その彼氏、俺でよくないですか?

竹野こきのこ

文字の大きさ
2 / 39

第2話 他人と友人

しおりを挟む
 その瞬間、自分のしたことを後悔した。
 簡単に言えば、我に帰ったというのが正しいのかもしれない。
 だけど、目の前の彼女は少しきょとんとして、軽く下を向いてつぶやいた。

「あの……その……困ります」

 黒髪の彼女は、少し震えているように見えた。それを見て少し冷静になった俺は、そうだろうなと思う。いきなり知らないやつに、彼氏と別れろと言われている様なものなのだから。

 隣にいた大人しそうな好青年の彼氏が、あたふたして何かを言いたそうにしている。
「ちょ、ちょっとやめてください」
「なにが?」

 俺はそいつの方を軽くにらんだ。謝ったほうがいいのだろうと思いながらも、イライラしているのがおさまっているわけではなく、威圧するように言った。

「ぼ、僕の彼女なんで……」

 そう言われて無性に腹が立つ。

「きいてるだけじゃん?」

 勢いで抜いた刀を鞘にもどせないとはこの事なのだろう。もはやただのチンピラだ。すると背後から、少し甲高い声が服をつかみ俺を止めた。

「ねぇ。何やってんの?」

 声のする方に振り向くと、髪を一つ結びにした金髪のギャルが、鬼の様な形相で俺を睨んでいる。

「何って、俺はただ聞いただけなんだけど?」

 その瞬間、彼女の短パンから伸びた白い足が俺の肩にめり込む。

「痛って……なにすんだよ」
「は? 逆切れ? あんた、最っ低だね」

 そうすると彼女は、カップルとの間に体を入れるようにして遮った。

「あのさ。別にナンパするなとはいわないけど、カップルねらうとか頭おかしいんじゃない?」
「いや、それよりお前誰なんだよ。なんで見ず知らずの奴にいきなり蹴られなきゃいけないわけ?」

 どう考えても、不良かヤンキーのたぐいの彼女にムッとする。少し強めに声を張り返したが、その目はどこか血走っているのか赤くなっているのがわかる。さらに腕を捕まれ、その子の勢いは全く衰えなかった。

「なに? その子の知り合い? それはそれでストーカー過ぎてキモいんですけど?」
「別に知り合いじゃねぇし」
「じゃあひとめぼれ? それなら、そんなことしないで相手の幸せを願いなよ?」
「そんなんじゃねーし」

 そういうと、彼女は口に手をあて虫けらでも見る様に軽蔑の目を送る。

「知り合いでもひとめぼれでも無いって、ただカップルに嫌がらせしたいだけじゃん……マジむり、生理的にむーりー!」

 彼女が大声でそう言うと、周りの視線が集まるのを感じる。正直ここまで大事おおごとになるとは予想もしていなかった。
 彼女が叫んだのをきっかけに、カップルは何処かへ行ってしまった。

「もういねーし……」
「なにあの子らお礼も言わずどっか行くとかひどーい。まあでも、あたしのおかげでカップルはクズ男から救われたのだ」

 彼女は腰に手を当て高笑いする。短く結んだシャツからすこし白いおなかが見えていた。

「──というわけで、ナンパするならカップルにはすんなよ! ク・ズ・男!」
「いやいや、だからお前誰なんだよ」
「とおりすがりの善良な美少女?」
「自分でいうのかよ……」

「ともかく、クズみたいなナンパしないで、普通に彼女を探しなよ!」

 そういうと、彼女はおれの頬を軽く押し、何かつぶやきその場を後にした。
 カップルにナンパするなよ……か。ただ、疑問だっただけなんだけどな。思い返すと、ただのナンパにしか見えない事に気づく。確かにヤバい奴かもしれないな……。

 それから、俺は帰りの電車に向かった。正直いまから店を見る気にもどこかに遊びに行く気にもなれなかった。まだお昼過ぎ。電車は街に来る人がほとんどで、かえりの電車はありえないくらい空いていた。

 蹴られた肩をさすりながら、車窓から見える景色はまだ明るく流れていくのがわかる。来た時はそんな街並みなんて気にならない位浮かれていたのだろう。ふと、一人になった事を実感した。

