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005 地下通路
しおりを挟む石切り場にて発見された古代遺跡っぽい地下通路。
先頭に勇者のつるぎミヤビ、殿(しんがり)には魔王のつるぎアン、わたしの手には大地のつるぎツツミ。
とはいっても、通路の広さが大人三人がどうにか並んで歩けるほどしか幅がないので、本来の姿ではムリ。天剣三姉妹には、白銀のスコップ、漆黒の草刈り鎌、金づち姿にて配置についてもらう。
可能なかぎりの安全対策を施してから、いざ冒険へ出発。
興奮して気がはやり、ともすれば勝手に先へトコトコ駆けだしそうになるカノンに手を焼きながらも進んでいくうちに、わたしはあることに気がついた。
「あれ? ここってばやたらとキレイなんだけど」
天井や壁にはところどころ苔が生えていたりして、相応の歳月の経過を感じさせる。
でも床はキレイだ。こまめに掃き清められた玄関先に近い印象を受ける。
長らく誰も立ち入っていなければ、土埃のひとつでも落ちていそうなものなのに……。
「チヨコ母さま、空気がちっともよどんでおりませんわ」先頭をゆくミヤビも「はて?」
「……現役なのに古代遺跡? ぷぷぷ」アンが鎌首を小刻みにふるわして笑う。
しかし微妙に笑いのツボがズレているらしく、わたし的にはいまいち。
「はっ! もしや、どこぞの悪の秘密結社がここをアジトとして使っているのではござらぬか」ワケのわからないことを口走るツツミ。
秘密結社って何のこっちゃい。しかも悪限定って。
◇
ひたすら緩やかに下っていく通路。
まったく変化のない道程につき、とっても退屈。
最初の興奮もどこへやら。早くもカノンが飽きた。「つまんなーい。あとつかれたー」
御年七歳の美幼女は「もう歩けない」と根をあげたので、わたしがおんぶをする。
こう見えてわたしはけっこう体が強い。
先祖伝来の丈夫さを土台にして、農業従事者ならではの生活が頑強さを育む。
加えて常日頃からミヤビに乗剣しては飛び回っているから、体幹がすこぶる発達しており、アンにぶら下がっては懸垂をしたり腹筋をしたり、ツツミを少し重くしてぶん回したりと鍛錬は欠かさない。
なぜなら剣の母となったことで、食生活に変化が生じたからだ。
行く先々にて歓待される機会が激増にて、わりと美食飽食気味。油断していたらえらいことになる。あっという間に子ブタちゃん。
諸事情によって止まっている成長期。かといって横に延びないという保証がない以上、けっして油断はすまいよ。
ひさしぶりに背負った妹はちょっと重くなっていた。
スクスク成長している証拠である。うれしい反面、姉としてはちょっとさみしくもあり。
どれほどかわいい子犬もいずれは立派な成犬になるように、人もまた成長する。いつまでも小さいままでいてくれたらいいのに。そんなことをちょっぴり考えてしまうのは、神さま、罪ですか?
ぽわぽわ乙女の詩みたいな思考をしていてたら、いつの間にやら背中が静かになっていた。
耳元に聞こえてくるのは安らかな寝息。ひと肌に触れて揺られているうちに、カノンは眠ってしまったらしい。
わたしは少し速度を落とし、足音に気をつけながら、地下通路を歩き続ける。
◇
愛妹カノンを密着状態にて独占するという至福の時間は唐突に終わった。
「チヨコ母さま、前方から何やら反応が! えっ、なんですの、この数? 多すぎ……」
一行の先頭にいた白銀のスコップ姿のミヤビ。その警告が最後まで発せられることはなかった。
通路の奥の闇に、ひらりと何か薄衣のようなものが舞ったとおもったら、ものすごい突風が吹いて、たくさんの何かがわたしたちの上下左右を駆け抜ける。
膨大な数。何かが通路内を埋め尽くす。
わたしはとっさにカノンをかばって、目をとじた。
音はしない。でも何かがたくさん飛んでいる?
それらがカラダにぶつかってくるのだけれども、痛みも衝撃もないからふしぎだ。まるで上等な衣の袖でそっと頬を撫でられたような。
柔らかい感触に全身が包まれる。おどろきや恐怖、警戒心がするりとどこぞへ失せた。
いつしか背負っているカノンごとわたしのカラダは宙に浮かんでいた。
周囲に満ちる何かに運ばれ、ふわりふわふわ。
わたしたちは地下通路をずんずん奥へ奥へと運ばれてゆく。
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