18 / 50
018 夢の夢
しおりを挟む地の底へと向かって、ぐるぐると渦を巻いている螺旋階段。
階段の外側の壁には小さな扉がずらり。子どもが四つん這いになってようやく通れるような大きさ。室内は異様に狭く、大人がかろうじて横になれる程度の広さしかない。
奥行のある竃(かまど)みたいな構造。まるで棺の中みたい。
でも圧迫感はそれほど感じない。内部の空気もよどんでおらず、息苦しさはなく、温度調節もされているのか絶妙に居心地のいい空間。
「ここは一番狭い寝室だよ。狭い方が落ちつくって人たちに好評なんだ。理由はわからないけれども、ひょっとしたら人間の中にも、まだネコみたいに野生の欠片が残っているのかもしれないね」
一つ目の少年バクメが先導してくれながら、そんな説明を口にする。
階段の内側にも扉がある。こちらは通常の大きさの扉。
なかには寝台が四つ並んでいる。簡素な造りにて地方の街の安宿といった風情。
「そっちは相部屋だね。ひとりじゃ落ちつかないって人もいるから。でも、おかしいよね。他人のイビキや寝息がないと眠れないとか」
階段をおりるほどに、いろんな寝室が次々にお目見え。
部屋の造りや広さも豪華になっていく。
けれども階段をいくらおりてもおりても、いっこうに底へと到達しそうにない。
ふくらはぎがパンパンになり、いい加減うんざりしてきたところで……。
「ねえ、この階段ってばどこまで続いているの」
わたしがたずねると、先を歩く一つ目の少年バクメはこともなげに言った。
「どこまでって、どこまでもだよ。なにせ人は満足することを知らないからね。そんなにがっつかなくても、いずれはイヤでもぐっすり永眠できるのにねえ」
睡眠を欲し、安眠に飢え、快眠を求め試行錯誤し奔走する。
そこに費やされる労力や時間たるや、いかばかりか。
だというのに、真からの眠りを得られるのは死を迎えたとき。
どれほど請い願おうとも、手に入るのは人生の末期。それも体感できるのはほんの一瞬だけ。
なのに飽きもせず、諦めもせず、なんのかんのと理屈をこねては追い求めている。
そのくせいざ手に入る段になると「イヤだ」と死におびえる。
「中途半端に知恵を持ったのがよくないのかなぁ? 考えなくてもいいことに夢中になって、肝心なことがおろそかになりがちなんだから。本当に人間ってのはヘンテコな生き物だよ。おねえちゃんもそう思わない?」
一つ目の少年バクメの言葉に、わたしはうなづくことも、首を横にふることもしない。
ただなぜだか、この子について階段をおり続けることが、ちょっと怖くなってきた。これ以上深く潜ってはダメだ。きっと戻れなくなる。そんな気持ちが唐突に胸中に湧く。
だからわたしは「もう、この部屋でいいよ」と最寄りの扉を指差す。
すると一つ目の少年バクメは「そう」と大きな目を細めただけで、「ではごゆっくり」とさっさとどこぞに行ってしまった。
ぽつんとひとり、部屋に残されたわたし。
なにやら懐かしい雰囲気のある内装の室内。
そう感じたのも当然だろう。なにせポポの里にある実家の自室にそっくりな空間であったのだから。
どうやったかはわからないけれども、バクメ少年の言っていた通り、地上で注文した寝具類一式が、いつの間にやら運び込まれてある。
のろのろと寝床を用意したわたしは、準備を終えたとたんに身を投げ出し、ごろん。
何やらまぶたが重い。体が火照り思考もぼんやりして、どうにも集中できない。
猛烈な眠気にあらがえない。
「夢の中で、また夢を見るとか。ヘン……な……の……、すぴー」
◇
わたしは夢を見ていた。
とはいっても、特別な内容ではなくって、ポポの里でのありふれた日常。
日の出とともに目を覚ます。
農家の娘として育てられた長年の習慣。
手早く支度を整えて、朝食の前に畑の様子を見ておこうとするも、外はあいにくのどしゃぶり。
父タケヒコが「こんな天気だし、今日は休みにしよう。たまには家でゆっくり過ごすのもいいだろう」と言った。
急にすることがなくなったわたしは、朝食後に自室でごろごろ過ごすうちに、二度寝。
はっと目を覚ましたところで、時刻はすでにお昼前。
ヒマだったので昼食の準備を手伝おうと台所に向かうも、母アヤメから「いいから、チヨコちゃんはゆっくり休んでいなさい」と言われて追っ払われた。
昼食後も雨はざぁざぁ降り続いている。
愛妹カノンにせがまれて、彼女の部屋にて絵本を読み聞かせているうちに、二人そろってウトウトお昼寝。
痛みで目が覚めた。
寝返りをうった妹の裏拳が鼻面に当たったせいである。続いて鳩尾を蹴り飛ばされて、わたしは寝台から転げ落ちた。ぐふっ。
気持よさげに寝ているカノンをそっとしておき、わたしは自室へ戻ることにする。
その途中、ふと自分の花壇の様子を見ておこうと思い立つ。
玄関扉に手をかけたところで、扉が勝手に開いて向こう側から母が姿をあらわした。
「あらチヨコちゃん。花壇ならだいじょうぶよ。お母さんが見ておいたから」
外に出る用事があったついでに様子を見てきてくれたという母。
わたしは礼を述べてきびすを返す。
けれどもすぐに、今日はまだワガハイに水をあげていなかったことを思い出す。
ワガハイとはわたしが飼育している単子葉植物の鉢植え禍獣のこと。自分の花壇に落ちていた種を植えたら、なんか生えてきた。黄色い花でゆらゆら揺れ、博識だけど難解な言葉を駆使した多弁を誇る。声マネも得意。
あの子はわたしの才芽が込められた水を与えないとネチネチうるさい。
だから井戸に向かおうとするも、今度は父が玄関扉の前にいた。
「水なら台所の水瓶のやつを使いなさい。今朝、汲んだばかりだからキレイだよ」
この雨の中、わざわざ外に出て井戸まで行く必要はないと告げられ、「それもそうか」とわたしは台所へ。
でも、その足はすぐにハタと止まった。
何かがおかしい。
これは夢。
それはわかっている。
そして夢なんて存在自体が荒唐無稽でヘンテコで、まともじゃないということも理解している。心の悲鳴だったり、願望の発露だったり、自分の中のいろんなモノが入りまじって構成されるということも。
だからこそ、この夢はおかしい。
降り続ける雨、お休み、甘える妹、やたらと親切な父と母……。
どうしてみんながみんな、わたしが外へ出ようとするのをイヤがるのかしらん?
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる