剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

文字の大きさ
3 / 50

003 にんにん

しおりを挟む
 
 星拾いの塔。
 神聖ユモ国の聖都でもっとも背の高い建造物にして、天の理を観測し、星々の動きから地の理を読み解く場所。
 立ち入りが許されているのは、塔を管理している星読みさまと、他数名ばかりという重要区画。
 わたしもはじめて皇(スメラギ)さまと謁見したあとに、招待されたことはあったけれども、どうして転移空間を抜けたらここに出るの?
 てっきりいつもお世話になっている迎賓館の部屋だとばかり思っていたのに。
 アンに理由を問えば、「イシャルに言われた」との返事。
 パオプ国での騒動を解決するために、一度、向こうからイシャルさま宛てに相談のお手紙をアンに託したことがあったけれども、その時に「帰りはここにするように」と指示されていたらしい。
 何やらわたしの耳に入れたい話があるとのこと。
 宮廷内随一の機密性を保持する塔の天辺。ここを待ち合わせ場所に指定したということは、けっこうな内容のお話であると覚悟したほうがいいだろう。
 ようやく戻ってきたばかりだというのに、またぞろ厄介ごとのニオイがぷんぷん。

「うぅ、大人たちの子ども使いが荒すぎる」

 でもポポの里への手厚い援助が確約されている手前、イヤともいえない。
 これが宮仕えの悲哀ってやつなのだろうか。
 いや、ちょっと待てよ。
 たしか剣の母であるわたしは、公式には自由人であるはずだ。
 とすれば、これはしがらみとでもいうべきなのかもしれない。
 気づいたときにはすっかりがんじがらめ。
 大人ってずるい!

  ◇

 星拾いの塔の天辺には、四角い一個の岩を削った小さな賽子(サイコロ)っぽい家がポツンとあるだけ。観測用のもの。
 しばらく待つも、いまだに誰も来る気配がない。
 降りるには昇降用の設置型魔法を利用するしかないのだが、あいにくとわたしには使えない。
 ここは天の世界に近く、風が冷たい。
 だからわたしは家の中で待たしてもらうことにする。
 内部はあいかわらず閑散としていた。
 ふだんはいろいろと大事な書類やら品物が置いてあるらしいのだが、外部の者を招く際にはどこぞに片付けるという。
 だが塔の内部の散らかり具合を知るわたしからすると、星読みのイシャルさまは見た目こそは銀髪の麗人にて、年齢不詳のナゾ人物ながらも、その本質は片付けられない男。
 はたしてそんな男が部屋の中の品々を、いちいち階下に運ぶだろうか?

「……ないね。うん、それはない」

 だとすれば、この家の中にきっと秘密の小部屋的な収納空間があるのにちがいあるまい。
 よし! 暇だし退屈まぎれに探してみよう。
 うっかりいけない大人の書物とか出てきたら、うっしっしっ。
 てなわけでチヨコ組総出で家探しを敢行しようとした矢先に、ツツミが言った。

「それがしにまかせるでござる。にんにん」

 にんにん?
 何やら語尾がますますおかしなことになっている。
 おそらくアンに何かいらぬことを吹き込まれたな。
 まったく、お姉ちゃんになったというのに、末妹で遊ぶなんぞ言語道断!
 世界一かわいい愛妹カノンを持つわたしことチヨコは、最強でステキにムテキな姉を目指している。よって、そんな暴挙は許さん。あとで説教をくれてやろう。そしてたっぷりと姉として生きる「姉道」を説くのだ。
 と、そっちも気になるところだが、とりあえずツツミに「どういうこと」とたずねれば、大地のつるぎのチカラを使えば一発だという。
 で、小さな金づち形態にて、促されるままにこれを握り、壁やら床をコンコンと軽く叩く。
「カツーン」と何やら意味深な反響音。
 まるで水面に浮かぶ波紋のような感覚が手のひらから伝わり、わたしは奇妙な感覚に支配される。
 目の前だけでなく、足下やら天井やら、うしろまで。
 建物内部が手にとるようにわかる。
 で、違和感がある箇所もばっちりわかっちゃう。
 さっそくその壁の場所を調べてみれば、ゴトリとへこんで、カタリコトリとからくり音ののちに、床の隅っこがパカンと跳ねあがって、秘密の隠し場所がお目見え。

「ツツミ、すげー!」
「やりますわね」
「……ふっ、まあまあ」

 わたし、ミヤビ、アンが褒めると、ツツミがもじもじ照れた。

 第三の天剣、大地のつるぎツツミ。
 能力その一、自重を自在に変更可能。超軽量から超重量までお手の物。
 能力その二、空間把握能力。反響音にてへそくりの隠し場所も一発的中。

 フム。これはなにやら一攫千金の予感がする。もしかして金脈とかいけちゃうかも。
 白銀のスコップ姿のミヤビ、漆黒の草刈り鎌姿のアン、金づち姿のツツミらと、「ひゃっほー」と浮かれていたら、唐突にガチャリと玄関扉が開いた。
 姿をあらわしたのは、ゆったりした上下がひと続きになった灰色の衣装をまとい、黄色い宝玉の乗った杖を持った人物。

「えーと、とりあえずおかえりなさい。あとお嬢さん、留守宅にてあまり勝手をされては困りますね」

 星読みのイシャルさま、床の隠し扉が開けられているのを見て、にっこり。
 国一番の賢人である銀髪の麗人より、やんわりとたしなめられて、わたしもじもじ。


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...