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003 彫刻師
しおりを挟む「ちがう、ちがう、ちっがーうっ!」
怒声が響く。がなり立てながら、手にした大きな金づちにて彫り上げたばかり石像を殴打したのは小さなおっさん。
背こそは少年ほどしかないが、そのカラダつきは筋骨隆々にて、膂力は見た目からは想像もつかないほどに強い。
小さなおっさんの一撃にて女神像の首から上が粉砕し、余波で胴体部分をも倒壊してしまう。
「だーっ、ちくしょう! 情けねえ。俺の腕はここまで腐っていやがったのか? ならばいっそのこと、こんな腕なんてっ!」
顔を真っ赤にした小さなおっさん、衝動のままに金づちを自分の手の甲へと振り下ろそうとしたものだから、「ぎゃあー」と止めに入ったのはわたしと神父さま。
「ばかもの、早まるでないわ」
「ええい、放せ。こんな役立たずの腕なんて、いっそ砕いちまったほうがせいせいすらぁ!」
「おっさんはせいせいするかもしれないけれど、わたしたちがちっともせいせいしないよっ! あと床掃除がめんどうくさい! 血はシミになるんだから! やるならせめて表でやって!」
神父さまが背後から腰に突進。おっさんを押し倒したところに、わたしが金づちを持つ腕に関節技を決める。
にもかかわらず、なおも「はーなーせーよー。いいや、いっそのこと、このまま俺をこーろーせー」とジタバタ暴れる小さなおっさん。
このやたらと感情の起伏が激しい彼の名前はジールンさん。
聖都にある二柱聖教本部より派遣された神像彫刻師である。
通常、神像の制作は工房で行われてから設置されるのがつねらしいのだが、いかんせんポポの里は僻地のきわきわ。道もロクに整っていない。
そんな悪路を荷車でガタゴトさせながら、わりと大きな石像なんて運搬したら、十中八九、途中で壊れる。
だから現地制作という方針となり、やってきたのがジールンさん。
ちなみに来訪当初の彼の第一印象は最悪だった。とは、里長のモゾさんの談。
なんでも開口一番「ちっ、シケた場所だぜ。あー、田舎くせえ。だがこの俺がきたからには、分不相応なほどに立派な神像を作ってやらぁ」と居丈高に吠えたそうな。
そりゃあ大都会にて高名を馳せる彫刻師からすれば、地図にも載っていないような辺境の里なんて、超がつくド田舎だからバカにされてもしようがない。
にしたって、最低限の礼節というものがある。
失礼な人物を迎え入れることなった里の面々は、内心でイラっ。
が、そんなジールンさんの態度が劇的に変化したのは、ボロ教会に設置されてあった「っぽいもの像」を見た瞬間。
「っぽいもの像」とは、神像を模した素人細工の像のこと。丸太をデンとおいて、それっぽい形に彫っただけのシロモノ。
正式な神像を設置するのには、教会本部の許可がいるし、とってもお金がかかる。自給自足で細々と暮らしているポポの里ではとても手が出ない。かといって、勝手に神像を造って設置したことがバレたらめんどうなことになる。
だから「っぽいもの像」でごまかす。たとえ露見して関係各所から厳しい追求を受けても「これが神さま? あっはっはっは、またまたご冗談を」と言い抜ける。もしくはいざともなれば薪にして証拠隠滅をはかる。辺境の知恵である。
事前に撤去しておく予定であったのに、いきなりジールンさんが単独来訪して、ズカズカ教会奥にまでのり込んだものだから、ばっちり見られてしまった。
本職の神像彫刻師からしたら、憤慨もののチャチな品。
またぞろ機嫌をそこねるのにちがいないと、神父さまや里長のモゾさんらは肩をすくめたのだけれども、予想に反してジールンさんは「っぽいもの像」を前にして涙を流して膝まづいた。
「あぁ、本物はここにあったのか……」
感涙にむせぶジールンさん。
あっけにとられたのは里の面々である。威張ったり、怒ったり、泣いたりと、情緒不安が過ぎて、もうわけがわからない。
オイオイむせび泣く彫刻師に神父さまが理由を問えば、その口から語られたのは、彼がずっと胸の内に抱えていた悩みであった。
◇
大工の家に生まれたジールン。
おかげで周囲にはいつも道具と素材が転がっていた。それらをオモチャにして彼は育つ。そんな中にあってジールンが目指したのは父と同じ道ではなくて、彫刻師。
石や木からいろんなモノを彫り出す作業に魅せられたジールン。
若くしてメキメキと頭角をあらわし、その腕を買われて神像造りの工房へと招かれてからは、才能をいっきに開花。ついには当代有数の神像彫刻師としておおいに名を馳せる。
教会のおぼえもめでたく、工房は隆盛を極め、誰もが彼の腕を褒めそやす。もちろん自負や誇りもあった。けれども、いつの頃からか彫れども彫れども満足することがなく、あれほど内に満ち充ちていたはずの彫刻への情熱をもしぼんでしまい、己の仕事に意義を見い出せなくなってゆく。
依頼されるままに高額で華のある神像を制作する一方で、ずっと心の片隅にひっかかっていたのは「本当にこのままでいいのか?」という想い。
そんなときに舞い込んできたのが、辺境の里での神像制作の依頼。
マンネリ感が漂う仕事、わずらわしい人間関係と変化のない環境に少々うんでいたジールンは、詳しい話を聞くこともなく、上から降りてきたこの仕事を引き受けた。
何もかもうっちゃって旅にでも出れば、あるいは……と考えたのである。
そんなジールンはポポの里の「っぽいもの像」を目にして衝撃を受ける。瞬間、全身をびりびりイナヅマが駆け抜けた。
造詣うんぬんについては語るに値しない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
神像とは何か?
その答えがここにあった。
それは信仰の対象。人々の想いを、願いを、悩みや苦悩を受け止め、ときには静かに寄り添い慰める存在。
ボロっちい教会の奥にて、雨漏りしている屋根や木枯らしが抜ける壁の隙間なんぞから差し込む光彩を受けて、ただ静かにたたずんでいるボロっちい「っぽいもの像」の姿に、神像としてあるべき真の姿を見て、感銘を受けるジールン。
涙ながらに、「これこそが自分が求めていた形だ」とひとり興奮し奮起する。
が、そんな話を聞かされても、神父さまをはじめとした里の面々は、全員がそろって首をかしげた。
「芸術家の考えることは、よくわからんなぁ」
「感性の問題? というやつなのかのぉ」
「まぁ、やる気になってくれたようで、なにより」
「そうか? むしろちょっと不安になったんだが……」
「ヘンに凝ったもんじゃなくて、『ふつう』でいいんだけど」
◇
なんてことがあったのが、わたしが里帰りする少し前のこと。
で、本物? に接したことによって、自分の進むべき道を見い出し、情熱とやる気をとり戻したジールンさんは、ずっと作っては壊すという行為をあきもせずにくり返している。
でもって、創作活動中は終始こんな感じ。
情緒不安定なので危なっかしくって目が離せない。
おかげで巻き込まれた神父さままでもが、若干ぴりぴりしちゃっている。
そんな神父さまに呼び出されたから来てみたら先の騒動。そして「すまんが、ちょっと石をとってきてくれ」とおつかいを頼まれた。
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