 家に着いた俺は、自分の部屋のベッドに倒れこむ。布団にピアスが当たったのを感じた。

「まだ肩が痛ぇ……なんか、色々うまくいかないな……」

 そう呟いた後に、金髪のギャルの事を思い出し腹が立つ。
 でもあいつ、別に最後は普通だったよな……何となく思い返していると別に悪い奴でもない気がしていた。

 気付くと俺は、そのまま寝ていたのだろう。夕飯の匂いと共に窓の外が暗くなっているのが分かる。

「もう19時か……」

 晩御飯を食べ、風呂に入る。いつもと変わらない感じだけど、俺の中ではなにかが違う。だけど今はあまり考えない様にしていた。気分が変わるかと思いイヤホンをつける。

 ジェイソンムラーズの『I’m yours』の断片的にしかわからない歌詞がゆっくりと胸の奥を締め付けていく。このまま死ねばいいとさえ感じるほどに自分の周りだけがキラキラと輝いているように思えて涙があふれた。

 そんな中、音楽をさえぎるように着信が来る。
 スマートフォンの画面に目をやると修平からだった。正直出る気にはなれない。だけどこれからの学校生活が頭をよぎり、ゆっくりとボタンを押した。

「……もしもし?」

 浮かれた声が聞こえると思っていたのだけど、意外にも少し落ち着いた様な声でいつもの勢いは感じなかった。そのせいか感情を押し殺し、いつもの俺ででようと必死で胸の中の闇を押し込む。

「修平? どうしたんだよ?」
「いや……今日は、悪かったな……」
「なんだよ悪かったって。デートは楽しめたのか?」

 よくもまぁ、この精神状態で自然体の様に口に出せるものだと自分でも感心する。

「お、おう……」
「それで? のろけ自慢ならよそでしてくれ。彼女の居ないやつにする話じゃないだろ?」

 そう言うと修平は落ち着いた声で言った。

「優はよかったのか?」
「何が?」
「俺と綾が付き合っても……」

 少し震えるような声は、彼らしくない。なにか後ろめたいのか、それとも裏切ったとでも思っているのだろうか。

「別に、修平が綾を好きで、綾もそれに答えた。それだけだろ?」
 そう恋愛なんてそれだけだ……。

「俺、綾が本気で好きだったんだ……」
「知ってる」
「だから……優がいつ綾を好きになるかって不安で、多分お前はこのままの関係を続けたかったんだと思うけど……本当に悪いな」

 修平は、3人の関係を崩した事を気にしているのだと思った。そんなことまったく考えずにデートしてあわよくばと思っていた俺には何も返せなかった。

「別に、死ぬわけじゃ無いんだし、来週も普通に遊ぼうぜ? それとも二人でいたいから遊べなくなるって話か? それならバイトを増やすさ」
「そうだよな……あんまり気にしてない感じでよかったよ。優に彼女ができたらダブルデートしようぜ!」
「そうだな!」

 俺の精神的には限界だった。うまく話を終わらせ電話を切る。修平の気持ちと、俺のみにくいい感情が混ざり頭の中がいっぱいになりとりあえず泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

歩く15億の花嫁~契約婚約から始まるオフィス・シンデレラ~

YOR
恋愛
恋愛経験ゼロの女性×三人の男たち。じっくりと心の変化を描く、じれキュン・スローストーリー。 亡き祖父の遺言により、巨大財閥の氷の御曹司・神谷瑛斗の「担保」として婚約させられた水野奈月。 自分を守るために突きつけたのは、前代未聞のルールだった。「18時以降は、赤の他人です」 「氷」の独占欲:冷酷な次期当主、神谷瑛斗。 「太陽」の甘い罠:謎めいた従兄弟、黒瀬蓮。 「温もり」の執着:庶民の幼馴染、健太。 「影」の策略:瑛斗を狂信的に愛する、佐伯涼子。 四人の想いと財閥の闇が渦巻く、予測不能な権力争い。 恋を知らない不器用な女性が、最後に選ぶ「本当の愛」とは――。 ※完全にフィクションです。登場企業とは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...