが……。
「おい! そこの娘、少し訊ねたいのだが、この辺にデイビィスという村があるハズなのだが、道はこれであっておるか?」
神域の森の外縁部にて、古びた地図を頼りに道を急ぐ一行は、その途中で大きな犬を連れている村娘を見かけたので、先頭にて隊を率いていた神官服を着た男が声をかけた。
この一帯は破棄されて久しく、手元にある情報が心もとない。そこで現地民に声をかけてみたのだが、小首を傾げられてしまった。
だがすぐに自分の訊ね方が悪かったことに思い至る。目的の場所もまた廃棄されて久しい。年寄り連中ならばともかく、若い娘では名称を出してもピンとこないと気がついた。
そこで彼は質問の仕方を変えて「この辺にある廃村」とすると、娘がようやく思い当たるといった表情を浮かべた。
「それならこの道を真っ直ぐに行って、次の分かれ道を右に進めばその奥にあるけど」
「そうか、わかった。ありがとう。それ、みな急ぐぞ」
男は娘に礼を述べると、一行を率いてさっさと行ってしまった。
それらが遠ざかってから大きな犬のフリをしていたフェンリルが口を開く。
「行かせてよかったのかの?」
「かまわないわ。どうせすぐに逃げ帰ることになるんだから」と私が答えると、クククとシルバーが笑った。
「なるほど、そういえば今は森の連中が村にたむろしている頃合いか。あれらもついてないのお。そんなところにノコノコ出向くとは」
「しかもみんなオヤツ目当てでお腹を減らしているから、ちょっと気が立っているのよね。死ななきゃいいんだけど」
「たぶん大丈夫じゃろ、無闇に食い散らかしたらハナコが嫌がるのは、みんな知っておるから。ちょっとかじる程度で済むさな。それにしても神官服の男がいたということは、たぶんこの前に小僧どもが口にしていた聖女云々が、思ったよりも大ごとになっておるのかもしれんのぉ」
「誰が聖女だってのよ。勝手な幻想を押しつけんな、迷惑だ。ちょっと物を恵んで聖人認定されるんだったら、そんなもん辞めちまえ」
不満をぶち撒ける私に、シルバーが教えてくれたところによると、勇者とか聖女なんてのは異世界渡りの人間を、教会が選定して認定することで初めて名乗れるんだそうな。
「つまり自分たちを差し置いて、勝手に名乗るなんて言語道断! というわけ?」
「そういうことじゃな。教会の既得権益と専売特許を脅かすな、という組織論ゆえの一行の派遣であろう。だがあの分では丁重にお出迎えというよりも、不心得者をひっ捕まえに来たという感じじゃったが」
シルバーの言葉に思わず「えー」と声を上げる私。
だって周囲が勝手に言ってる噂だけを鵜呑みにして、即逮捕って酷くない? もうちょっと穏便に来るんだったらこっちも穏便に応じたんだけど、そんな連中なら端からまともに相手にする必要なんてないね。
そう思って、ちょっと小道からそれて薬草を摘んでいたら、なにやら小道の方が騒がしい。
こっそりと茂みの奥から様子を伺ったら、さっきの一団がボロボロの姿になって、泡を喰って逃げていくところであった。
どうやら森の仲間たちに可愛がられたようだ。これに懲りてもう来なければいいんだけど……。
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