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003 にんにん
しおりを挟む星拾いの塔。
神聖ユモ国の聖都でもっとも背の高い建造物にして、天の理を観測し、星々の動きから地の理を読み解く場所。
立ち入りが許されているのは、塔を管理している星読みさまと、他数名ばかりという重要区画。
わたしもはじめて皇(スメラギ)さまと謁見したあとに、招待されたことはあったけれども、どうして転移空間を抜けたらここに出るの?
てっきりいつもお世話になっている迎賓館の部屋だとばかり思っていたのに。
アンに理由を問えば、「イシャルに言われた」との返事。
パオプ国での騒動を解決するために、一度、向こうからイシャルさま宛てに相談のお手紙をアンに託したことがあったけれども、その時に「帰りはここにするように」と指示されていたらしい。
何やらわたしの耳に入れたい話があるとのこと。
宮廷内随一の機密性を保持する塔の天辺。ここを待ち合わせ場所に指定したということは、けっこうな内容のお話であると覚悟したほうがいいだろう。
ようやく戻ってきたばかりだというのに、またぞろ厄介ごとのニオイがぷんぷん。
「うぅ、大人たちの子ども使いが荒すぎる」
でもポポの里への手厚い援助が確約されている手前、イヤともいえない。
これが宮仕えの悲哀ってやつなのだろうか。
いや、ちょっと待てよ。
たしか剣の母であるわたしは、公式には自由人であるはずだ。
とすれば、これはしがらみとでもいうべきなのかもしれない。
気づいたときにはすっかりがんじがらめ。
大人ってずるい!
◇
星拾いの塔の天辺には、四角い一個の岩を削った小さな賽子(サイコロ)っぽい家がポツンとあるだけ。観測用のもの。
しばらく待つも、いまだに誰も来る気配がない。
降りるには昇降用の設置型魔法を利用するしかないのだが、あいにくとわたしには使えない。
ここは天の世界に近く、風が冷たい。
だからわたしは家の中で待たしてもらうことにする。
内部はあいかわらず閑散としていた。
ふだんはいろいろと大事な書類やら品物が置いてあるらしいのだが、外部の者を招く際にはどこぞに片付けるという。
だが塔の内部の散らかり具合を知るわたしからすると、星読みのイシャルさまは見た目こそは銀髪の麗人にて、年齢不詳のナゾ人物ながらも、その本質は片付けられない男。
はたしてそんな男が部屋の中の品々を、いちいち階下に運ぶだろうか?
「……ないね。うん、それはない」
だとすれば、この家の中にきっと秘密の小部屋的な収納空間があるのにちがいあるまい。
よし! 暇だし退屈まぎれに探してみよう。
うっかりいけない大人の書物とか出てきたら、うっしっしっ。
てなわけでチヨコ組総出で家探しを敢行しようとした矢先に、ツツミが言った。
「それがしにまかせるでござる。にんにん」
にんにん?
何やら語尾がますますおかしなことになっている。
おそらくアンに何かいらぬことを吹き込まれたな。
まったく、お姉ちゃんになったというのに、末妹で遊ぶなんぞ言語道断!
世界一かわいい愛妹カノンを持つわたしことチヨコは、最強でステキにムテキな姉を目指している。よって、そんな暴挙は許さん。あとで説教をくれてやろう。そしてたっぷりと姉として生きる「姉道」を説くのだ。
と、そっちも気になるところだが、とりあえずツツミに「どういうこと」とたずねれば、大地のつるぎのチカラを使えば一発だという。
で、小さな金づち形態にて、促されるままにこれを握り、壁やら床をコンコンと軽く叩く。
「カツーン」と何やら意味深な反響音。
まるで水面に浮かぶ波紋のような感覚が手のひらから伝わり、わたしは奇妙な感覚に支配される。
目の前だけでなく、足下やら天井やら、うしろまで。
建物内部が手にとるようにわかる。
で、違和感がある箇所もばっちりわかっちゃう。
さっそくその壁の場所を調べてみれば、ゴトリとへこんで、カタリコトリとからくり音ののちに、床の隅っこがパカンと跳ねあがって、秘密の隠し場所がお目見え。
「ツツミ、すげー!」
「やりますわね」
「……ふっ、まあまあ」
わたし、ミヤビ、アンが褒めると、ツツミがもじもじ照れた。
第三の天剣、大地のつるぎツツミ。
能力その一、自重を自在に変更可能。超軽量から超重量までお手の物。
能力その二、空間把握能力。反響音にてへそくりの隠し場所も一発的中。
フム。これはなにやら一攫千金の予感がする。もしかして金脈とかいけちゃうかも。
白銀のスコップ姿のミヤビ、漆黒の草刈り鎌姿のアン、金づち姿のツツミらと、「ひゃっほー」と浮かれていたら、唐突にガチャリと玄関扉が開いた。
姿をあらわしたのは、ゆったりした上下がひと続きになった灰色の衣装をまとい、黄色い宝玉の乗った杖を持った人物。
「えーと、とりあえずおかえりなさい。あとお嬢さん、留守宅にてあまり勝手をされては困りますね」
星読みのイシャルさま、床の隠し扉が開けられているのを見て、にっこり。
国一番の賢人である銀髪の麗人より、やんわりとたしなめられて、わたしもじもじ。
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