剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

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001 復讐鬼、西へ

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 神聖ユモ国、西域某所にある監獄。
 独居房の寝台に寝転がり、見えなくなった右目をおさえながら、「くそっ」と怒りにうちふるえていたのは、コォン。
 元八武仙フェンホアの弟子にして、若輩ながらも門下生随一の実力を誇っていた紅顔の美少年。すっかりフェンホアに心酔していたコォンは、師より命じられるままに国家を揺るがす陰謀に加担する。
 だが、たくらみは剣の母チヨコの介入によって阻止された。
 自身も天剣(アマノツルギ)である勇者のつるぎミヤビに手ひどい傷を負わされて、現状へと至る。
 しかし反省するどころか身の内に日ごと夜ごとに募るのは、行方知れずとなっている師への思慕と、自分をこんな目にあわせたチヨコらへの猛る憤り。
 とはいえ両手両足を鎖で繋がれた状態では、いかな武勇を誇る彼とてもどうしようもない。
 行き場のない復讐心をたぎらせ、悶えるばかり。
 かつての紅顔の美少年は、隻眼となったその美貌を醜く歪ませる。

  ◇

 ある夜更けのこと。
 いつものようにコォンがぶつぶつ独り言をつぶやいていたら、隣の房にいる男が壁越しに話しかけてきた。

「なぁ、あんた。あんたはかの有名な雷槍使いの弟子なんだろう?」

 雷槍使いとは、コォンが敬愛してやまない師のことを指す。
 コォンが「それがどうした」と答えたら、壁の向こうから返ってきたのは意外な言葉。

「脱獄に協力する気はねえか」

 声の主は、自身を名うての盗賊だという。

「おれは鍵開けが得意でね。でも荒事の方はからっきしなんだよ。でもあんたは腕が確かなんだろう? そこで二人が組むってわけだ」

 それはとても魅力的な提案であった。
 しかしコォンはすぐに首をよこにふる。

「いかにオレとても、ここの厚い警備をひとりで破るのはムズカシイ」

 すると「くくく」と含み笑いが壁の向こうから伝わってきた。

「誰も、だんなにすべてをやっつけてくれだなんて無茶は言わねえよ。
 だんなにお願いしたいのは、おれがあちこちの鍵を破るあいだの護衛さ。暴れるのは他の連中にまかせて、どさくさにまぎれてドロンという寸法さね。すでに脱出経路の下調べはすんでいるんだ。
 で、どうする?」

 話を聞いて、しばし考え込んでいたコォンがぽつり。

「成功する算段はどれほどある?」
「おれだけならば、せいぜい五、どう甘く見積もっても六割といったところかな。だが、だんなが加わってくれたら、八割方はいけると思う」
「ほぅ、ずいぶんと強気だな。して、残りの二割は?」
「そいつは運かな。盗みの玄人としては、あんまりそこのところをアテにはしたくないんだが、なにごとにも不測の事態ってのがあるからなぁ。こればっかりはフタを開けてみなくちゃわからねえ」

 安易に成功をほのめかさないことに、かえって男を信用できると考えたコォンは、「わかった。協力しよう。ただし、ここを出るまでの間だけだ。そのあとは好きにさせてもらう」と答えた。

 この二日後の夜更け過ぎ。
 神聖ユモ国第八監獄において、暴動事件が発生。
 混乱をきたすも駐留していた部隊の活躍もあり、明け方近くに騒ぎは沈静化する。
 しかしそのさなかに二人の囚人が忽然と姿を消したことを、看守たちが気づいたのは完全に夜が明けきってからのことであった。

  ◇

 騒ぎに乗じてまんまと脱獄した二人。
 ほどなくして別行動をとるが、コォンはそこから西へと向かった。
 目指すのは神聖ユモ国、西の国境を越えた先にある平原と戦士の国クンルン。
 別れ際に鍵開けの名人から餞別代りに教えられたのは、彼の地にある試練の迷宮に封じられているという魔槍のこと。
 かつて人為的に天剣のチカラを創り出そうとした一派がいたらしく、その残滓が疑装天剣(ギソウアマノツルギ)と呼ばれるもの。
 もちろん本物の天剣には到底およばない。それどころか世に害悪をまき散らし、使用者に破滅をもたらす欠陥品。しかしそれでも脅威となるシロモノだという。
 ずっと壁越しにコォンの恨みつらみを耳にしていた鍵開け名人は、「あれならばあるいは、ちったぁまともに戦えるかもしれんぞ」と告げた。
 実際に白銀の大剣の姿をした天剣と対峙したがゆえに、正面から立ち会ってもまたぞろ返り討ちにされてしまうことを痛感していたコォンは、武芸が盛んなクンルンの地にて失われた右目での戦いに必要な鍛錬をするかたわら、その魔槍を探してみるつもりであった。

 そこで宿敵と悲願の再会を果たすことになるのだが、この時のコォンには知るよしもなかった。


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