6 / 50
006 地下大帝国
しおりを挟む地下通路にてわたしたちを優しく包み込んでは、風に流れる雲のごとく運びさっているものの正体は、無数の羽。
向こう側が透けるほどに薄く、帯のように長く、軽やかでしなやか。
それはロクエバチの羽であった。
ロクエバチ。
五歳児ほどの大きさのハチ。丸みのある体型にて、性格は温厚。六単衣(ろくひとえ)のような裾っぽい羽をひらひらさせながら飛ぶ。その姿は愛らしくもあり、優雅でもあり。
極上のハチミツをこしらえることから、豊穣をもたらす存在として珍重されており、よき隣人となれればおすそ分けもいただけるので、辺境民はみんな彼らの来訪と定住を心待ちにしている。
通路の奥から殺到したロクエバチの大群。
いきなりの接近遭遇にて、あっという間に飲み込まれたわたしたち。
おどろきつつも、あえて抵抗はせずに身をまかせる。
羽の感触の心地よさもさることながら、とても丁重かつ丁寧なあつかいを受けていたからである。害意もまったく感じられない。
にしてもロクエバチの集団のなんと素晴らしきかな。
超絶静音設計にて、羽音ひとつしやしない。それでいてこの極上な肌触り。宮廷に敷かれてある厚手の敷物もふかふかですごかったけれども、コレはその比じゃない。
羽の柔らかさに加えて、ひな鳥の産毛のごときロクエバチの体毛のふっさふさ、伝わる彼らの生命の温もりが安心感を与えてくれ、ほんのり漂う甘い香りは母の胸に抱かれしあの頃を連想させる。
人を溺れさせる魔性を秘めた存在。
うぅ、あらがえない。これは危険だ。
でもわたしはこうも考える。
「もしも世界中の人々が、この心地よさを知ったならば、つまらない争いなんてすぐにヤメてしまうのではなかろうか」と。
◇
わたしたちの身柄は運ばれるままに、地下通路の深奥へ。
じきに到達した先にて出現した光景に、わたしたちは絶句。
都が丸ごと入りそうなほどもある、とてつもなく広大な地下空間。
宙空には小さな太陽みたいなのが浮かんでおり、ほどよく明るい。気温は春のうららかさ。
壁面には穴というか、たったいま自分たちが通ってきたのと同じ通路らしきものがズラズラリ。もう、とにかくいっぱい。
空間の中央にそびえるのは、いろんな大きさのお皿をずんずん積み上げたような形をした、超巨大建造物。
そしてその周囲をせわしなく飛び交っていたのは、ロクエバチたち。
集団で動くさまが雲霞のごとし。数はあまりにも多すぎてちょっとよくわからない。
「なんじゃこらーっ!」
ロクエバチたちが丘の地下にそれっぽい縄張りを持つとは知っていたけれども、よもやこれほどとは……。
あまりのことに、わたし、あんぐり。
「聖都どころではありません。生体反応がぜんぜん多いですわ、チヨコ母さま」
ミヤビ、空間内に満ちている気配のあまりの濃厚さに、キョロキョロしっぱなし。
「……ナゾの地下大帝国。これは燃える設定」
アンは無邪気にこの状況をよろこんでいる。
あと設定って何?
「これは絶景かな、でござるな」
ツツミはただただ感心して、地下に広がる神秘の光景に魅入っていた。
剣の母ことわたしと、その娘である天剣三姉妹がおっかなびっくりしていたら、その騒ぎにて、わたしの背でずっと眠りこけていた愛妹カノンがようやくお目覚め。
で、開口一番「なんじゃこらー!」と叫んだ。
いやはや、姉妹にて同じ台詞とはね。
おねえちゃん、なんだかちょっと照れくさいや。
そんなわたしたちにはおかまいなしに、こちらをせっせと運び続けるロクエバチの群れ。
どうやら中央の巨大建造物へと向かっているようである。
◇
お皿を重ねて積んだようなお城の内部は、外観の歪さからは想像もできないほどに整然としていた。
まるでよく整えられた都市部のように、区画が設けられており、六角形の通路の幅や高さなんかもきちんと統一されている。
ただし聖都の宮廷のような華やかさはない。
どこまでも実用性を重視した内部構造にて、一切の虚飾は廃されている。
そういった点では軍事施設にちょっと雰囲気が似ているけれども、あれらがまとっている堅苦しさや、物々しい空気はない。
それはここがお城であるのと同時に、ロクエバチたちの生活の場でもあるからなのだろう。あくまで集合住宅の意味合いが強い。そんな印象をわたしは受けた。
でもって、そんなお城の奥でわたしたちを出迎えたのは、ロクエさんだった。
他の個体よりも頭ひとつぶん大きく、羽衣が七つの色彩を帯びている、ロクエバチの銀禍獣にして、群れを統べる女王さま。
とっても気さくな彼女。ポポの里とは友好関係にあり、物々交換でハチミツをわけてくれるばかりか、ときおりお使いにやってきた子どもに「えらいねえ」と特製のアメ玉のお駄賃をくれたりもする。
でもめっちゃ強い。
森の暴れん坊との異名を持ち、全身が鉄のごとき剛毛を誇る、あのごっつい鎧熊(ヨロイグマ)すらもが、あっさり防御を貫通されて、一刺必殺にて昇天させられちゃう。だから人間なんてプスっと即コロリ。ウワサでは美しい羽も武器になるらしい。
隻眼隻腕隻足の老人だけど、べらぼうに強い剣の達人である里の衛士ロウさんをして「アレはいかん。マジでヤバい」とガクブルさせるぐらいだから、相当なのであろう。願わくば一生お目にかかる機会がないことを、わたしは切に願う。
ロクエさんがスチャと節々した前足をあげて「やぁ」と挨拶をしたので、こっちも姉妹そろってペコリとお辞儀。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる