剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

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019 三角錐の部屋の秘密

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 ミヤビが口にしたのは、この部屋について。
 すべてが三角形で構成された奇妙な空間。
 この場所自体が何やらあの白い槍に有利に働いているらしい。

「周囲から吸いあげるようにして、この場にチカラが集まってきておりますわ。あの槍はおそらくそれを喰らっているのでしょう」
「えーと、それってつまり、ここで戦い続けるかぎりは、あちらさんは疲れ知らずということになるのかな?」
「はい、チヨコ母さま」
「おっふ、それはなんとめんどうな。かといって部屋の外へ連れ出すにしても、あの狭い通路じゃねえ」

 ちらりとこの隠し部屋へと通じている道を見て、わたしは嘆息。
 うねうねした細い経路にて、ところどころ天井が低いところまである。
 白い槍の猛攻を避けながら、誘導しつつあの中を逃げるのはちょっとムリそう。
 するとここで声をあげたのはツツミ。

「ならばそれがしにおまかせあれ。どどんとぶち抜いてみせましょうとも」

 誘い出すのがムリならば部屋の方をぶち壊してしまえ。
 との過激なご意見。
 はたして効果があるのかどうかはわからないが、さりとてただ戦いの行方をぼんやり眺めているのも芸がない。
 だから「いっちょうやったるか」とチヨコ組は早速、行動を開始する。

  ◇

 蛇腹頭の破砕槌の姿となった大地のつるぎツツミ。
 わたしは槌を肩に担ぐ。
 自在に己の自重を変えられるツツミの能力のおかげで、巨大な槌がいまは羽のように軽い。柄をしっかり握ってブンとふると、ピコピコかわいい音が鳴る。

「うんとこどっこいしょ」

 破砕槌が壁に当たる瞬間、超重量へと変化。とてつもない衝撃を放つ。
 あまりにも刹那のことゆえに、わたしの手の中に伝わる反動は、ほんのわずか。
 けれどもその一撃にて壁は盛大に瓦解。余波にてそこいらに無数の亀裂が走り、部屋自体も大揺れ。
 そのせいでコォンと味方たちの戦いまでもが一時中断を余儀なくされる。

「なっ、なんだぁ?」

 突然の揺れにおどろくアスラたちを尻目に、コォンというかそれを操る白い槍自体がこちらの目的に気づいたらしく、ゲツガやケイテンらをムシしてわたしのところにまっしぐら。
 その前に立ちふさがったのは、白銀の大剣となった勇者のつるぎミヤビ、漆黒の大鎌となった魔王のつるぎアン。

「チヨコ母さまの邪魔はさせませんわ」
「……母、守る」

 長女と次女が時間稼ぎをしてくれている間に、わたしはせっせと末っ子をふり回しては、破壊工作を敢行。
 壁をぶち壊し、勢いのままに狭い通路も拡張。それこそトンネルを掘り進めるかのようにして、ずんずん作業を続ける。
 これによって三角錐の形状をしていた部屋の一角が崩れて、大きく様変わりした。

「どうよ?」わたしがたずねれば、「やりましたわ、チヨコ母さま。チカラの流れが途絶えました」とミヤビ。

 それを証明するかのごとく、ガクンとコォンの動きが目に見えておかしくなった。
 どうやらあの白い槍は相当に燃費が悪いらしい。

「隙ありっ!」

 ここぞとばかりにアスラが突進。コォンを攻め立てる。
 長剣と短剣、二つの間合いを目まぐるしく入れ替えることで、産み出される独特の律動がコォンの槍を翻弄。突きと薙ぎの乱撃。その一撃一撃は軽い。けれども速く、斬れ味が鋭いゆえに、かすっただけでも容赦なくカラダを斬り裂く。多彩な攻めに織り交ぜられた正確無比な刃が、筋肉や関節、筋などの動きをつかさどる急所をえぐる。
 勇壮な舞のような剣。けれども着実に相手を追い詰めてゆくしたたかさも、その内に秘めている。
 圧倒的手数が、ついにコォンの鈍りはじめている回復力を上回りはじめる。
 コォンがアスラの相手に集中していたら、ふいに横から斬撃が飛んできた。
 ゲツガの長大な野太刀による居合いである。
 十分にタメをつくってからの腰の入った一撃。その剣速は通常の比ではない。
 それでも槍の石突でもって、とっさに防いでみせたコォンこそを褒めるべきか。
 しかし衝撃までは抑えきれずに、槍を持つ腕ごとかちあげられてしまう。
 がら空きとなった胴を一閃したのは、アスラの長剣と短剣。
 だが、なおもコォンは倒れない。
 間髪入れずにゲツガの二の太刀が追撃。アスラがつけたふた筋の裂傷の真ん中を野太刀の切っ先が疾走。
 腹に三本もの血溝を深々と刻まれ、さしものコォンも膝が崩れて前方へとぐらり。
 そこに後方から飛来した二つの物体が襲いかかる。
 ケイテンが放った円月輪なる投擲武器。
 高速回転する薄く丸い刃が、容赦なくコォンの首筋へと吸い込まれた。
 ブツンといやな音がして首がおかしな角度に折れ曲がり、だらりと落ちた。骨と肉を断ち、皮一枚にてかろうじて胸先にぶら下がる。
 だというのに、コォンはまだ立っていた。

 わたしは担いでいた破砕槌姿のツツミに「金づちに戻って」とお願い。
 すかさず手のひらに収まる大きさになったところで、ツツミを「ていや」とぶん投げる。
 小さな金づちが回転しながら向かった先には、人間を辞めてしまっているコォン。
 首のもげたコォン、飛んできた金づちをとっさに白い槍で叩き落そうとしたのは、カラダの芯にまで染みついた武の賜物。でも、この場合は悪手にて、これこそがわたしの狙い。
 槍と衝突した瞬間、ツツミのチカラが発動。超重量の衝撃を受けて、白い槍はなかばにてパキンと砕けて折れた。
 とたんに響いたのは凄まじい絶叫。
 もげたコォンの首が発したのか、槍自身が発したのかはわからない。
 金属と金属をこすりあわせたときに起こるような不快音。これを千倍に濃縮したような断末魔の叫びが室内に反響。
 わたしはたまらずしゃがみ込んで自分の両耳を手でふさぐ。
 アスラやゲツガ、ケイテンらもあまりのことに、似たような状況へと陥った。

  ◇

 気を失うかとおもうような苦痛の時間が終わったとき。
 わたしはキーンという耳鳴りに支配されていた。
 周囲の音がうまく拾えない。
 それでも視線の先にみんなの無事な姿を確認して、ほっとしたのもつかの間、唐突に視界が白煙に包まれる。
 とっさに床へと這いつくばったのは、これまでの経験のなせる業。
 そのままわけもわからず、ゴロゴロと部屋の隅へと転がっての回避行動。隅っこに到達したところでわたしは息を殺して、じっと潜む。
 ちくしょう、やられた。
 ずっとうしろからつけてきていた例の集団だ。
 こっちが勝利で油断する瞬間をついてきやがった。
 狙いはわからない。
 けれどもみんな疲弊しているし、こいつはちょいとヤバいかも。


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