剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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037 数字

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 ロイチン商会の二階は主に男性向けの商品があつかわれており、一階の煌びやかな雰囲気とはがらりと変わって、落ちついた色味の空間となっていた。
 で、三階は家具やら美術品なんかがいっぱい陳列されている。
 ここでわたしがおもわず「へー」と感心したのは、相談窓口の存在。
 工房より派遣された職人が常駐しており、お客からの要望に応じていたのである。既製品を販売するだけでなく、客の好みに対応するために。
 例えばあるお客が「あの棚が気に入ったんだけど、もう少し幅が欲しいのよねえ」と言えば、「でしたら設置場所の寸法を測って、それに合わせて幅を調整しましょう」なんて細やかなことが簡単にできちゃう。
 これって地味にうれしい。なおかつ、じつはとってもすごいこと。
 なにせ自分の仕事に誇りを持ち、腕一本で生きている職人連中には気難しい者が多い。
 というか、いっつも眉間にシワを寄せて懸命にお仕事をしているせいか、顔面が怖い人が多い。それでいてだいたい口下手。でもそれはしようのないこと。だって「くっちゃべってる暇があったら手を動かせ!」と修業時代から師や先輩より言われ続けたものだから。一人前になってもそれがすっかり染みついている。職人業界あるあるみたいなもの。
 だもんで、お世辞にも愛想はよくないし、客あしらいもうまくない。酒呑みのガラガラ声の強面。あげくに専門用語連発だから、熱心に説明をされても素人にはちんぷんかんぷん。
 これを補うのが奥さんだったり、身内だったり、工房の共同経営者だったりするんだけど、職人のみんながみんな相棒や人間関係に恵まれているわけじゃない。
 そのせいで客と職人の間で意思の疎通が失敗して、完成後にモメることもしばしば。
 それを解消しちゃっているのが、相談窓口。
 係の店員さんが同席して、職人とお客さんとのやりとりを手伝っている。
 しかもこれまたタダでっ!
 ふつうに仲介手数料とかとってもいいぐらいのお仕事をしているというのに!
 おそるべし、ロイチン商会。

  ◇

 四階は催事場のほかに事務所とか会議室とか、商会運営に関わる場所。
 そこの上客用の応接室にて、わたしはようやくシャムドとご対面。
 勧められるままに革張りの豪奢な一人がけの椅子に腰をおろす。愛用の背負い袋はさりげなく足下にそっと置く。
 瞬間、その座り心地のあまりの良さに目をみはった。
 革製品特有の冷たさと上質な感触が心地よい。
 適度な弾力が身体全体をしっかりと受け止めてくれる。安定がもたらす安心。それに付随する幸福感に包まれる。
 幅広いヒジかけに腕を預ければ、ゆったり自然に背もたれへと身をゆだね、ふんぞり返る姿勢となる。なにやら自分がとてもえらくなったような気がしてくるから、ふしぎ。

 極上のお茶とお菓子でもてなされて、しばし歓談ならぬ腹の探りあい。
 とはいえシャムドは百戦錬磨の女商人。口喧嘩では絶対に勝てない相手。さて、どうしたものやら。
 なんぞと内心で考えていたら、シャムドが話しかけてきた。

「お店はどうだったかしら?」
「斬新というか革新的というか、とにかくなんだかいろいろすごかった」

 わたしは率直な感想を述べる。これは本音。
 するとシャムドは「ご満足いただけてよかったですわ。もしも気に入った品があったら遠慮なくおっしゃって。すぐにご用意させていただきますから」と微笑む。
 いろんな意味で代金がとっても高くつきそうなので、わたしは「ほほほほ」と愛想笑いで魅惑の提案を受け流す。
 でもって、ごちゃごちゃ考えてみたけれども、どうにもいい考えが浮かばない。
 そこでここは自分の特権を活かすことにした。

「ねえ、シャムドさん。貴女はこれだけ成功しているというのに、どうしてわざわざ危ない橋を渡っているの?」

 いきなりズバっと斬り込む。
 遠慮はしない。忖度もしない。なぜならわたしことチヨコはまだ十一歳のお子ちゃま。そしてお子ちゃまの辞書に「気遣い」や「配慮」なんぞという小難しい文字はない。
 そう。ずっと疑問だったのだ。
 海を越えてこちらの大陸にまで侵略の手をのばすレイナン帝国。その悪事に加担する理由や真意がどこにあるのか。彼女ほどの才覚があれば、稼ぐだけならば他にいくらでもやりようがあるはずなのに……。

 卓上の駆け引きでは到底及ばぬ格上を相手にして、わたしは正面から突撃を敢行。
 これに対してシャムドは「はぁ」と深いタメ息。

「いきなりズケズケ踏み込んでくるのね。まったく、駆け引きも何もあったものじゃないわ。せっかくあれこれ丸め込む方法を考えていたのに。これだから子どもは……。
 最初っから警戒されまくっていたから、こちらについて色々と周囲から吹き込まれているのだろうとは思っていたけど、まぁ、いいでしょう。だったら教えてあげる。私たちロイチン商会が、どうして帝国に加担しているのかを」

 これまでの取り繕った態度を脱ぎ捨て、本性をあらわにした毒の華。「少し待ってて」と告げて席を立つ。
 すぐに書類を手に戻ってきた。

「まずはこれを見てちょうだい」

 渡されたのはつるつるの上質な紙の束。
 一枚目には真っ赤な文字にて力強く「社外秘」の文字。
 パラパラめくってみれば、細かい文字やら数字が所せましと書き込まれてある。

「それの詳細についてはおいおい説明するとして、とりあえず一番最後の紙に目を通して」

 シャムドに言われるままに見てみる。
 紙の上半分はひと目で読む気を失う細々とした文字列がびっしり。
 けれども下半分はわりとすっきりと整理された内容にて、表が掲載されてあった。
 項目は商業、産業、農業、軍事力、人口、土地などなど多岐に渡っている。そして項目ごとに二つの数字が横並び。
 しかしその二つにはずいぶんと激しい差が見られる。
 それこそ十倍二十倍どころではない箇所もざら。

「これは?」
「左が帝国、右が商連合オーメイよ。悲しいけれども、それが現実なの」

 あくまで手に入った情報をもとにした概算だとシャムドは補足するが、それにしたってこれは……。
 もしもこの情報が本当だとしたら、ロイチン商会の背信行為を一概に責めることはできない。
 だって経済の項目ですらもが、けっこう差があるんだもの。
 まるで大人と子ども。ううん、せいぜいハイハイを覚えたばかりの赤ちゃんだよ。
 これまで不本意ながら何度かかかわる機会があり、少しは知ったつもりになっていたレイナン帝国のこと。けれどもそれは超大なケモノの、ほんの爪の先ほどでしかなかったんだ。
 そのことをあらためて思い知らされ、わたしは愕然となる。手にした書類から目が離せない。


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