剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

文字の大きさ
2 / 50

002 大地のつるぎ

しおりを挟む
 
 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
 それを自分の魂や精神やらをゴリゴリ削って創成する「剣の母」に選ばれてしまった、わたしことチヨコ。辺境育ちの十一歳。先祖代々生粋の農耕民。
 ひそかに趣味の園芸と実家の農業の二刀流にて、第一次産業の星を目指す野心を秘めていたというのに、いまや真逆の激動人生を爆走中。
 おかげで毎日がとってもにぎやかで刺激的だよ、こんちくしょうめ!

 鉄と職人の国パオプをめぐる騒動。
 これを解決するのに奔走したお礼のオマケとして、なぜだか地の神トホテより賜るみたいな形で、第三の天剣が顕現。
 第一の天剣、白銀の大剣姿である勇者のつるぎミヤビ(長女)。
 第二の天剣、漆黒の大鎌姿である魔王のつるぎアン(次女)。
 そして新たに誕生した第三の天剣、大地のつるぎなんだけれども……。
 なぜだか手の平にちょうどいい大きさの金づち姿。頭と柄のところが一体化した造りにて、とりたてて珍しい形状ではない。
 畑を耕しているときに出てくる土くれやら石を砕くのにちょうどいい感じ。あとは固い木の実の殻を割ったりするのにも。肉をダムダム叩いて柔らかくするのにも使えそう。

 アンの持つ転移のチカラにて、クンロン山脈の奥地にあるパオプ国から神聖ユモ国へと直帰するかたわら、わたしは第三子(槌)を、ツツミと命名する。
 名前の由来は、あちこち叩くと「コンコン、カンカン」といい感じに音が響くから。
 過去の経験則からすると、名前をつけられた天剣たちは狂喜乱舞して、しばらくは危なくて近寄れなくなる。
 自我を持つ存在として、この世に生を受けた身としては、名は体を表し自己の確立を意味するもの。
 それを剣の母からじきじきに与えられることが、天剣にとってはむちゃくちゃうれしいらしい。
 だから今回も警戒をしていたんだけれども、ツツミはちがった。
 ちがうといえば、初登場したときからしてがちがう。
 ミヤビとアンは、はじめは本来の姿で顕現し、あとから白銀のスコップと折りたたみ式草刈り鎌の姿へと変身した。
 けれどもツツミは最初っから小さな金づち。
 で、どうなったのかというと……。

「でけえ」

 わたし、あんぐり。

「城門ぐらい一撃でぶち壊せそうですわ」

 ミヤビ、ちょっとあきれている。

「……破壊粉砕の権化。イカす」

 アンは末妹の勇姿を気に入ったみたい。

 狂気乱舞し全身にてよろこびを表現しないかわりに、ツツミは本来の姿へと逆変化。
 それはとてもおおきな蛇腹の頭を持った破砕槌。
 頭の部分だけでも、うちのお父さんよりずっと大きい。柄も長くて、下手な槍よりもごつい。ムキムキの大人が数人がかりで、ようやく持ちあがりそうな威容。
 こんなの誰があつかえるんだよ。
 といった、超重量級のたたずまい。
 けれどもツツミから促されるまま、手に持ってみたらめちゃくちゃ軽かった。
 まるで羽のような軽さにて、わたしは二度びっくり。
 そしてわたしが担ぐと、ちんまい娘が巨人の槌を持っているような奇妙な構図となる。

「心配ご無用。それがし、身の重さを自在に変えられるがゆえ。母じゃには、けっして負担はかけませぬ」とツツミ。

 それはすごいと感心するも、気になることが。
 大地のつるぎをふるたびに「ピコピコ」とかわいらしい音がする。

「なんで?」

 わたしがたずねたら、ツツミはもじもじしながら言った。

「だって、それがしもいちおうは女の子ですもの」

 フム。なにやらわかるような、わからないような……。
 これがこの子なりの乙女の主張なのかしらん?

  ◇

 魔王のつるぎアンの転移能力によって創り出された空間内部。
 薄暗い中を、足下に浮かんだ光の線を頼りに進む。
 車輪つきの行李をグイグイひいてくれるツツミ。
 三女(槌)はとっても力持ちにて頼りになる。
 いや、ミヤビとアンも、ああ見えてチカラは強いので、牽引するのは問題ないのだけれども。なんというか、こう、たくましい破砕槌の見た目がいかにも頼もしい。
 ポポの里の南に住んでいる立派な黒馬の銀禍獣マオウに通じる、威厳があるというか、どっしり安心安定感?
 おかげでわたしは白銀の大剣姿のミヤビに乗って、楽ができる。
 アンは行李の上にてだらりと寝そべっている。鎌首をもたげては、ときおりお姉ちゃん風を吹かせて、えらそうに何ごとかを末妹ツツミにのたまっている。
 へんなことを吹き込んでいなければいいのだけれども。
 あと帰国したら、まずはツツミのチカラの把握をしなくちゃ。
 他にもやるべきことを、あれやこれやと考えているうちに、光の線をたどり終えて薄闇を抜けた。
 これにて転移完了。
 が、目の前の光景にわたしはしばし呆然。

「えっ、どうして?」

 そこは神聖ユモ国の宮廷内、ウノミヤの奥にある星拾いの塔の天辺であった。


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...