剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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006 地下大帝国

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 地下通路にてわたしたちを優しく包み込んでは、風に流れる雲のごとく運びさっているものの正体は、無数の羽。
 向こう側が透けるほどに薄く、帯のように長く、軽やかでしなやか。
 それはロクエバチの羽であった。

 ロクエバチ。
 五歳児ほどの大きさのハチ。丸みのある体型にて、性格は温厚。六単衣(ろくひとえ)のような裾っぽい羽をひらひらさせながら飛ぶ。その姿は愛らしくもあり、優雅でもあり。
 極上のハチミツをこしらえることから、豊穣をもたらす存在として珍重されており、よき隣人となれればおすそ分けもいただけるので、辺境民はみんな彼らの来訪と定住を心待ちにしている。

 通路の奥から殺到したロクエバチの大群。
 いきなりの接近遭遇にて、あっという間に飲み込まれたわたしたち。
 おどろきつつも、あえて抵抗はせずに身をまかせる。
 羽の感触の心地よさもさることながら、とても丁重かつ丁寧なあつかいを受けていたからである。害意もまったく感じられない。
 にしてもロクエバチの集団のなんと素晴らしきかな。
 超絶静音設計にて、羽音ひとつしやしない。それでいてこの極上な肌触り。宮廷に敷かれてある厚手の敷物もふかふかですごかったけれども、コレはその比じゃない。
 羽の柔らかさに加えて、ひな鳥の産毛のごときロクエバチの体毛のふっさふさ、伝わる彼らの生命の温もりが安心感を与えてくれ、ほんのり漂う甘い香りは母の胸に抱かれしあの頃を連想させる。
 人を溺れさせる魔性を秘めた存在。
 うぅ、あらがえない。これは危険だ。
 でもわたしはこうも考える。

「もしも世界中の人々が、この心地よさを知ったならば、つまらない争いなんてすぐにヤメてしまうのではなかろうか」と。

  ◇

 わたしたちの身柄は運ばれるままに、地下通路の深奥へ。
 じきに到達した先にて出現した光景に、わたしたちは絶句。

 都が丸ごと入りそうなほどもある、とてつもなく広大な地下空間。
 宙空には小さな太陽みたいなのが浮かんでおり、ほどよく明るい。気温は春のうららかさ。
 壁面には穴というか、たったいま自分たちが通ってきたのと同じ通路らしきものがズラズラリ。もう、とにかくいっぱい。
 空間の中央にそびえるのは、いろんな大きさのお皿をずんずん積み上げたような形をした、超巨大建造物。
 そしてその周囲をせわしなく飛び交っていたのは、ロクエバチたち。
 集団で動くさまが雲霞のごとし。数はあまりにも多すぎてちょっとよくわからない。

「なんじゃこらーっ!」

 ロクエバチたちが丘の地下にそれっぽい縄張りを持つとは知っていたけれども、よもやこれほどとは……。
 あまりのことに、わたし、あんぐり。

「聖都どころではありません。生体反応がぜんぜん多いですわ、チヨコ母さま」

 ミヤビ、空間内に満ちている気配のあまりの濃厚さに、キョロキョロしっぱなし。

「……ナゾの地下大帝国。これは燃える設定」

 アンは無邪気にこの状況をよろこんでいる。
 あと設定って何?

「これは絶景かな、でござるな」

 ツツミはただただ感心して、地下に広がる神秘の光景に魅入っていた。
 剣の母ことわたしと、その娘である天剣三姉妹がおっかなびっくりしていたら、その騒ぎにて、わたしの背でずっと眠りこけていた愛妹カノンがようやくお目覚め。
 で、開口一番「なんじゃこらー!」と叫んだ。
 いやはや、姉妹にて同じ台詞とはね。
 おねえちゃん、なんだかちょっと照れくさいや。
 そんなわたしたちにはおかまいなしに、こちらをせっせと運び続けるロクエバチの群れ。
 どうやら中央の巨大建造物へと向かっているようである。

  ◇

 お皿を重ねて積んだようなお城の内部は、外観の歪さからは想像もできないほどに整然としていた。
 まるでよく整えられた都市部のように、区画が設けられており、六角形の通路の幅や高さなんかもきちんと統一されている。
 ただし聖都の宮廷のような華やかさはない。
 どこまでも実用性を重視した内部構造にて、一切の虚飾は廃されている。
 そういった点では軍事施設にちょっと雰囲気が似ているけれども、あれらがまとっている堅苦しさや、物々しい空気はない。
 それはここがお城であるのと同時に、ロクエバチたちの生活の場でもあるからなのだろう。あくまで集合住宅の意味合いが強い。そんな印象をわたしは受けた。

 でもって、そんなお城の奥でわたしたちを出迎えたのは、ロクエさんだった。
 他の個体よりも頭ひとつぶん大きく、羽衣が七つの色彩を帯びている、ロクエバチの銀禍獣にして、群れを統べる女王さま。
 とっても気さくな彼女。ポポの里とは友好関係にあり、物々交換でハチミツをわけてくれるばかりか、ときおりお使いにやってきた子どもに「えらいねえ」と特製のアメ玉のお駄賃をくれたりもする。
 でもめっちゃ強い。 
 森の暴れん坊との異名を持ち、全身が鉄のごとき剛毛を誇る、あのごっつい鎧熊(ヨロイグマ)すらもが、あっさり防御を貫通されて、一刺必殺にて昇天させられちゃう。だから人間なんてプスっと即コロリ。ウワサでは美しい羽も武器になるらしい。
 隻眼隻腕隻足の老人だけど、べらぼうに強い剣の達人である里の衛士ロウさんをして「アレはいかん。マジでヤバい」とガクブルさせるぐらいだから、相当なのであろう。願わくば一生お目にかかる機会がないことを、わたしは切に願う。

 ロクエさんがスチャと節々した前足をあげて「やぁ」と挨拶をしたので、こっちも姉妹そろってペコリとお辞儀。


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