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018 魔槍
しおりを挟む「チヨコ、ちよこ、チヨコ、ちよこ、チヨコ、ちよこ、ぢよご、チョコちょこちょこちょこ……」
首やら肩やらを小刻みにかくかくさせながら、コォンがひたすらわたしの名前を連呼している。
まるで壊れた人形のような動き。
明らかに様子がおかしい。
というか、ただただ不気味っ!
「おい、アレはおまえの知り合いなのか」
コォンから視線をそらすことなく、たずねてくるアスラ。
わたしはかいつまんで事情を説明する。もちろん国の威信などを傷つけるようなマズイ情報はごっそり割愛して。
話を聞いたアスラは「そりゃあ恨まれて当然だわ」と深いため息。
ゲツガも「いや、師に毒を盛ってキノコまみれにしたあげくに、弱ったところで尻をぶち抜いて再起不能にしたら、そりゃあ恨まれるだろう」とあきれた。
「あらためてやったことだけを列挙したら、チヨコちゃんの『相手の逆恨み』という主張にはムリがあるわね」
詳細を知っているはずのケイテンまでもが、ゲツガの言葉にうんうんうなづく。
あれ? なぜだかわたしの方が悪者にされている。そんな馬鹿な、あれは立派な正当防衛のはずなのに……。
しかしあらためて釈明している時間はない。
カチャリと鳴ったのはコォンが手にした白い槍。
コォンの身がかすかにゆらめく。
と、思ったらその姿がすぐ目の前にあった。
「えっ」「なっ」「ちっ」「!」
アスラとゲツガが驚愕し、ケイテンが舌打ち。
わたしはぼけっと立ち尽くすばかり。その首に細い白蛇がのびてきた。けれども実際にくり出されていたのは槍の穂先。なんら殺気もなく、動作の予兆もない。だというのにおそろしく鋭い一撃。
触れればあっさりとわたしのノドを貫いていたことであろう。
防いでくれたのは、懐から飛び出した白銀のスコップ姿のミヤビ。
同時にわたしのカラダは、帯革内にいるアンとツツミによって強引にひきずられて後退。すかさずコォンと距離をとる。
間髪入れずに白い槍を蹴りあげたのは、ケイテンのつま先。
これに遅れることまばたきひとつ。左右からアスラとゲツガの刺突と斬撃がコォンへと襲いかかる。
白い槍が弧を描いた。
光が閃く。宙にぱっときれいな円が出現したとおもったら、火花が散ってアスラとゲツガの剣がはじかれていた。
けれどもその隙に懐へと入ることに成功したケイテン。踏み込みからの拳打をコォンのみぞおちへ放つ。手甲からは物騒な突起も生えており決まれば致命傷となる一撃。
ケイテンの拳は見事に決まった。
が、コォンは少しばかりカラダをくの字にしただけで倒れない。
槍の石突が床面より跳ねあがりケイテンを襲う。ケイテンは身をよじってかろうじてこれを避けるも、少し肩にかすっただけで吹き飛ばされた。
「うそ! 前に見たときとはまるで別人じゃない」
槍の妙技もさることながら、カラダの動きが尋常ではない。膂力もおかしいが、なによりこの三人を軽くあしらうことこそが異常。
おどろくわたしのもとへと飛んで帰ってきた白銀のスコップ。
手の中にてミヤビが言った。
「ええ。といいますか、ふつうの人間は腹を突き刺されたら、とてもあのようには動けませんわ。どうやらコォンはあの白い槍の傀儡に成りさがったようですわね」
いつになく険しい声音のミヤビ。何やらあの白い槍に対して怒っているような。
それは帯革にいるアンとツツミも同じらしく「……なんだか気持悪い」「見ているだけで不快なり」と文句を口にしている。
「パオプ国の火の山にあった『よろずめの呪槍』みたいなものかしらん」
よろずめの呪槍とは、膨大な数の女たちを生贄にして鍛えられた槍にて、内にこもった怨念を増幅させて、さまざまな災いを成す魔道具のこと。
けれども、わたしのこの意見を天剣三姉妹(剣と鎌と槌)がそろって否定する。
あれもたいがい腹立たしい存在ではあったが、白い槍は何やら雰囲気がちがうという。
「……なんていうか、ヘタクソな似顔絵や彫刻を見せられているようで、ムカつく」とはアン。
「そうでござる。不細工なまがい物すぎて『せめてもうちょっとがんばれよ』とでも申しましょうか」とはツツミ。
自分たちでもよくわからない憤りにて、娘たちがイライラしていることだけは、わたしにもよくわかった。
◇
剣の母であるわたしと天剣三姉妹が、白い槍について話をしている間にも戦いは続いていた。
三人を相手にしているというのにコォンが優勢を保っているように、わたしの目には映る。
アスラ、ゲツガ、ケイテン、各々の攻撃がちょいちょい当たっているのにもかかわらず、コォンはひるむことがない。それどころか傷ついたカラダがはしから回復していやがる。しかも疲労するでもなく、むしろ動きがじょじょに機敏さを増してゆく。
コォンの槍に殺気や気迫が含まれていないことも、こちらの形勢を不利にする要因となっている。ゲツガたちはとても戦いにくそうだ。
フム。このままではじり貧であろう。
ミヤビたちを加勢させたいけれども、中途半端な部屋の広さがこれを邪魔する。
四人の武辺者たちが大立ち回りを演じているので、けっこうかつかつ。下手に本来の姿で参戦したら、かえってみんなの足を引っ張ってしまう。
いっそのこと密閉空間であることを活かして、シビレ薬でも散布するかと考えるも、いまの状態のコォンに毒の類が効くかどうかわからない。全身キノコだらけになってもへっちゃらで動きそうだし。
「はてさて、どうしたものやら」
わたしが何かいい手はないものかと考えていたら、ミヤビが「ひとつご提案がありますわ」と言った。
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