剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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046 九十九件目

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 暴走を続ける魔道長連車。

「海が見えたっ! ではあとはお願いします」

 左前方に脱線させる地点が視認できたところで、最後の客車を切り離す。
 そちらを男性の警護の人に任せて、わたしは白銀の大剣にぴょんと乗るなり、疾走を続ける機関車両と並走する。
 と、いきなり矢を射かけられて、あわてて回避。
 窓を少しだけ開けての攻撃。同時にもれ聞こえてきたのは「我々の崇高な使命を邪魔するな」だとか「革命バンザイ!」とかいうふざけた主張。犯人どもはすっかり興奮しているみたいで、とても会話が成立しそうにない。
 こっちとしてはいちおう最後通告をしようかと考えていたんだけれども、どうやらいらぬ気遣いであったらしい。
 わたしを乗せたミヤビはいったんその場を離れて、先頭車両の屋根の上へと移動。
 ぎゃんぎゃんやかましい遠吠えを聞き流しつつ、わたしが帯革よりとり出したのは金づち。とたんに手元がピカッと光って、姿をみせたのは大地のつるぎツツミの本当の姿である蛇腹の破砕槌。

「頼むよ、ツツミ」
「おまかせあれ、母じゃ」

  ◇

 それは街並みという長い壁の途中にて、ぽっかり空いた穴のような場所。
 海沿いにびっちりと肩を寄せあって並ぶ建物らが途切れた空白地帯。
 いろんな偶然やら時勢などが重なって生まれた空き地。
 個人で所有するには広すぎ、さりとて商業には向かない立地にて、産業で使うにはちと狭すぎる。その中途半端さゆえに開発から取り残された場所こそが、暴走を続ける魔道長連車の脱線を狙う地点。
 魔道長連車が「キキーッ」と甲高い悲鳴をあげながら、緩やかな弧を描く曲線の経路を進む。超過速度と遠心力などが重なって車両が曲線の外側へと傾き、ちょいと小突いてやればいまにも倒れそう。
 目標地点を前にして、機関車の屋根の上を飛んでいた白銀の大剣がひらり。
 車両の右側真横へとつけたところで、すかさずわたしは蛇腹の破砕槌をブンとひと振り。
 ひょうしにピコンと音が鳴る。これはツツミを振ったときのお約束。でもかわいらしい音とは裏腹に、発生したのはすさまじい衝撃。
 これを側面からまともに喰らって、機関車両はあっさり地面から離れた。
 脱線寸前の突進力を孕んだまま、くるくる激しく横転しながら宙を舞う機関車両、狙い通りに沿線ぞいの壁の穴へと吸い込まれる。
 穴が通じているのは海。
 が、ちょっとチカラの加減を誤ってしまった。粉砕しては残骸が雨となって周囲に降り注ぐからと配慮したのが裏目に出た。
 機関車両は失速して手前で落下。浜辺にてゴンガンゴンと三度ばかり跳ねた。盛大に砂を巻きあげてから、ザッパーンと海中に没することに。

  ◇

 いかに砂地だとて、重量のある車両が転がればただですむはずもなく、見るも無残なありさま。そこかしこがバッキバキのべっこべこ。それでもなお原型をとどめているのは、さすがというべきか。魔道機関から怪しげな煙もあがってもおらず、爆発のおそれもなさそうにてひと安心。
 フム。この分では修繕はムズカシそう。これは廃車かなぁ。にしても……。

「しぶといね」とわたし。
「ものすごくしぶといですわ」とミヤビ。
「……この場合はむしろ、車両の安全設計を褒めるべき」とアン。
「いや、それならば絶妙なチカラ加減をしたそれがしこそが、第一の功労者」とツツミ。

 わたし、勇者のつるぎミヤビ、魔王のつるぎアン、大地のつるぎツツミ、チヨコ組からそろってあきれ顔を向けられているのは、今回の事件の犯人たち。そろって目を回してのびている。
 四人の男たちはあれだけの事故に遭いながらも、生きていた。自分たちが破壊を目論んでいた魔道長連車の安全性に助けられるとは、なんたる皮肉であろうか。もっともここから先の人生の安全までは保障されていないけど。
 尋問という名の拷問を受け、あらいざらいを白状させられたあとは犯罪奴隷墜ちにて鉱山送りかな。
 いくら自業自得とはいえ、助けた命が浪費されるのは、ちょっと胸がチクチクするよ。

  ◇

 沈みゆく太陽を前にして、浜辺で膝を抱える。
 夕暮れの海はとてもキレイだけど、なんだか濃い一日だったな。よもやの二連続で事件に巻き込まれるだなんて。
 わたしがちょっと乙女ちっくに黄昏ていたら「おーい」との声。
 警護の男女二人組が約束通り、応援をつれてきてくれた。
 にしても思っていたよりも待たされたね。
 やれやれ、ようやくお役御免である。あとは彼らに任せればいいだろう。
 わたしは立ち上がりお尻についた砂を払ってから、「おつかれー」と笑顔で迎える。

 男性の警護の人が犯人の捕縛やら現場保存の指示出しに忙しい。
 それを尻目に、「遅くなって申し訳ありません。チヨコさま」と頭を下げてきたのは女性の警護の人。「どうにも本部が立て込んでおりまして、人員を用意するのに手間取ってしまいました」
「まぁ、誘拐事件に続いてだから、しようがないよ」

 わたしは気にしてないと謝罪を受け流すも、次に彼女が発した台詞にギョッ!

「なにせ今回のを合わせますと、過激派の関与が疑われる事件が九十九件にもおよんだもので」

 おかげで当局や捜査本部は大わらわ。
 そりゃあ総指揮をとり奔走しているワラシ氏もげっそりやつれるというもの。
 同時多発どころか、乱発乱造にもほどがある!
 北部の過激派ってば、いくらなんでもはりきりすぎっ!
 もっともほとんどがとるに足らない内容ばかりにて、未然に阻止されるか、実行しても速攻でプチっとつぶされているらしい。だからいまのところはまだ大きな被害は出ていない。
 でもって、たまたまわたしが巻き込まれた二件が重大事案に該当する程度のモノであったと。

「……にしても、九十九とはまたぞろ半端な数字だよねえ」
「まぁ、実際に連中のやってることも半端なことばかりですから。あまりにも計画や行動がずさんすぎて、かえって監視の網をかいくぐっていたようです。
 とはいえワラシ氏もその点は危惧しております。百件目が起こる可能性も視野にいれて、気を緩めることなく、首都および近郊は厳戒態勢を敷いておりますので」

 女性警護の人はそう説明してくれたけど、ちっとも安心できない。
 うーん。どうにもイヤな予感がする。


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