剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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019 夢と現

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 くるっと方向転換。わたしは台所へと向けていた足をふたたび玄関へ。
 すると今度はカノンの姿が扉の前にあった。
 あれ? たしか自分の部屋で昼寝をしていたはずなのに……。

「おねえちゃん、こんな雨の日にどこへいくの? それよりもお部屋でいっしょに遊ぼうよ」

 にっこり愛らしい笑みを浮かべて、姉に甘えてくる妹。
 妹に甘えられて断るなんて、姉にあるまじき行為。
 だからわたしもにっこり微笑んで「そうだね。何して遊ぼうか」と妹を連れだって彼女の部屋へ。
 と、見せかけて急速反転。
 いっきに玄関扉を突破しようと試みる。
 だが失敗!
 いつのまにか父と母が出現し、扉の前に並んで立ちふさがっていた。

「これから嵐が来そうだから、今日はおとなしく家にいなさい、チヨコ」と父タケヒコ。
「妹の面倒をみてくれるだなんて、チヨコちゃんは本当にいいお姉さんね」と母アヤメ。

 あいかわらずまぶしいばかりの美形夫婦。
 よく見知った容姿に、声も話し方も、漂う雰囲気やニオイまでもが、まちがいなく自分の両親。
 なのに中身がちがう。
 そんな思いばかりがどんどんとわたしの中で膨れあがっていく。

「どうしたの、おねえちゃん? お部屋に行こうよ」

 背後に立つ妹が「はやく」とうながしてくる。
 わたしはその顔をまともに見れない。
 とにかく外に出なければ。
 その時、廊下の窓が目に入る。
 しめた! そちらに駆け寄り開けようとするも、窓はビクともしない。
 わたしはその場を逃げ出す。他の窓や勝手口に活路を求めるも、どこも同じ。
 ならばと今度は自室へ向かう。
 部屋の隅っこの床板がはずせるようになっており、その奥にはひそかにこしらえた自作の抜け道が存在している。幼き頃、抑えきれない冒険心が高じて作ったモノ。まさか本当に使う日が来ようとは……。
 が、床下にあるはずの穴がない!
 抜け道は完全にふさがっていた。

「ちっ、ここもダメか。この分だと、やっぱり外に通じているのは玄関扉だけみたいだね」

 軽く舌打ちをして、どうしたものかとわたしは思案する。
 いかに夢の中のことにて本物じゃないとはいえ、幻影の家族をボコるのは不本意極まりない。
 というか、ニセモノとはいえ愛妹に手をあげるなんて、わたしにはムリ。姉道を標榜する第一人者としては断じて否。
 さて、どうしよう……。
 わたしが思い悩んでいると、ドンドンドンと自室の扉を叩く音。

「ここを開けなさい、チヨコ」と父タケヒコ。
「おいたはダメよ、チヨコちゃん」と母アヤメ。
「遊ぼうよぉ、おねえちゃーん」と妹カノン。

 完全に追い詰められた格好にて万事休す。
 しかしわたしはこれを好機へと転ずる。
 あえて自分から扉を開けた。
 とたんに室内へとなだれ込んできた三人。しかし室内にいるはずの相手の姿がどこにも見当たらずに、キョロキョロ。
 その時、わたしの身は扉の裏にあった。物陰に潜む際に、ちんまい体と薄い胸板が最大の効果を発揮する。
 一瞬の隙を突き、わたしは部屋の外へと飛び出す。そのまま廊下を玄関に向かってひた走る。
 すぐさま背後から追ってくる気配を感じつつも、一心不乱に駆ける。
 玄関まであと少しというところで、伸びてきたたくましい腕は父タケヒコのもの。
 わたしはこれをひょいとかわし、そのまま突っ込むようにして玄関の扉を開けた。

 視界が光に包まれる。

  ◇

 パチリと目覚めたわたしは、ガバッと起きるなり寝台から飛び降りる。
 そのままスタスタと向かったのは外部へと通じる扉のところ。
 扉を開けたら、一つ目の少年バクメが立っていた。

「その様子だと、どうやらお気に召さなかったらしいね。そのまま幸せな夢の中にいれば楽なのに、どうしてわざわざ起きてしんどいおもいをしたがるかなぁ。
 安らかな眠りを求めて、夢見心地を享受したがるくせに、いざ、それが簡単に手に入るとなったら、これを拒絶する。
 まったくもって人間は不可解極まりないよ」

 やれやれと肩をすくめて首をふった一つ目の少年バクメ。すっと身をよけて道をあけてくれる。

「行っていいの?」

 ここまで手の込んだことをしておいて、あっさりと手を引く。
 そのことを訝しむわたしに少年バクメは言った。

「いいも、わるいもないよ。ここは怠惰の街。惰眠と夢を貪るところだもの。
 夢と現。どちらに重きを置いて、どちらを主とするか。それを決めるのは当人次第。
 どちらが本当の世界だとか、どちらが正しいとか、ことの真偽はわりとどうでもいいんだよ。しょせんは認識のちがいでしかないのだから。大切なのは自分がどちらを本当に欲しているかなんだから。
 例えば、森を歩いていておっかない禍獣があらわれたら逃げ出すでしょう?
 それはべつに悪いことじゃないでしょう?
 むしろそれは懸命な判断と行動だよね?
 意固地になったからってどうにもならない。愛や努力や根性ではどうにもならないことなんて、世の中にはいっぱいあるからね。
 現実と夢の関係もそれと同じだよ。
 せっかくいい避難場所があるのに使わないなんてもったいない。立派な別荘を持っていたら、しっかり活用しないと。
 まぁ、おねえちゃんみたいな人にはあまり理解できない考えかもしれないけど。
 いわゆる見解の相違というやつかな?
 というわけで、ムリにひきとめるつもりは毛頭ないよ。
 でも、いちおうは言っておくね」

 くどくどした長台詞のあと、恭しく気取った仕草にて頭をさげた一つ目の少年バクメ。

「あなたさまのまたのご来訪を心よりお待ちしております」


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