にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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021 長距離歩行訓練

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 神さまのいけず。
 どこまでも澄み渡る空。
 遠足当日は、よく晴れていた。
 もしも雨天なら中止だったのに……

 校庭に整列している五年生たち。
 開始時刻となったところで、一組から順に校門をくぐり出発していく。
 交通量の多い街中では、先生の指導の下、クラスごとに並んで行動する。
 でも土手道から上流域を目指すあたりから、バラけて班ごとに各々のペースで進んでいいことになっていた。
 だから和香たちの班もそれにならったのだけれども。

(え~と、なんだコレ? どうしてこんなことに……)

 和香は自身が置かれた状況に戸惑いを隠せない。
 なにせ自分を挟んで右隣りには古峰玲央が陣取り、左隣にはスズちゃんが、そして背後には高槻悠太がぴたりと張りついては、こちらをじーっと見つめている――というか視線がビシバシ突き刺さっていることからして、和香のことを観察しているっぽい。

 三人にがっちり囲まれており、なんとも気まずい。
 わけがわからない。
 ふつう男女半々の四人組ならば、同性同士、二対二とかでくっついて歩きそうなものなのに、なにゆえこのような不可解な配置になったのか。
 というかなぜ、玲央はわざわざ隣りを歩く?
 そのせいでスズちゃんが妙な対抗心を燃やしている。
 悠太に関しては……ただただ、うっとうしい。

 だがそれだけではなかった。
 土手道からは自由行動みたいなもの。先生たちの監視の目も緩む。
 待ってましたとばかりに、動き出す者たち。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 砂利を力強く踏みしめる足音が背後から近づいてくる。
 猛然と追いついてきたのは、隣のクラスの三輪瑠璃が所属する班であった。
 魂胆は言わずもがな。
 瑠璃は最初から狙っていたようで、班の構成メンバーを運動が得意な子たちで固めるという徹底ぶり。
 同じようなことを考えていたのは、他にも。

 瑠璃のところを筆頭に、こちらへの合流もしくは接近を試みる班は多々。
 先行していた一組のとある班はわざと歩みを遅くして、後発のクラスからはやや駆け足で急ぐ班までもあった。そのため後方ではちょっとした徒競争のようなありさまになっている。互いを刺激し合ってのことらしいが、さすがにこれはダメだろう。
 ただでさえ長丁場だというのにペース配分を考えていない。あとには山歩きも控えているというのに。

 で、どうなったのかというと――

「ちょっと、あなたたち邪魔よ、どきなさい」
「なによ、そっちこそ」
「おい、押すなってば」
「きゃっ、誰よ、靴のかかとを踏んだの」
「ええい、暑苦しい。こっちくんな!」
「おまえこそ!」
「なにおぅ」
「なによっ」

 和香たちの班を中心にして、土手道で渋滞が発生した。
 子どもたちがおしくらまんじゅう、まるで満員電車のよう。
 いささか危うい密集。うっかりひとりが転んだら、将棋倒しが起きて大惨事になるのではなかろうか。もしくは道を踏み外して土手から転げ落ちる者がいても不思議じゃない。

「だね。さすがにこれはちょっとまずいかも」

 心配するスズちゃん。
 和香も顔を引きつらせながらうなづく。

「くっ、おい、古峰が原因なんだから、なんとかしてくれ」

 ろくに身動きがとれないことに悠太がイラ立つ。
 たしかにその通りとはいえ、玲央を責めるのはいささか酷な話であろう。
 なにせ甘い砂糖に群がるアリのごとく、向こうから勝手に寄り集まってくるのだから。当人だって迷惑している。
 にしてもこれが日常茶飯事とか信じられない。イケメン王子さま、モテ過ぎにもほどがある! ストレスがはんぱない。
 自分ならばきっと胃に穴が開いているだろう。
 なんぞと和香が考えていると――

「きゃっ」

 誰かの悲鳴。
 ついに危惧していたことが起きた。
 人混みが不自然に歪む。
 転倒こそはしていないものの、誰かと誰かの肩がぶつかったひょうしに体勢が崩れて、周囲をも巻き込んでしまう。
 押し合いへし合い、集団がうねる。
 人波を生じた。
 渦中にいた和香たちの班に逃れる術はない。
 たちまち波に呑み込まれてしまう。和香がスズちゃんと繋いでいた手も離れてしまった。

「うんにゃあ~~」

 小柄な和香は翻弄されるばかり、揉みくちゃにされる。
 そのうちに、ポンっ!
 放り出されたのは、土手道の端っこであった。すぐ目の前には斜面があって気づいたときには、すでに体が大きく傾いていた。
 あとは坂を転がり落ちるばかり。
 でも、そんな和香の腕を掴む者がいた。
 玲央である。すんでのところで手をのばし間に合った。
 以前、ハチに追いかけられているところを助けてくれた時の再現。
 かとおもわれたのだけれども……

 ドンっときて、ぐらり。

 このタイミングで誰かに背中を押された玲央。
 無理な体勢にて無茶をしたもので、いかに彼でも和香を支え切れず。さりとて手は離さない。
 結果、ふたりいっしょにまとめて転げ落ちることになった。

「うわっ」
「きゃあぁぁぁぁ」

 人混みからはじき出された和香と玲央は、そのまま抱き合うようにして、ゴロゴロゴロゴロ……
 周囲の者たちは、自分たちのことで手一杯にてこれに気づかない。
 ふたりは土手の斜面を滑るように転がって、その先にあった繁みへと突っ込んだ。


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