その彼氏、俺でよくないですか?

竹野こきのこ

文字の大きさ
9 / 39

第9話 報告と背景

しおりを挟む
「やらかすとは思っていたけど、まさかそこまでやらかしちゃうとはねー」

 綾に告白みたいな事をした日。バイトが終わると、千佳にその事を話した。

「だって仕方ねぇだろ? 綾が後悔してるみたいだったんだし……」
「それにしても、罪な男だよ。綾さんはどうすればいいんだって言う所だよね」
「ま、まあ……それは俺もわかってるよ」

 暗い弁当屋の駐車場で、千佳は俺の自転車の荷台に腰をかける。短いスカートから開いた白い脚が覗いていた。

「それで、優は綾さんの事まだ好きなわけ?」
「多分……そうだと思う……」
「でも付き合いたいとかじゃないんだ?」

 あやふやな返事のせいで、千佳は気付いたのかもしれない。

 綾と付き合いたく無い訳じゃ無い。
 でも、正直彼女を受け入れられる自信がない。
 俺はその場に、頭を掻いて、しゃがみこんだ。

「よくわかんねーんだよ。付き合いたくない訳じゃないけど、付き合ってくれと言うのも違うっていうか……修平の事気にしてるわけじゃないんだけど」

「そっかー、まぁ優の気持ちの整理がつかないって感じかなぁ?」
「多分。そんな感じかもしれない……」

 そう言って薄暗い中、千佳の方を見ると内腿を過ぎ明るい柄のパンツが見え視点が吸い寄せられて行く。

「ん? どうしたの?」

 俺は慌てて視線を逸らすも、そのせいで余計にその事に気づかれてしまった。

「優、コーラでいいよ?」
「すみません……」

 落ち着いた口調でそう言うと、彼女は荷台から跳ねる様に降り脳天にチョップをかまし叫ぶ。

「やっぱり見とっりんかーい!」
「痛っ……くない……あれ?」

 千佳のチョップは意外にもソフトタッチで、力が入っていないのが分かる。彼女の方を見ると少し照れ臭そうにしているのが意外と可愛らしかった。

 微笑ましく思いながら、自販機で買ったコーラを渡すと恨めしそうな目でみながらそれを受け取った。

「そう言えば気になってたんだけど、俺の事ばっかりな気がしてるんだけど、お前はいいのか?」
「あたし?」
「そもそも、お互い相手と上手く行くようにって話だっただろ?」

 そう言うと、彼女は意表を突かれた様に驚いた表情になる。

「優がそんな事いい出すなんて意外! あんたも心に余裕ができてきたのかな?」
「まぁ、おかげでスッキリはしたかな……」

 千佳は、後ろを向いて仰ぐ様に夜空を見上げる。そのままこちらに振り向くと彼女は呟いた。

「あたしの好きな人はね、年上でお洒落でカッコいい人なんだー」
「えっ……」
「勘違いしないでよ、カッコいいって言ってんの! あんたの訳ないでしょ?」

 一瞬、当てはまるんじゃ無いかと思ったが彼女はすぐ様否定した。

「今の条件で自分だと思うとか、どれだけ自惚れてんのよ」
「あはは、そ、そうだよな……」

 最近、クラスの女子とも話す様になったせいか、千佳の言う通りどこか自惚れているのかもしれない。

「でもね、あたし最近フラれたんだ……」
「は? そんな話聞いてないぞ?」
「だって……言って無いし」
「それ、いつ頃の話?」

 彼女の約束に、『好きな人が出来たら言う』というものがあったのを思い出す。もし最近なら俺は彼女に、それを言わせてあげられない程いっぱいいっぱいになっていたのかも知れないと思った。

「優と会った日だよ……」
「ちょっとまて、会った日は髪を切りに……」

 そこまで言って、俺の中で色々な物が繋がった。なんとなく、もやもやしていたモノが自分の中で大きくなって行くのがわかる。

「お前、なんで……」
「なんでってあんたの方がヤバそうだったじゃん?」

 あの日千佳の目が赤かったのも、長い髪を切ったのも、あんなよくわからない約束をしたのも彼女自身辛かったからなんだろう。

 それなのに、俺の事気にして……なんで言ってくれなかったんだよ……。

「お前バカだよ」
「バカって……てゆうか、なんで優が泣いてんのよ」
「お人好しにも程があるだろ……」

 彼女の気持ちや、それに気付く事が出来なかった自分の情けなさに感情が溢れ出した。

 今更何をしてあげられるかわからない。

「千佳、コーラもう一個いるだろ?」
「今飲んでるし要らないよ」
「家用に持って帰れよ!」
「どれだけコーラ漬けにする気なのよ。自分が落ち着いたからって調子乗りすぎ!」

 そう言った彼女に俺はもう一つコーラを渡した。
 千佳はそれをピンク色のネイルをしている手で、そっと受け取る。

「まあでも、近いうちにあんたに協力してもらう事あるから!」
「ああ、なんでも言ってくれ!」
「本当、今までクールぶってたのはなんだったのよ……」

 昨日まで、自分の隣には綾の様な流されやすくてほってはおけない明るい弱い女の子がいるイメージだった。

 きっと千佳は強く、一瞬の閃光の様に俺を置いてどこかに行ってしまう遠い存在に感じていた。いつの間にか縮まっていた距離感のせいで彼女の不器用なお人好しが顔をだす。



 彼女はそんな事を言いながらも、別れ際笑顔で手を振って帰路に着いた。彼女の姿が見えなくなるのを見届ける。

 自転にまたがり、深く沈んだ夜空を見上げると、さっきまでとは違う寂しさと怖さを感じる暗い空からが見える。

「今、何時だろう……」

 不意に気になって時間を確認すると着信履歴が複数届いているのが見えた。


「修平か……まぁ、そうなるよな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

歩く15億の花嫁~契約婚約から始まるオフィス・シンデレラ~

YOR
恋愛
恋愛経験ゼロの女性×三人の男たち。じっくりと心の変化を描く、じれキュン・スローストーリー。 亡き祖父の遺言により、巨大財閥の氷の御曹司・神谷瑛斗の「担保」として婚約させられた水野奈月。 自分を守るために突きつけたのは、前代未聞のルールだった。「18時以降は、赤の他人です」 「氷」の独占欲:冷酷な次期当主、神谷瑛斗。 「太陽」の甘い罠:謎めいた従兄弟、黒瀬蓮。 「温もり」の執着:庶民の幼馴染、健太。 「影」の策略:瑛斗を狂信的に愛する、佐伯涼子。 四人の想いと財閥の闇が渦巻く、予測不能な権力争い。 恋を知らない不器用な女性が、最後に選ぶ「本当の愛」とは――。 ※完全にフィクションです。登場企業とは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...