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039 口撃
しおりを挟む「これは当人を前にして言うべきことじゃないのだけれども、あえて白状するわ。
じつは私……、はじめはあなたのことが大嫌いだったの。
だって、せっかくすごいチカラを手に入れたというのに、それを行使することもなく、ただただ周囲の状況に流されているように見えたから。
そのくせフラフラといらぬことに首を突っ込んでは、台無しにしてくれちゃうし」
美人から面と向かって嫌いと言われるのは、なかなかキツイ。
そんなわたしの心情なんておかまいなしに、シャムドは告白を続ける。
「まぁ、それは年齢やら育った境遇を考えればしようのないことなんだけど。
ぶっちゃけ嫉妬よ、嫉妬。持たざる者が持つ者へと抱く醜いやっかみ。
でもね、いまはちがうわ。
あなたは天剣に頼ることなく、自力であの夢神バクメを退けた。
私は知っている。散々に利用してきたからこそわかるの。あいつの性質の悪さが。あいつの世界にとり込まれた者は、たいていが快適な夢に溺れてダメになる。よしんば生還しても夢の記憶に引きずられて身を持ち崩す。
だというのに、あなたはちっとも変わらない。
それはあなたが、チヨコという人間が、とても強いから」
嫌いだったど、いまは認めている。ツンとデレが激しく交差。
上げて落としてまた上げて。あげくに悪いようにはしないから自分のモノになれよ。
みたいなことを言われて、わたしの頭はひどく混乱した。
シャムドにこちらを惑わす意図があるのかどうかはわからない。
たんに本音をぶつけてきているだけのような気もする。
うぅ、帝国の情報だけでもいっぱいいっぱいなのに……。
「私なら、誰よりもあなたを、剣の母チヨコを、天剣たちを、高く売りつけられる。よりよい条件を引き出せる自信がある。どうかしら?」
シャムドが言う「売りつける相手」とは、おそらくレイナン帝国のこと。
彼女は国なんぞに義理立てしても意味がない。まずは自分と自分の大切な物を守ることを第一に考えろと、暗にほのめかしているのだろうか。
でもそれは多くの人たちの期待や信頼を裏切ることを意味している。
「売り方次第では帝国の侵略を止められ、なおかつ戦争を回避できるかもしれないわ。アレはアレで儲けられるけど、やっぱり不毛なのよね。処理がめんどうだし、なにより後味もよくないし。
交渉の運び方によっては、より有利な講和条件を引き出すのも不可能じゃない。
あなたの祖国である神聖ユモ国が特別自治区になれれば御の字よ。最悪でも属国は固いでしょう。パオプやクンルン、このオーメイだって。
いい? 剣の母チヨコにはそれだけの価値がある。天剣にはそれだけのチカラがあるの。
でもあまりグズグズしていてはダメ。売り時を見誤れば反転現象が起きる。利点が欠点となり、長所が短所になる」
侵略者に自ら首を垂れて恭順の意を示し安寧をはかる。
速ければ速いほうがいい。逆に遅れれば遅れるほどに利が薄くなり、突きつけられる条件が厳しくなる。
シャムドの言ってることは、いちいち納得がいく。何も間違ってはいない。国や民族の誇りとか矜持とかにこだわって徹底抗戦したところで、待っているのは無残に蹂躙される未来だけだ。国土は荒廃し多くの血が流される。
すべては生き残ってこそ。死んでは意味がないのだ。
わたしの心は激しくグラつく。
「もっとも最悪なのは、いざ戦端が開かれたものの硬直状態に陥った場合よ。
海を超えての大遠征だから、守る側には地の利があり、つけ込む隙もあるでしょう。でもね、向こうはそんなことは百も承知で進軍してくる。ひたすら拡大路線をとり、侵略行為をくり返しているのは伊達じゃない。国家のあり方は野蛮極まりないけれども、こと戦争に関してはどこよりも洗練されている。おそろしく経験を積んでいる。
もしも私が帝国側の指揮官だったら、きっと頃合いを見計らってこう声高に告示するでしょうね。
『剣の母と天剣を差し出せ。そうすれば矛をおさめて、交渉の場を用意し、民草の安全は保障しよう』と」
唐突にシャムドの深緑の双眸が翳った。
暗い目をした彼女の口から紡がれる言葉が重い。
「英雄と称えられる者には二種類いるの。陣頭に立ち続けて華々しく活躍する象徴的な存在と、我が身を犠牲にしてでも大勢を救う者と。
あなたはきっと後者になる。それも望まぬ形として……。
これまで懸命に守ってきた人たちからあっさり手のひらを返されて、疫病神と罵られ、憎まれ、最期には生贄にされる。
そのくせ連中は自分たちを正当化し罪悪感から逃れるために、『彼女は自ら身を捧げた』とかウソっぱちの物語をでっちあげるの」
祖国を、みんなを裏切れないとがんばっていたのに、果てに待つのは悲惨な背信行為。
あんまりにも酷い話だ。でもこれまた「そんなことはありえない!」と言い切れない自分がいることも事実。
しんどいとき、追い詰められたとき、人の心はとても脆くなる。
もちろんわたしの味方をして、守ってくれる人もいると信じている。
でもそれ以上に、憎しみをぶつけてくる者も多いだろう。
つい昨日まで笑いあっていた相手が、鬼の形相となって向かってくる。それはとても悲しいこと、とてもツラいこと。想像するだけで胸が苦しくなって、泣きたくなってくる。
シャムドの話に耳を傾けているうちに、いつしかわたしは黙り込んで、うつむきっぱなしとなっていた。
ただ彼女の話を聞いているだけだというのに、みるみる憔悴していく。意気が消沈し、心が弱っていく。
そんな時であった。
足下に置いてあった愛用の背負い袋がもぞもぞ、「ぷはーっ」と顔を出したのは鉢植え禍獣のワガハイ。
ワガハイには成長逆行なる特技があるので、種と苗の状態を自在に行ったり来たり。これを活かして外出中はたいてい種に戻り土に潜って寝ている。茎がペッキリ折れたらたまらないから。
そんなワガハイが黄色い花弁をゆらゆらさせつつ開口一番。
「もうそのへんでよかろう。いい歳をした大人の女が、虚実を交えて子どもを脅すのは、あまり感心せんなぁ」
ワガハイの言葉に、はっとする。
ウツウツと沈みかけていたわたしの意識が急浮上。
それにともなって、ずっと帯革内にてプルプルふるえている天剣三姉妹がいることにも気がついた。これは警告を報せる合図。
……どうやら、わたしはずっとシャムドから攻撃ならぬ口撃を受けていたらしい。
もしもワガハイが動いてくれなかったら、丸め込まれてしまうところであった。あっぶねー。
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