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014 追跡者たち
しおりを挟むチヨコたち一行の後方にぴたりと張りつき、追跡を続ける集団。総勢十九名の男たち。
みな装備や格好はバラバラにて、一見すると試練の迷宮へと挑戦するために集った猛者たちに見えなくもない。
だが、その動きは隊長と呼ばれる男によって統率されていた。
試練の迷宮第三十九階層、下へと続く階段付近にて。
先行して階下の様子を探っていた者が音もなく戻ってくる。
「隊長、アスラ王子たちは四十階層のヌシ部屋へと到達しました。相手は大型の禍獣にて苦戦は必至。背後からしかける好機かと」
報告を受けた隊長はしばし考え込むも、首をよこにふった。
「いや、いまはまだやめておこう。これまでの手際の良さからして、供をしている女どもはかなりの手練れ。それにこの異常な進行速度も気になる。
ゲツガとかいう腕利きの女用心棒のウワサは聞いたことがあった。
だが、他の二人がどうにも得体が知れん」
隊員のひとりが「服装や容姿からして神聖ユモ国の人間と思われますが……」と口にすると、これにうなづく隊長。
「わからんといえば、あの子どもだ。どうして試練の迷宮にあんな小娘を連れてきたのかと、ずっと疑問に思っていたのだが。
もしやあの子どもこそが、この快進撃の立役者なのかもしれん」
「なにか特殊な才芽持ち、ということでしょうか」
「おそらくは、な。でなければ、戦闘の役に立たぬお荷物なんぞを、わざわざ連れてくる意味がない」
「では、いかがなさいますか」
王子ともども殺すか、生け捕るか。
思案しながら、懐より投擲用の小刀を抜いた隊長。おもむろに天井へと向けて放つ。
放たれた刃は、気配を消し接近していたクモ型の禍獣の脳天にブスリと突き刺さる。
ぼとりと落ちてきたクモ型の禍獣。頭部をぐしゃりと無造作に踏みつぶしながら、隊長は部下たちに告げた。
「そうさなぁ。たいした手間でなし、小娘だけは生け捕りとしよう。有益そうであれば本国に送る。もしも使い物にならないようであれば、生餌にでもして我らの魔槍探索の役に立ってもらうとしよう」
とくに顔色をかえることもなく、非情な言葉を吐いた隊長。
他の男たちもまたこれを平然と受け入れた。
◇
第四十階層、ヌシの部屋にいたのはとっても大きな銀毛のサルの禍獣。
かつてポポの里を襲撃してきたアカザル、シロザルの上位種にあたる存在にて、毛色は銀だけれども、等級はかぎりなく銀にちかい銅級の禍獣にて「メッキザル」と呼ばれている。
特徴はなんといっても筋骨隆々の巨躯。
ではなくて、その股間。
大中小とそろい踏みにてうねうね。襲う対象のカラダの大きさにあわせて使い分けるという親切仕様。なお好物は異種族のオス。特に人間の若い男は大好物。ウホッ。
というわけで、わたしたち一行がヌシ部屋へと入ってからというもの、メッキザルの興味はもっぱらアスラ一人に向けられている。
だからわたしは冷静に状況を判断し、こう提案した。
「ここは自称超戦士アスラくんにおまかせして、わたしたち女性陣は先を急ぐってのは、どうかな?」
こいつはオレさまが引き受けた。おまえたちは先に行け!
なーんて台詞。いかにも物語に登場する英雄役が口にしそうじゃない?
これこそアスラが望んでいた男の戦いであり、最大の見せ場。
だというのにアスラは拒んだ。
「ふざけんなっ! 初めての相手がサルとか、ぜったいにイヤだっ!」
全力全開で己の女性遍歴を赤裸々に告白した格好となるアスラ。
すぐにそのことに気がついて、顔が真っ赤となる。
とたんに青年を見るケイテンとゲツガの目が、憐れみやら同情まじりの生ぬるいものとなった。「あら、まぁ」「おやおや」
見た目はそこそこ大人だけれども、中身がまだまだ子どものアスラ青年。
なんのかんのと言いつくろうも、すでにあとの祭り。
わたしはそんなアスラの尻をポフンとやさしく叩き、「どんまい。でも、あんまり異性に夢を見るなよ。男が考えているほど女は甘くねえからな」と励ましてやった。
と、ここですっかりムシされて焦れたメッキザルが「うがーっ」と吠えて、襲いかかってきた。
この時、わたしたちは少しばかり油断をしていた。
そこそこ距離があいていたからだ。
メッキザルの姿が消えたとおもったら、まばたきひとつの間にもうすぐ目の前にまで迫っていた。速っ!
ケイテンとゲツガはさすがにて、すぐさま反応し左右にパッと散る。
アスラも長剣と短剣をすかさず抜いて臨戦態勢を整える。
わたしひとりがぼんやりと立ち尽くすことに。
そこにメッキザルが放った裏拳が飛んでくる。
ちゃんと見えてはいる。即座に頭がとるべき回避行動を指示する。けれども肝心のカラダの方がついてこれない。
あっ、ヤバい。
わたしが衝撃に備えて歯を食いしばったとき、身に着けた帯革から飛びだしたのは我が娘たち(スコップ、草刈り鎌、金づち)。
娘たちは即座に本来の姿に変じる。
のびてきたメッキザルの左腕。これを肘のあたりでバッサリ一刀両断したのは、白銀の大剣ミヤビ。
ほとんど同時にメッキザルの股関節付近をこれまたバッサリ殺ったのは、漆黒の大鎌アン。
トドメだとばかりにメッキザルの側頭部をぶん殴って派手に吹き飛ばしたのは、蛇腹の破砕槌ツツミ。
かくして第四十階層のヌシは瞬殺されたものの、わたしの周囲をふよふよ浮かんでいる三種の天剣(アマノツルギ)を前にして、ケイテンは「あっちゃー」という顔をし、ゲツガとアスラはそろってアゴがはずれそうなぐらいに口をあけて、目が点になっていた。
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