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37 勇者が来たりて愚王立つ。
しおりを挟む王城内の謁見の間の空気がどんどんと重くなっていく。
城の主である王様の機嫌がすこぶるよろしくないからだ。
神域の森へと聖女探索に赴いていた連中が帰還したというから、報告を受けていたのだが、その散々な結果に彼の怒りはいまにも爆発しそうであった。
栄えある王国の兵のみならず勇者候補をも連れての調査兵団が、為す術もなくやられたというだけでも業腹なのに、聖女に関する情報すらも満足に持ち帰ることもなく、おめおめと逃げ帰ってきたのだから。このままでは全員に打ち首でも申し渡しそうな王の剣幕に、恐れおののく調査兵団の面々。
そんな王様を宥めたのは一人の青年であった。
「まあまあ、神域の森は歴代の勇者らでも手を焼いてる場所だって聞くし、さすがに候補止まりのガキどもじゃあ、初めから無理があったんですよ。不甲斐ない後輩らの尻拭いは先輩のオレたちがキチンと拭いてきますんで。それに前々から一度行ってみたかったんすよね。あそこって」
そう自信たっぷりに言った彼こそが、現在の王国が保有する勇者六人のリーダーにして最強を誇る男。
彼に呼応するかのように頷いてみせるメンバーたち。数多の戦場にて魔族を屠りモンスターらを撃破してきた猛者たち。歴代でも最強の呼び声も高い彼らが聖女捕獲へと自ら名乗りを上げてくれたことにより、王もどうにか怒りの矛を収めた。
で、またこのパターンか……。
爽やかな早朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、鼻歌まじりで機嫌よく日課のチクワ撒きに村の広場へとるんるんスキップで出向くと、なんか草臥れた感じの六人組がぐてっとなって転がっていた。
前に来た王国の調査兵団とかに混じっていたコスプレ集団とは違って、こっちはなんとなく格好が板についている。そのことからしてきっと強いのだろうが、いかんせん現在のうちの村周辺は過去最高レベルの警備体制となっている。
伝説のフェンリルをして強いと言わしめるチクワ戦士たちが、夜通しぞろぞろと村を徘徊し、森の仲間たちもチクワのおかげでスクスクと逞しく成長している。
つまりこの界隈はかつて人類が最前線としていた頃よりも、遥かに危険度が増しているのだ。神域の御戸の周辺に準拠した強者がごろごろ状態。
そんなところに「所詮は外縁部だろう」と侮ってやってきた連中が太刀打ちできるわけもなく、結果このように冷たい石畳に頬ずりして口づけをするハメになると。
事前に冒険者ギルドから連絡が来なかったってことは、たぶん少数精鋭にて秘密裡に動いたんだろうなぁ、そして失敗したと。
うちのチクワ戦士たちにはちゃんとしたお客様ならば、ちゃんとお通ししてと命じてある。この分ではいきなり切りかかったか? せめて普通に昼間に村を訪れていれば、ここまでやられることもないというのに。
とりあえず手近な女の人に、水をぶっかけて起こしてみた。
だが目を覚ました途端に「きゅう」と奇声を発して再び気絶した。間近でみたチクワ戦士の姿があまりにも衝撃的過ぎたらしい。
まあ、寝起きにチクワ人間が顔を覗き込んでいたら、そりゃあ気も失うか。
仕方がないので今度はみなを少し遠ざけて、別の男の人を私が起こすことにする。
「ううーん。はっ! ここは? オレはどうしたんだ。たしかモンスターどもに追われて、逃げ惑っているうちに村へと辿りついたと思ったら、こんどは変な連中に囲まれて……」
この分だと森の仲間たちにもて遊ばれて、ここへと誘い込まれたようだな。
最近では森の畜生どもも小賢しい知恵をつけてきており、面倒事をチクワ戦士らに押しつける傾向にある。手加減ってのはアレでかなり匙加減が難しいからな。野生の王国の住人からしたら「なんだよ、それ?」てなもんだ。
先の戦闘により頭部を殴打されたのか、痛そうに押えながらふらりと立ち上がった彼。格好からして戦士のようだが、そんな彼も「ひっ」と短い叫び声をあげて、再び気を失ってバタンと倒れてしまう。
周辺をズラリと取り囲むチクワ戦士たちの偉容を視界に入れてしまったようだ。
なんだか面倒くさくなった私は、六人をチクワ戦士らに頼んで森の外へと捨てて来てもらった。
背中を丸めてすごすごと逃げ帰った勇者らの報告を受けて、王は憤怒の形相となる。そして怒号を発した。
普通ならば自分の手駒のうちで、最強を誇る勇者らが太刀打ちできない時点で諦める。
だが王という存在は普通ではない。
プライドはお腹周りの脂肪よりもなお分厚く、生まれながらに備わった立場にて培われた傲慢さゆえに、他者の下という地位に甘んじることは許されない。
二度も自分の手の者らが返り討ちにあったことによる屈辱が、彼の理性を遥かに凌駕した。
「ただちに軍勢を差し向けよ。個の武で適わぬのならば数で圧倒してくれるわ! 聖女を名乗りみだりに人心を乱す不届き者を成敗するのだ!」
かくして王の号令一下、軍勢が大挙して辺境の廃村デイビィスへと向けて進軍を開始する。
その中には教会の一派も紛れ込んでいた。辺境地区を統括する部署の者たちである。彼らもまたかつて手の者を差し向けて手痛い目にあっていたので、一緒に出向くことで神威を示し、停滞気味であった辺境での布教活動に弾みをつける思惑があった。
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