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本編
第3話
しおりを挟むよくよく考えてみれば、前にだってこんな出来事は何度かあった。
大学に出願しに行った帰り道に闇金業者に襲われたり、ゲイバーで変な薬を飲まされてお持ち帰りされそうになったり…。
1度は父のせいで失いかけた臓器だって、なんとか助かり今も俺の身体の中で機能している。
売られたなら仕方がない。
いつまでもクヨクヨするのは俺の性にあわないし、これでもう怖い人達に追いかけられることもない。
いつもなんとかなってきたし、今回も大丈夫だろう…。
そんな俺の考えが心底甘いということに気づいたのは、今から数時間先の話なのだが。
ある程度身体の自由が効くようになった俺は、ひとまず自分の置かれている状況を確かめる。
どうやら檻に閉じ込められているらしく、周囲には誰もいないどころか物音すらしない。
檻は鳥籠の様な形をしていて、鉄格子の背は逃げられないように高く設計されているようだ。
「さむ…」
ブルッと寒気が身体を走り、暖をとるために肩を抱きかかえる。
寒いわけだ。
着ていたはずの衣類は下着まで全て剥がされ、俺の首にはなぜか金属製の輪がはめられているのだから。
先程ピエロに引っ張られたのは首輪らしきものについた鎖らしく、鎖の端は檻の床に固定器具で頑丈にとめられている。
その隣にはバスタオル程の毛布が置かれていて、俺は寒さに我慢できずにボロボロのそれを肩に羽織った。
「ん?何だこの音…」
どこからか陽気だが不気味な音楽が漏れ聞こえ、聞き覚えのある声が鼓膜に反響する。
『Ladies and gentlemen!!!
マッドハッターのお茶会へようこそ♡
今宵の司会を務めますのは皆様と異界を繋ぐキューピット、マッドハッターでございます。
どうぞお見知りおきを♢』
「あのピエロ、司会だったのか…」
確かにそれらしい事を言っていたなと思い出しつつ、同時に先程の出来事が脳裏を過ぎり身体が身震いを起こす。
そういえば、さっき飲まされた液体はなんだったんだ?
そんなことを考えていると不意に音楽が途切れ、そこかしこから様々な声が一斉に喚き始める。
…いや、喚いているんじゃない。
入札額を叫んでるんだ。
『5000万!いや6000万だ!』
『6600万!』
『7010万よ!』
そんな喧騒が少しずつ収まり始めた頃、コンコンという木槌の音が大きく鳴り響く。
『それではこちらの闇属性古代血族型ドラゴンの卵は、ラズロー様が7680万ユエンでお買上げです☆
つづきましては____』
…ちょっと待て。
ドラゴンの卵?ユエン?
オークションに出品されていたことよりもまず、聞き覚えのない単語が耳をかすめる。
「もしかして俺、とんでもないところに売られたんじゃ…」
やばい。
やばいぞ。
大変なことだけではすまなさそうだ。
そう自覚した途端、先程の余裕はどこにも見当たらず、俺はただ呆然と立ち尽くした。
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