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015 氾濫
しおりを挟む「どういうことだ!」
「あれはいったい?」
アスラとゲツガから詰め寄られて、わたしは覚悟を決めてかくかくしかじか。
自分の正体を明かし、事情を説明する。
「なるほど……。たしかに天剣(アマノツルギ)があるとわかったら、馬鹿どもが殺到しかねぬか。しかし、よもやチヨコお嬢さまが、炎風の神ユラの神託を受けての迷宮探索であったとは」
クンルン国の人間であるゲツガは、ユラ神絡みの案件というだけで、わりとすぐに納得してくれた。
あの露出狂神、ぞんがいに人望がありやがる。
対して、うるさかったのがアスラ。「すげー、スゲー、天剣をオレさまに寄越しやがれ」とやかましい。
あんまりにもうるさいから、わたしは「だったら彼女たちに直接お伺いを立ててみな」といちおうの機会は与えてやった。
天剣は自我を持ち、言葉を発し、自身の担い手は自分で選ぶ。
万が一ということもあるからね。
すると我が娘たち(剣と鎌と槌)の反応はこうだ。
「ごめんあそばせ。生理的に無理ですわ」白銀の大剣こと勇者のつるぎミヤビ。
「……生まれかわってから出直してこい」漆黒の大鎌こと魔王のつるぎアン。
「それがし、イカレポンチはちょっと」蛇腹の破砕槌こと大地のつるぎツツミ。
天剣三姉妹は容赦なかった。
防御不能な言葉の刃にて青年の心をザクザク抉る。
さしもの自信家アスラもこれにはがっくし。四つん這いとなりうな垂れた。
わたしはそんな彼を尻目に、こっそり「ところでゲツガさんはどうかな」と娘たちにたずねるも反応は芳しくない。
「実力は悪くありません。が、戦闘様式が致命的に異なりますわ」
長い野太刀を武器に神速の剣技を誇るゲツガでは、両手持ちの大剣である自分を十全にあつかえないと、もっともらしい理由にてやんわり断るミヤビ。
フム。どうやら人柄だけはそれなりに気に入っているようである。
「……腕はいい。けど、とても自分を使いこなせるとはおもえない」
長姉と似たような理由を口にしたアン。
っていうか、そもそも大鎌で満足に闘える人なんているのだろうか?
もしもいたとしたら、かなりのイロモノ。
クンルン国は武芸の宝庫にて、多種多様な流派が存在しているらしいから、大練武祭に行けばあるいは奇跡の出会いが待っているかも。
「それがし、姉じゃたちを差し置いて先に輿入れとか。おそれおおくて、とてもとても」
末妹のツツミは、姉たちをだしにしてのお断り。
うまいこと予防線を張り、自身の安全圏を確立。
以降、嫁入り話はこれで断る気なのだろう。
天剣にふられて意気消沈していたアスラではあったが、すぐに復活。
「まぁ、しゃーない。そもそも武器の性能に頼るのなんざ、真の強者のすることじゃねえからな。あの伝説の蒼い狼だって、そんなものに頼らなくとも最強になったんだから。オレさまだって」
へこたれない男。
これでオレさま節の言動をあらためたら、さぞやモテることであろうに。
じつに惜しい。
まぁ、そんなことを当人に伝えたらきっと調子に乗るだろうから、言わないけどね。
◇
天剣絡みの話も終わったところで先へと向かう一行。
けれども第四十一階層目にて、すぐに足を止めることになる。
深いすり鉢状になった大広間がひとつあるだけの場所。
その内部にひしめくのは無数の禍獣たち。
あまりの数に「なんだこれは」とゲツガが目をむく。こんな光景は何度も試練の迷宮に潜っている彼女も初めてだという。
さしものアスラも絶句し、ちょっとあとずさり。
ケイテンは、数をかぞえようとしてすぐにやめた。
それほどまでの多勢。
このことからわたしは「あれが禍獣の氾濫なのかしらん」と首をかしげる。
たしか炎風の神ユラはこう言っていた。
『禍獣たちに氾濫の兆しがある。試練の迷宮へ行け、剣の母チヨコよ』と。
たしかにこれは、いかに武芸の達人たちとて、真っ当な人間ではちょいと手に負えそうにない。
これだけの数の禍獣たちが一斉に地上を目指したら、きっととんでもないことになる。
と、そこまで考えたところで、わたしが思い出したのは試練の迷宮がある周辺の地形。
周囲を高い外壁と深い堀に囲まれている。てっきり重要な拠点だから守りを固めているのかと考えていたのだけれども。
ひょっとして、逆?
何らかの理由にて氾濫した禍獣たちが、外へと出れないようにするための檻だとしたら……。
自分たちの置かれている立場を知って、わたしはごくりとつばを飲み込まずにはいられない。
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