剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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021 超絶技

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 グツグツ鍋を煮るようような音。それはくぐもった低い笑い声。
 発したのは一つ目の戦士バクメ。
 股間を重点的に攻撃されてうずくまっていたというのに、ゆらり立ち上がる。
 ひょうしにカラダがひと回り大きくなった。影が濃くなり、全身から発せられる怒気が熱を帯びて、周囲を陽炎のようにゆらめかせる。

「やってくれたな小娘。やさしくしておればつけあがりおって。シャムドからは『適当に弱らせ溺れさせろ』と言われておったが、もうヤメだ。おまえはつぶす。心と魂を粉々に打ち砕かれて、生きる屍となるがいい」

 一つ目の戦士バクメが背に持つ黒の大剣の柄に手をかけ、いきなり振り下ろしてきた。
 自分の何倍もある大男からの問答無用の攻撃。
 でも遅い! チカラにものをいわせた、とても稚拙な剣。これまでにわたしが観てきた武人たちと比べたら、てんでお話にならない。どうやらこいつはとんだハリボテ野郎だったみたいだ。
 わたしは冷静に対処。踊り子のごとくクリンと華麗に身をひるがえし、剣をかわす。
 黒い大剣が地面を砕くのを尻目に、わたしが左の拳にて撃ったのは、剣を握るバクメの手の甲。中指のつけ根からちょい手首寄りの箇所。ここってばどれだけ鍛えようとも、肉付きは薄く骨と薄皮と血管がモロ見え。足のスネほどではないけれども、バシッと叩かれたら子どものチカラでも涙目になるのだ。
 拳打の衝撃が骨を伝わり手のひら全体に広がる。
 これによりうっかり剣をとり落とした一つ目の戦士バクメ。あわてて武器を拾おうとする。
 前かがみの姿勢となったことで、無防備にさらされることになるのは臀部。
 すかさず背後にまわりこんだわたしは、ここで右の手刀を放つ。

 幼少のみぎり。いまは亡き偉大なる祖父の薫陶を受け、素手で辺境の固い土を春夏秋冬、ガシガシ掘り続けたことで身につけた技。
 これが第一の天剣・勇者のつるぎミヤビに乗剣して飛び回ることで鍛えられた体幹によって大幅に強化される。加えて第二の天剣・魔王のつるぎアン、第三の天剣・大地のつるぎツツミらとともに重ねた修練が合わさった状態が、現在。
 かつて、手負いとはいえ神聖ユモ国の武の頂に君臨する八武仙の一人、フェンホアの菊門をぶち抜き屠ったときよりも、さらなる進化を遂げた超絶技が、ここに炸裂する!

  ◇

 渾身の一撃を喰らって、一つ目の戦士バクメが声にならない悲鳴をあげた。
 巨体が柵を超えるウマのようにぴょんと跳ね、よろよろと数歩進んだところでパタッと大地に倒れ伏し、泡を噴いてぴくぴく痙攣。
 わたしはトドメを刺すために近づこうとするも、その足をすぐに止めた。
 いつの間にか戦士バクメをかばうようにして立ちふさがっていた六つの影。

「よもやこの状況にもかかわらず、単身にて素手で大男をぶっ飛ばすか」

 一つ目の老人がフムフムとアゴ先を撫でながら感心している。

「その小さなカラダのどこにこんなチカラがあるのやら」

 倒れている同胞をチラ見しながら、ややあきれ顔の一つ目の痩身の男。

「容赦なき一撃。見事見事、痛快なり」

 どこか楽しそうに尻尾をゆらゆら振っていたのは、頭に王冠をのせた一つ目の獅子。

「いやん、あんなぶっといので貫かれたら……。想像するだけでゾクゾクしちゃう」

 腰をくねくねさせて身悶えている一つ目の男女(おとこおんな)。

「これだから見ためばかりで、中身が空っぽの男はいやなのよねえ」

 艶めかしい流し目にてパチリと片目を閉じてみせたのは、起伏に富んだ肉体を持つ一つ目の女。

「やれやれ。手元に天剣がないというのに。おねえちゃん、すごいね」

 パチパチと称賛の拍手を贈ってきたのは、一つ目の少年。

 強欲、暴食、傲慢、嫉妬、色欲、怠惰、そして倒れている男を入れて、七つの街にてバクメと名乗っていた者たちが勢ぞろいの図。
 見た目も中身もまるでちがう六人と一頭。
 なのに、いざ集結してまとめて対峙したら、わたしの目にはすべてが同じように見える。
 そんなこちらの困惑を察したのか、くすりと笑みを浮かべたのは怠惰の街を預かっていた一つ目の少年バクメ。

「そう。おねえちゃんの感じた通りだよ。ボクたちは一人であって一人じゃない。七身一体、全員そろってバクメなのさ」

 六人と一頭の姿がぼやけてにじむ。ぐにゃりとなって唐突に空へとのびた。中空の一点にて複雑にからまりあい、混ざりあう。
 混沌の大玉となり、しばらくグネグネ、ボコボコしていたとおもったら、粘土細工のように変形して姿をあらわしたのは、大きなカメのバケモノ。
 垂れ流された下水の汚泥をかき集めたような色。
 顔はしわくちゃの老人にて、甲羅には七つの顔が浮かんでいる。七つの街を預かっていた者たちの顔。
 すべての顔に瞳はなく、闇を貯めた虚ろな黒穴がぽっかりとあいていた。


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