剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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020 憤怒の街

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 よくわからない世界にて七つの街を巡る旅。
 最後を飾るのは憤怒の街。
 それはこれまで立ち寄ってきた場所とはまるでちがっていた。
 大きな門には支柱があるだけ。扉はなく出入り自由。そればかりか街を囲う外壁すらもない。
 ただし、門の脇には立て看板があってこう書かれてある。

『この先、憤怒の街。汝、衝動のおもむくままに敵を屠り、戦場を駆けよ』

 意味がわらかず、わたしは首をかしげつつも門をくぐる。
 街並みはない。渓谷の底のような道が真っ直ぐ奥へと延びている。
 ひたすら歩き続けていると姿を見せたのは、筋骨隆々の巨漢。
 背に黒々とした大剣を持ち、鋼の肉体という表現がぴったりの一つ目の戦士。
 彼もまたバクメと名乗る。

「よく来たな。ついて来い」

 案内されて向かった先は、ひらけた盆地。大きな鍋のような地形をしている。
 鍋の底には、怒号と剣戟、雄叫び、悲鳴、絶叫が満ちていた。
 そこでは東西にわかれた二つの軍勢が激しく殺りあっていた。
 はじめて目にする本格的な戦争。
 わたしは圧倒され、ただ呆然と立ち尽くすばかり。
 そんな小娘に一つ目の戦士バクメが告げる。

「さぁ、東でも西でも、好きなほうを選ぶがいい」

 どちらかの陣営に属して戦闘に参加しろなんぞと、無茶を言い出す一つ目の戦士バクメ。
 当然ながらわたしは拒絶する。

「そんなのイヤだよ」

 すると一つ目の戦士バクメがとある方向を指差す。

「あれを目にしても、か」

 そこには見知った顔が大勢いた。
 父タケヒコ、母アヤメ、妹カノン、神父さま、里長のモゾさん、隻眼隻腕隻足の衛士ロウさん、鍛冶師のボトムさん、呪い師のハウエイさん、幼馴染みのサンタやポポの里のみんな……。
 他にも影矛のホランやケイテン、影盾のカルタさん。紅風旅団のアズキ、キナコ、マロン、ドルア。パオプ国の女将軍シルラさんや語り部のギテさんのみならず、ディッカ姫にウルレンちゃんの姿まで。クンルン国でともに試練の迷宮に潜った女用心棒ゲツガ、そこで出会ったレイナン帝国の第二十三番王子アスラとお供のブルス老。南海の争乱のおりに知り合った海の民ダゴンのヨスさんやネクタルにその父親のヨンドクさん……。
 これまでの人生の中で良縁奇縁にて結ばれ交わった人たち。
 多少の差はあろうとも、みんなわたしにとっては大切な人たち。
 それが凄惨で無情な争いに呑み込まれていた。
 戦い、傷つき、次々と倒れていく。

 その光景を目にした瞬間、わたしの中で何かが爆発した。
 それは憤怒の感情。
 かっと血が熱くなり、全身を駆け巡り、怒りが満ち充ち、いまにも勢いのままにあふれだそうとする。
 自分の大切な人たち。それを理不尽に踏みにじり傷つけるすべての輩に対しての怒りが殺意へとかわる。

「うううううううぅ」

 獣じみた咆哮。
 自分の口からもれているそれが、妙に耳に遠い。視野が狭まる。
 だというのに一つ目の戦士バクメの声だけが、よく届く。

「なにを躊躇している? そうしている間にも、おまえの大切な者たちがどんどんと犠牲になっているのだぞ? 武器を手にとれ! 戦え! 敵を叩きのめせ! 蹂躙しろ! 衝動のままに殺してしまえ!
 でなければおまえが大事な物を失うことになるのだぞ?
 ためらうことはない。ここは憤怒の街。衝動を解き放つ場所」

 檄を飛ばすかのようにして、まくし立てる一つ目の戦士バクメ。
 彼の言葉がわたしの思考を浸蝕し、怒りを煽り、殺意を助長する。
 バクメはさらに言った。

「この世界はしょせんは泡沫の夢よ。すべては精神と魂だけのことにて、なんら気兼ねすることはない。さぁ、憤怒を受け入れるがいい。そして己を開放し闘争を楽しめ。存分に血と暴力に酔え」

 先ほどまでの強い口調からは一転して、戦士バクメが甘くささやく。
 その声はたいそう心地よく、するりとこちらの中に入ってくる。

「それもそうだよね。ここは現実じゃない。なら……」

 わたしは目を閉じ、拳をギュッと固く握った。

  ◇

 うつむいたまま小声でぶつぶつ。
 あまりにもか細いわたしのつぶやき。
 内容がよく聞きとれない一つ目の戦士バクメが「何だ? どうした?」と腰を曲げて顔を寄せてくる。
 いい具合に間合いに入ったところで、すかさずくり出したのは左の拳。
 わたしは躊躇なくバクメの大きな一つ目、そのど真ん中をぶち抜く。
 予想外の不意打ち。至近距離にて回避できなかった戦士バクメは「ぎゃっ」と悲鳴をあげた。
 痛みのあまり顔面を抑えてのけぞる巨漢。
 その隙に続けてわたしの右の拳が狙ったのは、彼の股関。
 深い踏み込みから、肘を内側にねじ込むようにして放った拳が的を完璧にとらえる。
 グキリとイヤな感触。芯がなか折れしちゃったかも?
 でもまだわたしの攻撃は終わらない。右に続き左の拳をかち上げ気味に放つ。昇竜のごとき勢いが股下の釣り鐘をパアァンと打ち鳴らす。そしてダメ押しとばかりにもう一度、右の正拳突き。
 股間に集中する三連撃。
 いかに屈強な戦士とて、殿方である以上はここをやられたらイチコロ。
 大地に伏し悶絶する一つ目の戦士バクメ。

「ちが……う。おまえの相手は向こうの……」

 脂汗だらだら、抗議してくる涙目のバクメ。
 無様な姿を冷たく見下ろし、わたしは告げる。

「いいや、ちがわない。東? 西? そんなの知ったこっちゃない。わたしの敵はあんただ! あんたは超えちゃあいけない一線を越えた」

 そう。わたしは怒っていた。
 自分の家族を、大切な人たちのあんな姿を見せられて、とても怒っていたのだ。
 怠惰の街でのことだけでもはらわたが煮えくりかえりそうであったのに、ここでもまた同様のことをされた。
 わたしの憤怒を開放するためだか知らないが、愛妹カノンを利用した。
 もはやかんべんならぬ!
 その行為、万死に値するっ!


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