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062 変わるもの、変わらないもの
しおりを挟む「おはようスズちゃん」
「おはようワカちゃん」
登校中に行き合ったふたりは並んで歩く。
昨夜放送していたドラマのこととか、宿題のこととか、音楽のリコーダーのテストのこととか、暑さがやわらぎ過ごしやすくなってきた天気のこととか。
とりとめのない会話をつらつらしていると、「カァ」との鳴き声がした。
隻眼のカラスが電柱の上からこっちを見ている。
和香が軽く会釈をすれば、カラスもうなづきバサリと飛び立つ。
ふたりが商店街に差しかかったところで――
和香は細い路地の奥に複数の気配を感じた。
建物同士の狭間、エアコンの室外機の上にデンと陣取っていたのは大きな鯖虎だ。それを囲むようにしてノラネコたちがたむろしている。なかには小さな三毛も混じっている。
朝からあくせくしている人間たち。その通勤通学の風景を横目に、ネコたちはのんべんだらりとしたもの。
それがなんとなくおかしくて、和香はついくすりと笑みを零す。
野実神社での騒動から、すでに五日が過ぎていた。
その間にわかったこと、わからなかったこと、変わったこと、変わらなかったことがいろいろある。
わかったこと。
青い小火――由羅の魂の欠片が残した不吉な言葉の意味。
あらためて御所さまが封印塚を調べてみたところ、塚から減った分と今回の件から逆算して推測するに、どうやらあと三つか四つ、青い小火が外界に散らばっているらしいとおもわれる。
どうやらバレないように、数年前から少しずつ塚から抜け出していたらしい。
それすなわち、今回みたいな事件がまた起こるということを意味していた。
なんてこったい!
次にようやく目覚めた和香の第三の能力について。
御所さまとヌイグルミのミニ御所さま。
本体と分体? が奇妙な対面をはたしてから、ごにょごにょ話し合うこと一昼夜にも及ぶ。
あれこれ情報をすり合わせ、考察を交えて導き出した結論は『想いを形にする力』というものであった。
和香に持たせていたお守り袋、中に入っていた虹石に込められていたのは御所さまの念だ。邪気を払い持ち主の身を守るという願いが込められたもの。
その想いが和香の能力により具現化し、ミニ御所さまが産まれた。
……っぽい。
どうして曖昧な結論になっているのかといえば、それは和香の第三の能力の発動条件がいまひとつはっきりしていないからである。
なんとか再現してみようと試してみたが、ウンともスンともしやしない。
どうやら今回のは火事場の馬鹿力みたいなもので、心身ともにかなり切迫した状況ゆえに起こしたマグレのようである。
つまりへっぽこ弟子は、まだまだ半人前ということだ。
では、どうしてそんなへっぽこな和香の周囲をちょろちょろし、由羅がちょっかいを出していたのか?
すべては、音苗一族に波風をおこすためであった。
先祖返りをした者は次期当主となる権利を有す。
が、和香は目覚めたばかりだし、能力も微妙だった。家柄も分家筋のはじっこにて、支持してくれる者もいない。
さらには現時点ですでにふたりも優秀な次期当主候補がいたもので、お呼びでないと遠巻きにされるばかり。
だったのだけれども、そんな和香がここのところ何かと目立っている。
不埒なペット泥棒たちを懲らしめた。
どんぐり山の騒動では解決に尽力したばかりか、墓石の大量不法投棄を告発し、一帯に住むタヌキたちより絶大な信頼を得る。
フライドチキン抗争では方々を駆け回っては仲立ちをし、切れ者と評判の猫嶽の女奉行・桐葉の覚えもめでたい。
そして『狼爪の切り裂きジャック』事件をも解決へと導き、裏に潜んでいた由羅の悪事を看破し町の平穏を守った。
和香からすれば、すべて巻き込まれただけなのだけれども……
結果として和香はいくつも手柄をあげたことになる。
加えてあらたに判明した第三の能力『想いを形にする力』だ。
いまはまだロクに使えないけれども、もしも自在に操れるようになったら?
その有益さは計り知れないだろう。
これにより俄然、注目度が増した和香。
一躍、正式に第三の候補と認められ、ダークホースとして躍り出たのである。
しかし和香の第三の能力は特殊で、そしてかなりヤバい。
だから「もしかしたら猫嶽が動くかもしれない」と御所さまからも言われている。
面倒ばかりが増えていく。
この状況に和香は頭を抱え、ミニ御所さまはケラケラ笑う。
とまぁ、これがいろいろと変わったことだ。
そうそう、わからないといえば、ホワイトナイト――白いシェパードのこともだ。
騒動の後、いつの間にか境内から姿を消していた。
不思議な力を持つ彼がただのイヌではないことは明らか。
ミニ御所さまは何か勘づいているらしいのだけれども、いくら和香が頼んでも教えてくれなかった。
「他人様の秘密なんてものは、べらべらしゃべるもんじゃないんだよ。なぁに時がくればいずれ向こうから話してくれるはず。そいつをじっと待つのがいい女ってもんさ」
なんぞと言われたら、和香は口を閉じるしかない。
◇
学校が近づくほどに、まばらだった子どもたちの姿が増えていく。
そろそろ校門が見えてきたところで。
「やぁ、おはよう、音苗さん、赤宮さん」
うしろから声をかけてきたのは古峰玲央だ。
あいかわらずカッコいい王子さま。初夏の風をおもわせる爽やかなスマイルがまぶしい。
でも和香とスズちゃんが挨拶しようとした矢先のこと、向こうからズンズン近づいてくる女子の小集団があらわれた。
三輪瑠璃が率いるファンクラブの面々である。
瑠璃……以前に和香がトイレで遭遇した時には、ずいぶんとイライラしているみたいだったけど、いまはもうそんなことはない。
「おっと、ごめん、先に行くね」
彼女たちに捕まればやっかいなことになる。玲央は急ぎ教室に逃げ込むべく駆け出した。
残されたふたりが「モテ過ぎるのもたいへんだねえ」「ねえ」と見送っていると、「ったく、あいつらはまた飽きもせずに追いかけっこをしているのか」と呆れたように言ったのは高槻悠太であった。
いきなり背後から話しかけられて、和香とスズちゃんはビクリとするも、その時のことであった。
キーン、コーン、カーン、コーン。
聞こえてきたのは予鈴である。
いささかのんびりし過ぎたらしい。モタモタしていたら下駄箱のところで渋滞に巻き込まれて遅刻してしまう。
誰からともなく和香たちも駆け出していた。
ちょっとドタバタしたスタートになったけど、今日もまた変わらない一日が始まる。
―― にゃんとワンダフルDAYS(第一部完) ――
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