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045 大暴走
しおりを挟む通常の運行速度を明らかに超過している魔道長連車。
異変の原因を調べようとわたしたちに待機を命じて、単身にて先頭車両へと向かったのは男性の警護の人。
だが、機関車両には入れず。
扉が固く閉ざされており、どうやら何者かに占拠されてしまっているらしい。
ちなみにこのまま加速がさらに進むと、いずれは脱線なる現象を起こし、大惨事になると聞かされて、わたしは「えらいこっちゃ!」
「しかし、おかしくないか? これに搭載されてある魔道機関には厳重な安全対策が施されていたはずだ。一定以上の速度も出ないようになっていたと記憶しているが」とは女性の警護役の人。
速度制限、出力調整、緊急停止、侵入防止に操作権限の確立……。
首都の中を走行するがゆえに、かつてないほど安全面に技術がつぎ込まれている。
それらがまったく機能していない。
「やすやすと賊の侵入を許し、操作系統が奪われたことからして、なんらかの方法で無効化されたとみるべきだろう」
ゆゆしき事態に男性の警護役の人の表情は険しい。
たとえ機関車両の奪還に成功したとて、権限のないものにはあつかえないから、暴走は止められない。またこんなことを仕出かすような阿呆どもが、素直に説得に応じるとも思えないし。
どうやら今回の事件はかなり周到な計画にもとづくものらしい。
けれども、わたしにはいまいちピンとこない。だって……。
「そもそもの話なんだけど。魔道長連車なんかを占拠して何がしたいの? この乗り物ってば地面の線に沿ってしか動けないんだよね? だったらどこにも逃げられないと思うんだけど」
最新技術の塊みたいなからくりだから、これ自体が目当てということも考えられるけど、だったらわざわざ走行中を狙う意味がわからない。
まぁ、走行中がもっとも警備が手薄だから狙ったのかもしれないが、いろいろ苦労して奪取したところで進路は決まっている。どこにも逃げられない。
あとは乗客もしくは車体そのものを人質にとっての交渉とか。
けど、これもやっぱり行きつく先は袋小路だとしか思えない。
「いったい何がしたいのかしらん」
わたしが首を傾げていると、ガタンゴトンという走行音が、ガタガタガタガタと連続したものにかわり、車両全体がびりびり震え始める。
車窓の外を流れる景色がこれまでの勢いとはまるでちがう。どうやらさらに加速したらしい。
すると男性の警護役の人が「まさか! 連中、脱線事故そのものが目的か?」と真っ青になった。
なにせこの魔道長連車事業は公房会の肝入り。
もしも大事故なんて起こせば、どうなるのかなんてあらためて口にするまでもない。
でもって、そんなことを目論むのは誰かという答えも。
「やれやれ、次から次へと」
わたしは肩をすくめる。要人暗殺、誘拐事件のお次は交通機関への破壊工作……。まったく、いい歳をした大人のくせにロクでもないことばかりする。
しようもないことにかける熱意と人員と予算があるのならば、ちがう方面でもっとがんばったらいいのに。そんなのだから北部と南部の差がひらく一方なんだよ。あと無関係な人を巻き込むな。ばーかばーか。
と、ひとしきり心の中で毒づいてから、わたしはそんな本心は億尾にも出さずに、シレっと言った。
「まぁ、細かいことはおいおい考えるとして、とりあえず乗客の安全を確保しようか。人命第一」
◇
まず乗客たちの身柄をすべて最後尾の車両へと移す。
グチグチうるさい輩は説明がめんどうなので、「やかましい」とぶん殴って黙らせた。
客たちの移動が完了したら、連結部分を切り離す。
通常、走行中にこれを行うのは至難なのだけれども、うちにはミヤビがいる。勇者のつるぎの斬れ味をもってすれば造作もない。特殊鉄鋼とかもスパっといけちゃう。
あとは各車両に搭載されている緊急用の停止装置を使って、安全に停車。
やることは単純明快。
なので巻き込まれた人たちの脱出はあっさり完了した。
でも、わたしと警護役の男女の姿はいまだに暴走する魔道長連車の中にある。
機関車両と客車三両からなる四両編成。
はじめは先頭だけを切り離そうかと考えたのだけれども、そうすると後続の三両が団子となって勢いが殺せず、そのまま脱線しかねないとの指摘を警護の人たちから受けた。
だから一両ずつ切り離すことに決めた。ちょっとめんどうだけどしようがない。
二両目を担当するのは女性の警護の人。
「じゃあ、あとはよろしくねー」
「はい、どうかお気をつけて。すぐに応援を手配して向かいますので」
勇者のつるぎの銀閃がひらめき、サクっと分離。
後方に遠ざかる彼女に手を振り、わたしと男性の警護の人は最後の車両の処置へと向かう。
上下のみならず横揺れがけっこうひどくなってきた。うっかりすると舌をかみそうになるほど。
四両編成が半分になったことで軽量化。速度がますます超過している。けど車両が減ったことにより脱線する可能性はかなり低下したはず。
もっともそれはそれで新たな問題の発生を意味していた。それも特大級の。
このままの勢いにて突き進めば、いずれは首都中央にある乗り換え中継拠点へと到達する。各方面からの路線が集まっており、もっとも規模が大きくにぎわっている停留所。そんなところに暴走した車両が突っ込めば、脱線の比ではない大惨事となってしまう。
これを阻止するには、どうあっても先頭の機関車をやっつけるしかない。
ぶっちゃけ天剣(アマノツルギ)のチカラを使えば強制的に動けなくすることは可能だ。
が、やっかいなのがこの移動速度と周囲の状況。
ぶった切ろうが、叩き潰そうが、破片が盛大に飛び散る。小指の爪の先ほどのとても小さな欠片の一つでも、たやすく人の命を狩れる威力を持つシロモノ。そいつが街中で無差別に散布された場合、ちょっと被害の予想がつかない。あと魔道機関の爆発も怖い。
で、いろいろと警護の人たちと相談した結果。
「よし、そんなに脱線したいのならば、存分に脱線させてやろう」ということになった。
場所は街並みが途切れる湾岸沿いのとある区画。
線路が緩やかな弧を描いているところ。
魔道長連車ならばほんのまばたき数度のうちに通り過ぎる程度の距離しかないけれども、そこを逃すとあとはずっと人口密集地になってしまう。
挑戦できる機会は一度きり。
誰がやるのかって?
もちろんわたしだよ。
ガツンといっちゃうぜ。
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