その彼氏、俺でよくないですか?

竹野こきのこ

文字の大きさ
17 / 39

第17話 戦友と悪友

しおりを挟む
 まるで戦場にでも向かう気分になる。
 現代の平和な日本で、こんな経験はそうそうある物じゃない。でもきっと今まで見えていなかっただけで、テレビやネットで流れるニュースの裏側では沢山の人が経験している事なのかもしれない。

 カフェを出ると千佳は彼女に、元カレに連絡する様に言った。清水さんは頷き、少し離れた場所で電話をかけ始める。

「なぁ、千佳……大丈夫かな?」

 俺がそう言うと、彼女は黙っていた。
 その姿になんとも言えない不安を感じる。当たり前かもしれないけれど、多分彼女も不安なのだろうと思った。

 話を終えたのか清水さんは戻ってくる。

「なぁ、どう……だった?」

 目線を逸らし、彼女は言う。
 今日の夜22時、ここから1kmほど離れた野田駅の前で待ち合わせする事になった。

 野田駅というのは、俺の家の最寄駅から一駅。地方ならではの綺麗だけど無人の駅。夕方は通勤や多少の人がいるものの夜には人の気配はほとんどなくなる。

 そんな駅で彼はなにをするつもりなのか。あまりいいイメージは湧かない。

「清水さん、彼はなんて?」
「『少し話したいと思っていた』……と、そう言われた」

「なるほど……」

 スマートフォンで時間を見ると17時過ぎ……まだ、待ち合わせの時間までは4時間以上ある。直接話す以上、今出来る事はほとんどないと思う。

「ところでさ、清水さんはなんでそいつと別れたんだ?」
「それ、あなたに言わないといけない?」
「お前らの関係よく見えて無いし……だって、危害を加えたいくらいにこじれてだんだろ?」

 彼女は不服そうな顔をする。
 どちらから別れを切り出したのか、その原因次第で本当に彼が犯人なのか確証が得られるような気になっていた。

「別れを切り出したのは向こうだよ……」
「は? それで別れたんなら恨まれる筋合いはなく無いか?」

 千佳に目をやると、彼女もそれを黙って聞いている様に見える。

「そうよ? 勝手に怒って、勝手に逆恨みされてる……本当に意味がわからない……」

「で、でも怒った理由とかは言ってたんだろ?」
「理由……ねぇ。原因のあなたがそれを聞く?」

「俺……?」

 彼女と知り合ったのはつい先日。心当たりがあるとすれば、声をかけて千佳に蹴られたあの日。

 原因になるとすれば、声をかけた事なのだけど、実際には10秒にも満たない様なやり取りに、彼女らはその場からすぐに居なくなっている。

「本当、つまらない奴よね。私の断り方が気に入らないんだってさ……」
「俺は、嫌がられたと思っているけど?」
「思い通りにならないと気に入らない人だから」

 あの日の記憶を辿る。清水さんの彼氏はおとなしそうな好青年だった様に思う。

「そんな風には見えなかったけどなぁ……」
「人前では優等生だからね。マウンティングしてからは手がつけられないタイプ」

「なんで付き合ってだんだよ……」
「優しそうだし、羽振りも良かったから付き合ったの……そしたらあんなサイコパスだったの」

 正直俺は、ある意味お似合いのカップルだと思ったのだが、口にはしなかった。

「まぁ、それで俺に声かけたわけか……」
「そういう事。それで、長坂はなんであの時私に声をかけて来たの?」

 全く予想していなかったわけじゃないけど、聞かれたく無い質問。

「俺はあの時……」

 そこまで言うと、彼女は俺を目を見ているのを感じる。

「なんで、その彼氏を選んだのか知りたかったんだ……理由は今知れた訳だけど」
「それが理由?」
「うん……」

「どおりで、私の事覚えてない訳だよねぇ」
「まぁ、あの時色々あってあんまり精神状態も良くなかったっていうか……」

「なんだ、つ…………なぁ」
「え、なに?」
「なんでもない……」

 意味深に呟いた事が気になったが、それ以上はなにも言ってはくれなかった。

 ふと、千佳に目をやると腕を組み、退屈そうに壁にもたれ掛かっている姿が見える。

「千佳さんは寝ておられるのかな?」
「起きてるし……ちゃんときいてたわよ」

「ずっと気になってたのだけど、なんでその子と仲良いの?」

 俺と千佳は顔を見合わせた。多分考えている事はだいたい同じだと思う。

「たまたまバイト先に(入ったら居た)入ってきた」

 息はぴったり、むしろわざとハモっている様にも聞こえるくらいだ。

「そ、それだけ?」
「うん、それだけ……ついでに言うと、仕事教える事になったというのも付け加えると完璧」

「まぁ、色々きっかけも有るし話すようにはなるよねー」

「なんていうか……世の中狭いね!」

 俺はこの時、初めて清水さんの自然な笑顔が見れた様な気がした。元々清純派な見た目なだけに、その可愛さの破壊力は抜群だ。

 右手に清純派美少女、左手には美人ギャル……あれ、これ俺刺されるフラグじゃねぇか?

 浅井さんには悪いと思いながらも、そんなしょうもない事が頭を過ぎる。


「ねぇ、二人とも! まだ待ち合わせまでは時間有るし、そろそろ夕飯の時間だし……お腹空かない?」

「そうは言っても、この辺はカフェかカラオケくらいしかないのだけど?」
「はいはい、あたしらはどこで働いているのかなぁ?」
「いや、店は近いけど……うちの弁当はこの3人はみんな食べ飽きてるとおもうぞ?」

 俺はもちろん、千佳も、清水さんだって関係者だ。少なくとも食べ飽きる位には食べる機会はある。

 それに、店の人の反応が気になってしまう。
 だが、千佳はそんな事は気にしないと言わんばかりに、一人で3人分の弁当を買いに行く。

「千佳ちゃんっていつもあんな感じなの?」
「まぁ……そうだな……」
「かわいくて素敵だよね……」
「それは返答しづらいな」

 千佳が弁当を買ってくると近くのベンチと屋根のある小さな公園に向かう。日が沈むのが遅くなっているとはいえ夕方の西日が俺たちを照らす。

 赤く影が伸びていく感じが、小さい頃に外で遊んだ帰り道の様な、どこか懐かしい気分になる。

 弁当を囲って食べていると、いつの間にか3人で自然に会話している事に気づく。俺は嫌悪感を抱いていた清水さんもなんとなく受け入れられるようになっていた。

 目的が果たせたら、どこか一緒に遊びに行けたら面白いかも知れない。そう思ったのだけど、口に出すと死亡フラグが立ちそうな気がして言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―

鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。 そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。 飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!? 晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!? 笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ! ○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

歩く15億の花嫁~契約婚約から始まるオフィス・シンデレラ~

YOR
恋愛
恋愛経験ゼロの女性×三人の男たち。じっくりと心の変化を描く、じれキュン・スローストーリー。 亡き祖父の遺言により、巨大財閥の氷の御曹司・神谷瑛斗の「担保」として婚約させられた水野奈月。 自分を守るために突きつけたのは、前代未聞のルールだった。「18時以降は、赤の他人です」 「氷」の独占欲:冷酷な次期当主、神谷瑛斗。 「太陽」の甘い罠:謎めいた従兄弟、黒瀬蓮。 「温もり」の執着:庶民の幼馴染、健太。 「影」の策略:瑛斗を狂信的に愛する、佐伯涼子。 四人の想いと財閥の闇が渦巻く、予測不能な権力争い。 恋を知らない不器用な女性が、最後に選ぶ「本当の愛」とは――。 ※完全にフィクションです。登場企業とは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...